明確なテーマを持って成長する“なでしこジャパン”。強豪と戦う11月の欧州遠征が試金石に

来年夏にオーストラリアとニュージーランドの共催で行われるFIFA女子ワールドカップ2023を迎える“なでしこジャパン”は、東京五輪後に就任した池田太監督のもと、順調にチーム作りを進めている。
「ボールを奪う、ゴールを奪う」をコンセプトに、全体をコンパクトにしてボールサイドにプレッシャーをかけ、マイボールになれば積極的に前選択のコンビネーションでゴールを目指す。
監督就任後、最初の欧州遠征ではアイスランドに完敗。0-0で引き分けたオランダ戦も、前がかりになった裏を狙われて何度もピンチになるなど、明確な課題が見られた。
しかし、課題が明確なのはチーム作りにおいて悪いことではない。池田監督は当初からのコンセプトを大きくブラすことなく、中盤での余計なボールロストを無くしたり、ボールを失った直後の切り替えやリスク管理を改善することで、簡単にフリーでゴール前まで運ばれるシーンは少なくなった。
ボランチの成長
目に見えて良くなって来たのが、ボランチの攻守両面での関わり方だ。長野風花(ノースカロライナ・カレッジ)や猶本光(三菱重工浦和レッズレディース)、林穂之香(ウェストハム・ユナイテッド)といった選手が候補となるが、攻撃で中途半端なパスによるボールロストが減り、斜めのパスも正確に付けられるようになった。
守備では、前からボールを奪いに行く要として機能しながら、ロングボールを蹴られた時は、ディフェンスラインと距離が開かないように戻り、相手より先にボールを回収するなど、目立たないが大事な仕事をこなせるようになって来ている。
さらに、池田監督が兼任する“ヤングなでしこ”(U-20女子日本代表)は、コスタリカで行われたU-20女子W杯で準優勝を果たした。結果もさることながら、大会直前に取り入れた5バックを若い選手たちがものにし、堅実なディフェンスと鋭い攻撃を融合させたチームに仕上げたのは高評価に値する。
ここから来年のW杯に何人が食い込むかも楽しみだが、同じスタッフで国際大会を戦い抜いたことは、格好のシミュレーションと経験値アップになったはずだ。
10月の親善試合で2連勝
10月に日本で行われたナイジェリア戦、ニュージーランド戦はどちらも2-0で勝利。そこに“ヤングなでしこ”からMF小山史乃観(セレッソ大阪堺レディース)、MF藤野あおば(日テレ・東京ベレーザ)、FW浜野まいか(INAC神戸レオネッサ)の3人が“なでしこジャパン”に招集された。
3-4-2-1の新システムにトライする中で、三者三様に躍動的なプレーを見せた。とりわけ18歳の藤野は、ニュージーランド戦で2シャドーの一角に入り、宮澤ひなた(マイナビ仙台レディース)とのコンビネーションや個人の仕掛けなど、意欲的な姿勢を示した。
“なでしこジャパン”の充実ぶりは、フレッシュな選手の台頭だけではない。この2試合は岩渕真奈(アーセナル)と長谷川唯(マンチェスター・シティ)という攻撃の主力が不参加だったが、宮澤や杉田妃和(ポートランド・ソーンズ)が、慣れないシステムでも前向きなチャンスメイクから、攻撃に鋭さを加えている。
ナイジェリア戦では、田中美南(INAC神戸レオネッサ)がPKを含む2得点。ニュージーランド戦は宮澤と、1トップでスタメンの植木理子(日テレ・東京ベレーザ)がゴールと、アタッカーが結果を出したのも大きい。
強豪との戦いで真価が問われる
ここまでポジティブな評価を並べて来たが、あくまで国内のフレンドリーマッチの結果であることは認識する必要がある。ナイジェリアとニュージーランドは、来年のW杯で優勝候補になる国よりは一段、二段落ちる相手だ。しかもナイジェリアは欧州屈指の強豪・FCバルセロナの得点源であるFWアシサト・オショアラなどが不参加だった。
それを踏まえてもなお、池田監督が掲げるサッカーのベースが構築され、宮澤や植木、長野などが頼もしくなってきたことは高く評価できる。
ディフェンス陣もキャプテンの熊谷紗希(バイエルン・ミュンヘン)におんぶに抱っこではなく、新たに海外組となった南萌華(ASローマ)、その南がいた浦和を力強く支える高橋はな(三菱重工浦和レッズレディース)の成長により、3バック(守備時は5バック気味になることも)にもトライしやすくなったことはあるだろう。
とはいえ、アウェーの環境などで、FIFAランキング11位の日本よりも上の強豪国やアイスランドやノルウェーといった、サイズのミスマッチが起こりやすい国と対戦しないと、W杯で上位に進出するための課題の本質は見えてこない。
だからこそ11月にスペインで行われるイングランド戦とスペイン戦は大きな意味がある。どちらも10月の試合では、FIFAランキング1位のアメリカを破っており、波に乗っていることもウェルカムな要素だ。
欧州王者イングランドと対戦
FIFAランキング4位のイングランドは、今年8月に行われた女子EUROで強豪ドイツを破り、欧州王者になった。日本は東京五輪のグループステージで0-1の敗戦を喫した相手(イギリスとして参加)で、フランスで行われた前回W杯でも、グループステージで0-2で敗れている。
サイズの大きな選手はいるが、グラウンダーのパスを繋いで崩すという、男子サッカーでも流行している、ボールを動かしながら位置的優位を取る戦い方がうまいチームだ。
なにより、攻撃のスイッチが入った時の鋭さは目を見張る。左ウイングのローレン・ヘンプ(マンチェスター・シティ)など、流れの中では高さよりもスピードを押し出してくる傾向が強い。
日本にとって生命線になるであろうセットプレーでは、178cmのセンターバック、ミリー・ブライト(チェルシー)が危険なターゲットマンだ。
大観衆が予想されるスペイン戦
イングランド戦はスペインのムルシアにある3,000人収容のスタジアムで行われるが、スペイン戦は60,000人のオリンピコ・セビージャが会場となる。
FIFAランキング8位のスペインは、直近の親善試合でアメリカを2-0で破った。2年連続で女子バロンドールに輝いたMFアレクシア・プテラス(バルセロナ)は、ケガにより代表を外れているが、もし欧州最高峰の司令塔がホームゲームで復帰となれば、大きな話題になりそうだ。
スペインの特長は4-3-3をベースとした 多彩なパスワークにある。東京五輪で日本に完勝したスウェーデンを相手に、60%以上のボール保持率を記録するほどで、局面でのデュエルは欧州強豪国のそれだ。
FWアセネア・デル・カスティージョ(レアル・マドリー)やアルバ・レドンド(レバンテ)など、個で違いを作るアタッカーも揃っている。必要に応じて5-3-2を使い分けるなど、戦い方の柔軟性も備えている。
そうした相手に“なでしこジャパン“がどういったパフォーマンスを見せるか。良い結果が出れば、W杯に向けた自信という意味で素晴らしいが、明確な課題が出たとしてもネガティブなことではない。ベースは立ち上げ時より上がっているので、前向きに課題に向き合って行くべきだ。
まずはこのチャレンジに向けて、池田太監督がどういったメンバーをセレクトするのか。海外組が増えて来ているが、国内でプレーするWEリーグの選手にも貴重な経験とアピールの場になるだけに、メンバー発表が注目される。(文・河治良幸)