アジアの課題を克服するだけでは、世界で勝てない。なでしこ熊谷キャプテンの指標

COLUMN河治良幸の真・代表論 第105回

アジアの課題を克服するだけでは、世界で勝てない。なでしこ熊谷キャプテンの指標

By 河治良幸 ・ 2022.2.9

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インドで行われた女子アジアカップに出場した”なでしこジャパン”は、準決勝で中国に敗れた。三連覇はならなかったが、最低限の目標である女子W杯の出場権は獲得しており、昨夏の東京五輪を経験していない選手にとって、貴重な国際大会になったことは間違いない。


とはいえ、アジアを勝ち切って世界に行くことができなかった現実は、受け止める必要がある。同時に“超アジアレベル”のオーストラリアと対戦できなかったことも、マイナス要素のひとつだろう。


来年の女子W杯の開催国でもあるオーストラリアが準々決勝で韓国に敗れたことで、日本が勝ち進んでも、対戦しないことが決まっていた。


最大のライバルが敗れたことで「アジアカップ優勝のチャンスが拡大したか」というメディアの質問に対して、岩渕真奈はオーストラリアとやりたかったと本音を明かしながら、次のように語っていた。


「世界から見て、日本というよりアジア(の力)が正直落ちる。そのアジアで、日本は強いんだと証明できるように頑張りたい。サッカーで言ったら、もっともっと勝ちにこだわる。そういう経験を重ねることで、チームとして成熟した時が、W杯で勝てる時だと思う」


守備強度はどうか


そうした基準で見るなら、PK戦の末に敗れた中国戦は、物足りない部分が多かった。結果を見れば2-2で、シュート数は中国の3倍近く記録、ボール保持率も60%を大きく超えた。


宮澤ひなたのクロスから植木理子が先制点を決め、延長前半には長谷川唯のFKから再び植木のゴールが生まれた。もっと決められそうなシーンはあったが、ゴールを奪う部分では、勝利に必要な最低限の結果は出せている。


一方でディフェンスは、スローインの流れからクロスボールをニアで合わされる形で決められると、延長後半にはFKのセカンドボールから、再びクロスにニアで合わせられた。


キャプテンの熊谷紗希は、失点を重ねた理由について「相手が攻め上がってくるところで、いかに後ろが耐えられるか」と語る。


高い位置からボールを奪って攻め切るのが、池田太監督のスタイルだ。その意味では、できている部分もある。しかし韓国戦もそうだったが、相手がロングボールを含めたパワフルな攻撃をしてきた時に、後ろの対応が厳しくなる。全体が下がり、押し込まれてしまうのだ。


後ろに経験豊富な熊谷と南萌華がいるので、跳ね返すことはできるが、チームとしての守備強度は、アジア基準で見ても高いとは言えない。


そのため数字で相手を上回っていても、攻撃でどれだけ脅威を与え、守備でチャンスを作らせないかという部分では、中国戦は勝利に値する内容ではなかったと言わざるを得ない。


ゲーム運びに課題


中国戦は2度リードした状況で、ゲーム運びの課題も見られた。ボールを持っている状態で、積極的に縦を狙っていくのか、自陣で落ち着かせるのかといったビルドアップの使い分けも、あまりできていないように見えた。


熊谷キャプテンは「自分たちがどうゲームをコントロールして行くか。そこは今大会で感じた課題」と振り返り、「最後に守り切るために、どう戦って行くのか。誰がボールをキープして、誰が相手の高い角に運んでいくかの共通認識が大事」と語り、「余計なセットプレーを与えないこと」も指摘した。


そうしたことの積み重ねが、インドの厳しい環境もある中で、後半の強度の低下につながってしまうこともある。池田監督のコンセプトである「ボールを奪う、ゴールを奪う」を愚直に実行しようとした結果でもあるので、あまり後ろ向きなことは言えないが、世界で勝っていくことを考えれば課題になるところだ。


それ以上に感じるのは、韓国や中国を相手に、強度の部分で上回れないと考えた時に、世界を相手にどれだけ戦えるのかということ。その意味でも、このタイミングでオーストラリアと体を突き合わせて欲しかった。


熊谷の言葉


熊谷キャプテンに「次のW杯は11か国ぐらいヨーロッパのチームで、明らかに中国より強い。”ボールを奪う、ゴールを奪う”を、もっとやっていかないといけない?」と聞いてみた。


「そうですね。正直このアジア大会、自分たちは負けていますけど、世界と比べてレベルの高い大会ではありません。自分たちがW杯で勝つとなったら、中国に負けているようでは勝てないし、戦う相手がまったく変わってくる」


そう回答した熊谷は、今大会で課題が見つかったことを前置きしながら「そもそも戦うところというか、戦う相手が違うのは、全員が理解する必要がある」と指摘した。


そのためには自チームで目線を上げて、レベルアップしていくしかない。


「世界で戦っていくために何が必要か。もちろん自分も含めて、ここから考え直す必要はあると思います」


その基準を選手がどう持ちながら、W杯までの時間を過ごしていくのか。筆者の見解を言うなら、次のW杯は8強のうち7カ国が欧州勢で占められた前回大会、さらに言えば東京五輪よりも、確実にレベルは高くなる。


海外移籍のすすめ


正直、現場の力を考えれば、世界一は途方もない目標だが、チームが掲げる以上は池田監督やスタッフはもちろん、選手一人ひとりが突き詰めてやっていく必要がある。


最後に「WEリーグから海外に挑戦するしない以前に、海外の女子の試合を観る選手が少ない」という筆者の指摘に対する、熊谷キャプテンのメッセージを紹介して、今回の記事を終えたい。


「代表に来て、世界と戦って、毎回インパクトがあってというか、ちょっとした衝撃があってというところだけじゃ、たぶん補えないと思う。そう言った意味で普段から、そこで戦う意味は大きなものがあると思う。私自身、どんどん挑戦してほしいなとは思います。本人が行きたいかどうかに関わってくるとは思いますけど、女子のチャンピオンズリーグも観られるようになってはいるので。私の試合は何人か観てくれたりもしているので、身近に感じながら、どんどんチャレンジするべきだなと思っています」


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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