積み上げより競争を選んだ森保ジャパン。 FIFA ワールドカップに向けたチームづくりは間に合うのか?

9月23日アメリカ戦と、27日エクアドル戦。カタールワールドカップ出場国との強化マッチに挑む日本代表、欧州遠征のメンバーが発表された。
目新しい選手は、湘南ベルマーレのFW町野修斗、名古屋グランパスのFW相馬勇紀、グラスホッパー(スイス)のDF瀬古歩夢だ。
彼らを招集した主な目的は、補充だろう。今回は負傷の影響で、FW大迫勇也、浅野拓磨、DF板倉滉の3人が招集外になっている。彼らのポジションは本番でも穴が空くリスクがあるため、町野、相馬、瀬古に声がかかった。
彼らは能力のある選手なので、選出に意外性はない。むしろ驚いたのは、30人を招集したことだ。本来なら町野、相馬、瀬古がいなくても、26人チームで編成することが充分に可能だった。
しかし、代替でプレーした選手がさらに負傷するリスクもあるので、メインとサブに続く第3の層を厚くすることは、リスクマネージメントとして価値がある。
選手選考においても、町野は上田綺世よりポストプレーヤー色が強く、大迫にスタイルが近い。場合によっては、上田より町野が優先される可能性はある。
相馬も同様だ。左サイドハーフは南野拓実や三笘薫が軸になっているが、相馬のようにプレッシングから最終ラインのカバーまで巧みに行えるハードワーカー型の左サイドハーフは、いそうでいなかった。
瀬古はクラブで試合によってはボランチを務めるなど、ユーティリティ性があり、板倉との互換性が高い。それだけでなく、ビルドアップやフィード能力の高さ、左センターバックや3バックの経験も評価できるので、やはり場合によっては、プライオリティが上がるかもしれない。
招集の主目的は怪我人の補充に違いないが、場合によっては、既存のメンバーを落とす可能性がある3人。そんな選手を呼んだのだと思う。
いまだ競争渦中のチーム
ただ、これは良いのか悪いのか。個人的にはネガティブに捉えている。
物事は表裏一体だ。30人を招集して競争が続くことにはメリットだけでなく、デメリットもある。
たとえば6月に行われた日本代表戦の4試合は、ワールドカップに向けてのチームの準備以上に、個人個人のアピールの場としてのスタンスが強かった。それは8月初頭にインタビューをした田中碧も、実感を語ってくれている。その上で、こうも付け加えた。
「これからの9月(の代表戦)もそうだと思いますし、メンバーが決まらない以上はその争いが常にあります。僕自身もそうだし、他の選手もそう。その中でどうやってチームとして積み上げをするのかは、簡単な作業ではないと思います」
メンバーが決まらない以上、常に競争はある。個人がアピールを考える。その中でのチームの積み上げは簡単ではない。
当然のことだが、選手の目標は、まずは自分がワールドカップに出場することだ。日本代表がベスト8を達成するために、何をするか、何が出来るかは、その後の話。最初からベンチで献身的にボトルを渡そうと奔走するわけではない。自分の居場所が決まらないチームで、「チームのために」と汗をかく人間はいない。
連携に乏しかった6月シリーズ
競争にメリットがあるのは重々承知。しかし、本番ぎりぎりまで競争が続けば、全員のコミットが遅れ、チームの積み上げも遅れる。いや、間に合わないのでは?
競争が内包するデメリットは、この9月のタイミングでは看過しがたい。
森保監督は今回のメンバー発表の会見で、ベンチを含めたチームのまとまりの重要性について質問された。
「これまでの活動のときもメンバー外だったり、試合に使ってあげられる選手、プレーできなかった選手は常に出てきている中で活動した。直近の6月やアジア最終予選では、出場時間にかなり差が出ていたが、その中でチームとして問題が出たことはなかった。選手を信用して招集したい」
「問題はなかった」と言う森保監督だが、問題がないことは何らプラスではない。実際、直近の6月シリーズでは立ち位置がこう着した4-3-3に終始し、チームとしての積み上げ、選手間の連係が薄かった。今でも忌々しい記憶だ。
それは4試合が終わった後、「ねらいの細かさが全然足りていない」と三笘が語ったことにも表れている。
問題が無いように見えるのは、表立って波風を立てない日本人集団の特性だ。メディアに不満をぶつけるような『問題』は起きていなくても、積み上げの甘さがあるのは確か。
南アフリカ大会やロシア大会でも、状況的に追い込まれていなければ、選手たちが本音をぶつけ合い、チームの次元が昇華することはなかったはず。
今は最終フェーズ。何らかのきっかけでチームの積み上げ、一体感をブーストさせなければ、本番はヌルッと終わる。あっけなく。
それなのに、9月も競争を続けていいのだろうか。
メンバーを早めに決める意義
今回は直前キャンプに位置付けられる9月の代表戦にもかかわらず、30人を招集し、ぎりぎりまで競争の継続を決めた。個、個と言い続けた森保監督のマネージメントとしては一貫している。しかし、ドイツやスペイン、コスタリカが、個の足し算で勝てる相手とは思えない。連係不足は致命的だ。
最終的にワールドカップのメンバーは、今回の30人に大迫、浅野、板倉を加えた33人から、26人に絞り込まれる。7人が外れるわけだ。
大迫ら3人は、コンディションに問題がなければ当確なので、今回選ばれた30人から7人が消える可能性が高く、その7人と争ってメンバーに残る選手も、現状はボーダーライン上にいる。
つまり、言ってしまえば今回の30人のうち、約半数は本番にいるかどうかわからない、不透明な選手だ。その中でどこまで連係が深まるのか。深める意味を感じられるのか。6月のように、「ねらいの細かさが全然足りていない」試合になるのが怖い。
個人的には、全く逆のやり方を思い浮かべていた。
むしろ6月の時点で、ワールドカップのメンバーを発表してしまえ、と。予備登録も同時に発表し、負傷者が出たらその都度入れ替える。
目的はもちろん、個のアピールを強制終了し、「このチームでワールドカップに行く」と一体感のある積み上げを開始するため。競争を終わらせるためだ。隣にいるのは、もうライバルではない。サッカー人生のクライマックスを共に過ごすことが決まった味方である。
そうしたマネージメントの節目を作っておけば、6月の代表戦も、ワールドカップを見据えて選手間のコミュニケーションが深まり、試合は違う内容になったはず。
積み上げよりも競争を選んだ
これまでの森保監督のマネージメントは、大筋では否定しない。自分とは考え方や好みが違っても、理解してきたつもりだ。しかし、この最終局面においては、フェーズの切り替えが必要だと思う。納得しがたい。
元々9月の代表戦は、本番仕様の26人で行く予定だったが、森保監督の方針が変わり、30人を呼ぶことになった。積み上げの深化より、競争の継続を選んだ格好だ。この最終フェーズ、私の考える最適解とは逆へ、逆へと、森保ジャパンが進んでいる。
競争がぎりぎりまで続くことのメリットと、デメリットはどちらが上回るのか。正直わからない。仮に日本がグループAやBに入り、大会直前の準備がさらに2~3日減っていれば、9月の考え方も本番仕様の26人に変わっていたかもしれないが。
それはともかく。競争を継続する中、個人のアピールに終始し、チームの積み上げが甘くなるデメリットを、どこまで現場で補正できるか。9月の代表戦はそこが焦点だと思う。(文・清水英斗)
写真提供:getty images