フリックもエンリケも対応出来なかった森保カメレオン戦術、そのヒントは別競技にあり?

これはある種の「発明」かもしれない。
カタールW杯のグループステージにおいて、森保一監督は試合に向けて異なる戦術を用意し、前半と後半で使い分けるという戦略を実行した。
必殺『超攻撃アタック』は時間限定
ドイツ戦では前半を4―2−3−1でスタートすると、後半から冨安健洋を投入して3−4−2−1にシフト。さらに後半12分に三笘薫と浅野拓磨、後半26分に堂安律、後半29分に南野拓実を送り込み、アタッカータイプ6人が同時にピッチに立った。
スペイン戦では前半を5−4−1でスタートして、後半から3−4−2−1にチェンジ。三笘と堂安を投入してハイプレスを仕掛けた。
ただし、「超攻撃的アタック」を45分間続けるわけではない。あくまで得点を決めるまでの時間限定戦術だ。リードしたら再び「超守備的ブロック」に戻る。
システムを変えるチームはよくあるが、これほど「弱者の戦い」から「強者の戦い」へ針が触れるチームは見たことがない。
ご存知の通り、どちらも日本が後半に2点を奪って逆転勝利。ドイツもスペインも日本の戦い方がカメレオンのように変化したことに度肝を抜かれただろう。失点したあとの両国の狼狽ぶりは、とてもW杯優勝経験国とは思えなかった。CL優勝経験者のハンジ・フリック監督とルイス・エンリケ監督でさえも修正できなかった。
交代枠拡大が戦術運用を変えた
いったい森保監督は、どうやってこの斬新な戦術運用を思いついたのだろう? スペイン戦の翌日、森保監督は囲み取材でこう説明した。
「交代枠が5人になって、サッカーの試合の組み立て自体が変わってきているのかなと思います。
先発の選手がいい形で後半につなぎ、途中交代の選手がまたいい仕事をする。チームとして機能して勝負する。交代の枠の中で何ができるかという現代の試合の形かなと思ってます」
交代枠拡大で試合の組み立てが変わった――。きっと森保監督は交代5人をどうしたらフル活用できるかを徹底的に考えたのだろう。
5人交代させると「チームが変わってしまって戦術が機能しなくなる」とよく言うが、発想を逆転させると、選手を変えたら戦術も変えてしまえばいいのだ。まさに森保監督はそれをドイツ戦とスペイン戦でやった。
柔軟な対応力、フットサルからヒントを得る
また、森保監督は他競技からもヒントを得ていた。
囲み取材の最後に「スペイン人のブルーノ・ガルシアがフットサル日本代表監督を務めているとき、コーチとともに研修を受けたがどんな影響を受けましたか?」と訊かれると、森保監督はこう答えた。
「戦い方のパターンを持っておきつつ、そのうえで選手を型にはめなければ、パターンがたくさんあることが判断につながる。相手が自分たちが採用したパターンを止めてきたときに、判断して他のパターンに変えればいい。フットサルから判断のベースと柔軟性いうところはすごく学ばせてもらいました」
筆者が日本サッカー協会の未来フィールドを訪れたとき、フットサルテクニカルダイレクターの小西鉄平から「森保監督からよくフットサルのことを訊かれるんですよ」と聞いたことがあった。
今回のやり方を「発明」するうえで、きっと森保監督はフットサルのエッセンスから刺激を受けたに違いない。
戦術運用の新たなトレンドになるか
ドイツには「皿の縁を越えて外を見る」ということわざがある。他の業界に目を向け、既成概念にとらわれずに考えろという意味だ。フットサルまでをも参考にしていたとしたら、その探究心に脱帽せざるを得ない。
筆者は4年前、日本代表のチームづくりをテーマにした『アイム・ブルー』(講談社)という小説を出版した。その中で「ブロック守備」、「縦に進むポゼッション」、「エクストリームプレッシング」という3つの戦術をベンチからのサインで使い分けるという話を書いた。まさかそういう空想の世界のことが現実になるとは思わなかった。
斬新かつ合理的。カタールW杯における森保ジャパンの戦術運用は、ヨーロッパの監督たちにも影響を及ぼすかもしれない。(文・木崎伸也)
写真提供:getty images