素晴らしかったU-20W杯準優勝。このメンバーから、なでしこジャパンに進むのは誰だ?

”ヤングなでしこ”の、素晴らしい準優勝だった。連覇がかかると言っても、前回がコロナ禍で中止となり、4年ぶりの開催となったU-20女子W杯。1つ上の世代の思いも背負った日本は、グループステージでオランダ、ガーナ、アメリカを破り、3連勝で首位通過を果たした。
準々決勝は強豪フランスと3-3で、延長戦でも決着がつかずにPK戦での勝ち上がりとなったが、準決勝では強豪ブラジルに2-1で競り勝った。決勝のスペイン戦は1-3の完敗だったが、最後まで諦めない姿勢を貫いての立派な準優勝だ。
そして、最優秀選手に贈られるゴールデンボールは、エースとして”ヤングなでしこ”を牽引した浜野まいか(INAC神戸レオネッサ)が受賞した(4得点でシルバーブーツも受賞)。
A代表と兼任する池田太監督は、コロナ禍で国際経験が積めないという難しい状況に言い訳することなく、対戦相手を研究し、直前に5-3-2を採用するなど、相手を驚かせるプランで世界に挑んだ。
国際試合では、日本が相手に慣れる前に失点し、追いかける側になることも多いが、今回は違った。
特にオランダとの初戦は、伝統的な4-3-3の相手にハイラインで襲いかかり、ボールを狩れて鋭いパスも出せる17歳のMF大山愛笑(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)を起点に、浜野と山本柚月(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の2トップが積極的にスペースを狙い、藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)や天野紗(INAC神戸レオネッサ)もどんどんバイタルエリアへと進出した。
ショートカウンターから天野のパスを浜野が受け、裏に抜ける山本にスルーパスが通ったオランダ戦の決勝ゴールは、”ヤングなでしこ”の躍進を予感させるゴールだった。
A代表と同じスタッフ
試合を重ねる中で研究されるのは当然だが、5-3-2をベースにスタメンを適度に入れ替えながら、それぞれの相手に向き合ったことが見て取れた。相手のストロングと自分たちのストロングを突き合わせながら、準備して臨んだことが、アドバンテージになったと評価できる。
また、今回はU-20の大会でありながら、A代表の”なでしこジャパン”が挑む、来年の女子W杯のシミュレーションになっていたことも踏まえて評価する必要があるだろう。
今回のスタッフは池田監督だけでなく、宮本ともみコーチ、西入俊浩GKコーチ、大塚慶輔フィジカルコーチ、寺口謙介テクニカルスタッフが、E-1選手権で優勝した”なでしこジャパン”と共通している。おそらくサポートスタッフの経験も、来年の女子W杯、さらには2年後の大目標であるパリ五輪に向けて、引き継がれて行くのではないか。
今回のU-20女子W杯はアンダーカテゴリーの大会ながら、A代表さながらの精鋭スタッフで臨んだ。”チームジャパン”としての総合力が、準優勝という結果につながったと言える。また、真剣勝負の公式大会にしかない緊張感の中で、池田監督を筆頭に国際経験をプラスできたことは、間違いなく今後の”なでしこジャパン”に生きるだろう。
期待の浜野、山本
大会前から池田監督が期待していたことだが、ここから何人かは、将来的にではなく、次回の”なでしこジャパン”に招集される可能性は十分にある。
U-20と言っても、多くの選手はWEリーグを経験しており、ゴールデンボール獲得の浜野にしても、高校生ながら昨シーズンは神戸で16試合に出場している。3得点でブロンズブーツを受賞した山本も、ベレーザで18試合3得点を記録。新シーズンは”なでしこジャパン”の常連である同僚の植木理子とともに、得点量産が期待される選手だ。
組織としても個人としても高く評価できる準優勝だが、ファイナルでスペインに完敗した事実は受け止める必要がある。4-2-3-1で立ち上がりからハイプレスをかけてくるスペインに対して、ボールロストから日本のお株を奪われるように、ショートカウンターを浴びて、5バックの背後を取られた。
8得点でゴールデンブーツを受賞したFWインマ・ガバーロに胸トラップから決められたゴールは、日本の女子サッカーの常識では考えられないフィニッシュだった。また、3点を追いかける後半は、疲労感の見えるスペインを相手に攻勢を仕掛けたが、屈強なセンターバックのシルビア・ロリスとアナ・テハダに跳ね返された。
後半立ち上がりにトリッキーなセットプレーから、途中出場の天野が1点返したが、安定感のあるGKフォントに阻まれ、流れからのゴールは遠かった。
スペインに限らず、各チームにフィジカル能力の高い選手がいた。そうしたタレントがトップカテゴリーでもまれて成長してくると、A代表ではさらに手強くなってくる。
アンダーカテゴリーとA代表の違い
今回、日本はA代表と同じスタッフのもと、高い組織力を発揮したことが”なでしこジャパン”のプラスにもなると書いたが、A代表の戦いでは、対戦相手もより日本を分析してくる。そうなった時には、やはり個の力がものを言う。
A代表の戦いだと、欧米の列強諸国は日本に対してロングボールやサイドチェンジを効果的に使ってくるし、攻守が切り替わった時に生じるスペースも果敢に狙ってくる。そうしたところは、アンダーカテゴリーより厳しくなるのは明白だ。
今回メインのシステムとして池田監督が使った5-3-2は、”なでしこジャパン”でも有効なオプションになりうるが、組織として完成度の高いチームが相手になった時に、もっと幅広くピッチを使われる中で、弱みが出てしまう部分もあるだろう。そうしたことも踏まえ、A代表に還元できる部分と切り分けるべき部分がある。
なでしこジャパンへどうつなげるか
楽しみなのは、この大会を経験した選手たちがWEリーグや”なでしこジャパン”にどうつなげて行くか。
欧州チャンピオンズリーグで優勝することが目標というセンターバックの石川璃音(三菱重工浦和レッズレディース)は「このあとはもうA代表しかないので、そこを目指していきたい」と語っていた。センターバックはキャプテンの熊谷紗希やイタリアのローマに移籍した南萌華など、浦和の大先輩たちがライバルになるポジションでもある。
同じく海外でのプレーを目標にしている浜野にしても”なでしこジャパン”となれば、エースの岩渕真奈をはじめ、厳しい競争に打ち勝つ必要がある。
今回のメンバーでもボランチの大山や右サイドで驚異的なアップダウンを見せた杉澤海星(大宮アルディージャVENTUS)などは、現在の”なでしこジャパン”にもいないタイプで、池田監督が早々に引き上げる可能性もある。またFW山本も抜け目ない得点力が買われて、勝負どころのジョーカーとして招集される期待はある。
2018年の優勝メンバーも上記の植木や南など、今でこそ多くの選手が”なでしこジャパン”の主力に定着しているが、ベスト16に終わった2019年の女子W杯では何人かがメンバー入りしたものの、戦力として貢献できたとは言い難かった。
その意味でも、同じ監督、スタッフのもとで世界を経験した選手たちの中から、一人でも多くの選手が”なでしこジャパン”に入るだけでなく、主力を脅かし、ポジションを奪うほどの台頭を期待したい。それが”なでしこジャパン”の躍進の力となるはずだ。(文・河治良幸)
写真提供:getty images