ひとつのストーリーが終わった日本代表。求められるのは、新世代のチームへの生まれ変わり

ロシアの地で戦い抜いた日本代表をまとめたハイライト動画を観ていたら、衝動的にアジアカップ2011のハイライト動画を観たくなり、少々の感傷に浸りながら鑑賞させてもらった。
キレキレの香川真司、鋭敏に振る舞う長谷部誠、エネルギッシュな長友佑都、泥臭く戦う岡崎慎司、鬼神のごとき川島永嗣、堂々たる本田圭佑、そして吉田麻也。アルベルト・ザッケローニ監督に率いられた新世代の日本代表がアジアを制したのは7年半前のことだが、“主要登場人物”が、今とほとんど替わっていないことを実感させられる風景である。同時に、彼らが長きにわたって積み上げてきた経験の大きさと、それが失われる重さも。
2014年のブラジルW杯を起点に語られることの多い今回の代表だが、個人的にはこのアジアカップを起点と見なすほうがしっくり来る。この大会で得た自信と気風を武器に羽ばたき始めた新世代の日本代表は、欧州各国で個としても頭角を現わし、そしてブラジルの大地に降り立ち、屈辱に塗れた。
主力が抜け、難しい時期に差し掛かる
絶望的なまでの挫折から這い上がった彼らのストーリーは、ロシアの地で一つの完結を見た。同時に代表引退を宣言した選手もいれば、長友のようにさらなる意欲を漲らせている選手もいるのだが、ここからの戦いはまた別の文脈で語られるべきものになるのだと思う。
「感動をありがとう」などと安っぽく言う気はないのだが、この7年半の過程で人間の強さと凄味を見せてくれたことに素直な敬意があるし、清々しい(すがすがしい)背中を見せてくれたことに感謝したいと思う。
ここからは、新しいストーリーを紡いでいく必要がある。一つのサイクルが終わったのは間違いなく、古今東西を問わず、長く代表を支えていた選手がゴッソリ抜けていくサイクルに入った代表チームには、大きな試練が待ち受けているものだ。
プロ化以降の日本サッカーを振り返ってみても、ポスト・ドーハ世代のファルカン~加茂ジャパンやポスト・黄金世代のオシム~岡田ジャパンが、非常に難しい時期を過ごしてもいる。そういう時代がやって来るのは間違いない。
来年1月に控えたアジアカップ
今大会の主力選手で最年少だったのは、柴崎岳と昌子源のいわゆる“プラチナ世代”だが、彼らは2022年に30歳となる年代である。肉体的な衰えのくるタイミングは個人差が大きいので何とも言えないが、その年に32歳となる大迫勇也や酒井宏樹、33歳になる香川真司、34歳になる吉田麻也や乾貴士の年代にも、過剰な期待はしないほうがいいだろう。
吉田などは新チームのキャプテン有力候補なので、中澤佑二のような鉄人ぶりを期待したいところではあるのだが、“そうでない場合”も考えておく必要がある。
難しいのは、来年1月には新チームの山場となるアジアカップが控えていること。代表監督が誰になるにしても、半年で新世代のチームを形にして大会へ臨む必要がある。これはかなりのハードミッションだ。4年前のアギーレ監督が事前の準備試合で「?」な人選を連発してしまったように、初めてJリーグと日本人に触れる外国人監督なら、なおさら難しいだろう。
ソフトランディングを目指すなら、今回の代表チームをベースに、代表引退したベテランのところに中堅どころの惜しくも落選した選手たち(たとえば中島翔哉や三竿健斗、久保裕也)を付け足すような形のチーム編成でいい。連係面での不安もなく、十分に戦えるはずだ。
4年後、8年後を見据える必要性
監督によってはそういう選択もあるはずだが、今回はリスクを覚悟してのハードランディングを目指していいかもしれない。ちょっと強引なくらいの世代交代に走ってもいい。
というのも、アジアカップは従来ならコンフェデレーションズカップの“予選”としての意味付けがあり、日本代表的にこの経験値は是非とも欲しかった。だが、これは廃止となったので関係なくなっている。また今大会から出場国が24に増え、グループステージが16チームを8チームに絞るシビアな形から、24チームを16チームに絞る少々“ぬるめ”のモノになったことも大きい。
3位でも抜けられる可能性のあるレギュレーションなので、若手にチャンスを与える余地は大いにあるし、そうした選手たちに国際舞台の経験値を蓄えさせておかないと、4年後のW杯はもちろん、8年後のW杯を考えても不安だらけだ。2年後の東京五輪を控える世代についても、変に分離することなく、思い切った抜擢があっていいだろう。
ひとつのストーリーが終わったロシアでの戦いを経て、日本代表は新世代のチームへと、生まれ変わりを迫られることとなる。乏しい経験値の中で思わぬ低迷期に入る恐れすらあるが、活力のある若手が台頭し、一気に活性化していく可能性だってある。
ちょうど2011年のアジアカップがそうだったように、2019年のアジアカップが新たなストーリーを紡ぎ出していく、最初の一歩として機能することを強く期待したい。(文・川端暁彦)
写真提供:getty images