ミムラユウスケの本音カタール 第13回
2010年、2014年の経験は活きている。『二者択一ではない』日本代表の未来像

FIFA ワールドカップで敗退が決まったということは、次のFIFA ワールドカップに向けての戦いが始まったということだ。
そんな状況で、日本代表の選手たちか次回大会を見すえた話し合いをすでに始めているという事実を見逃してはいけない。
歴史は繰り返される?
今回の日本代表の戦いぶりは、FIFAワールドカップ 2010 南アフリカでのそれと似ているのではないかという意見がある。具体的にはどういうことか。まずは、当時の状況を振り返ってみよう。
あのときの日本代表は本田圭佑を1トップにすえる4-5-1を採用して、守備をしっかり固め、運動量とカウンターを武器に戦った。その結果、日本国外で開催された大会で初めて決勝トーナメントに進出を果たしたわけだが、選手たちの心のなかには、ある種の悔いに近い感覚も一部で生まれていたという。あまりに守備的な戦いをしたうえで得られた結果だった、と。
たとえば、本田と岡崎慎司はあの大会の最終戦となったパラグアイとの試合のあと、ホテルの部屋で濃厚な会話をかわしている。あの大会で日本よりも攻撃的に戦い、なおかつ決勝トーナメントに進出したライバル・韓国代表の戦いぶりを彼らはうらやましく思い、次の大会ではもっと攻撃的な戦いを目指そうと誓い合ったという。
だから、FIFA ワールドカップ 2014 ブラジルにむけて、「攻撃的なサッカーの実現」と「優勝」という目標をかかげ、活動していった。しかし、様々な要因があったとはいえ、本番では1度も勝利をつかめず、グループリーグで敗退してしまった。
では、FIFA ワールドカップ 2022 カタールでの日本代表はどうだったか。
先人たちの経験はしっかりと活きている
確かに、優勝経験のあるドイツやスペインをやぶるという快挙を成しとげたし、「ジャパンタイム」(河治良幸氏命名)と呼ばれるような、攻守ともに超アグレッシブなプレーを続ける時間帯を作った。
しかし、その一方で、守備に回る時間はかなり長かった。詳細なデータが残っている1966年以降で、相手チームに700本以上のパスを回されたチームが勝利したケースは2つしかないのだが、その2つのケースはいずれも今大会の日本が記録したものだった。それくらい相手にボールを持たれ、長い時間、守備に回りながら戦ってきたのが日本だった。
だから、かなりの選手が、今回のような戦い方で勝利をつかむ意義を認めつつも、将来的には攻撃の時間を長くして、真っ向から戦えるようにしたいと話している。
ということは、これからの日本は、ボールを支配して相手の守備を崩していく攻撃的なサッカーを「理想」として掲げて進んでいくのだろうか?
そんな問いに答えるのに最適な選手がいる。今大会2ゴールを決めた堂安律だ。
これからの4年間、日本代表はどのように戦っていくべきなのか。以前のように「理想」を追い求めていくべきか、今大会で見せたような「勝利にこだわる」サッカーを継続していくべきなか。堂安に問いかけると、即座にこんな答えが返ってきた。
「理想を求めて、(なおかつ)勝ちたいです」
『現実か理想か』、ではなく『現実も理想も』
そう考える理由は、以下の通りだ。
「(クロアチア戦後に)ホテルで他の選手たちと話しましたけど、やはりあの時の例は挙がっていて。南アフリカのW杯が終わってから4年間、本田さんを先頭に理想を求めて。でも、次の大会で(グループリーグで)敗退したということを、当時を経験している選手たちが話してくれたんです」
そうした議論を経て、堂安はいま、こう考えている。
「僕らがこの大会で、粘り強い守備をできた部分は、ベースとして持っていないといけないです。そして、そのベースを持ちながら、理想を追いかけるのが良いと思っています」
実に、まっとうな答えだった。
「理想」を追い求めるべきなのか、「現実」的な戦い方をつきつめるのか。ともすれば二者択一の問いのように思える。実際に、FIFA ワールドカップ 2010 南アフリカの後の日本代表は、「現実」を切り捨てて、ひたすら「理想」を追い求めようとしてきた感が強い。
しかし、堂安が言うように、進むべき道は二者択一で決められるものではない。勝つためには強固な守備が必要だという「現実」を認識して、それを土台にする。その上で、ボールを握って世界をあっと驚かせるような「理想」に近づくために努力をする。それが、これからの進むべき道だ。
だから、堂安を中心とした現在の選手たちが、そのような答えにたどり着いたことは大きな意味がある。
もちろん、彼らがそこにたどり着けたのは、かつて日本代表の一員として戦ってきた先人たちが、日本代表のレベルを上げようと汗をかいてきた歴史があるからだ。
次回のFIFA ワールドカップ 2026まで、すでに4年を切っている。時間は十分にあるように見えるが、代表チームの活動はとても限られたものだから、時間はあるようでいて、実はあまりない。
そのなかで、日本代表が進むべき道がクリアになっている。そんな事実は、輝かしい未来を手にするための希望となることを忘れてはいけない。(文・ミムラユウスケ)
写真提供:getty images
そんな状況で、日本代表の選手たちか次回大会を見すえた話し合いをすでに始めているという事実を見逃してはいけない。
歴史は繰り返される?
今回の日本代表の戦いぶりは、FIFAワールドカップ 2010 南アフリカでのそれと似ているのではないかという意見がある。具体的にはどういうことか。まずは、当時の状況を振り返ってみよう。
あのときの日本代表は本田圭佑を1トップにすえる4-5-1を採用して、守備をしっかり固め、運動量とカウンターを武器に戦った。その結果、日本国外で開催された大会で初めて決勝トーナメントに進出を果たしたわけだが、選手たちの心のなかには、ある種の悔いに近い感覚も一部で生まれていたという。あまりに守備的な戦いをしたうえで得られた結果だった、と。
たとえば、本田と岡崎慎司はあの大会の最終戦となったパラグアイとの試合のあと、ホテルの部屋で濃厚な会話をかわしている。あの大会で日本よりも攻撃的に戦い、なおかつ決勝トーナメントに進出したライバル・韓国代表の戦いぶりを彼らはうらやましく思い、次の大会ではもっと攻撃的な戦いを目指そうと誓い合ったという。
だから、FIFA ワールドカップ 2014 ブラジルにむけて、「攻撃的なサッカーの実現」と「優勝」という目標をかかげ、活動していった。しかし、様々な要因があったとはいえ、本番では1度も勝利をつかめず、グループリーグで敗退してしまった。
では、FIFA ワールドカップ 2022 カタールでの日本代表はどうだったか。
先人たちの経験はしっかりと活きている
確かに、優勝経験のあるドイツやスペインをやぶるという快挙を成しとげたし、「ジャパンタイム」(河治良幸氏命名)と呼ばれるような、攻守ともに超アグレッシブなプレーを続ける時間帯を作った。
しかし、その一方で、守備に回る時間はかなり長かった。詳細なデータが残っている1966年以降で、相手チームに700本以上のパスを回されたチームが勝利したケースは2つしかないのだが、その2つのケースはいずれも今大会の日本が記録したものだった。それくらい相手にボールを持たれ、長い時間、守備に回りながら戦ってきたのが日本だった。
だから、かなりの選手が、今回のような戦い方で勝利をつかむ意義を認めつつも、将来的には攻撃の時間を長くして、真っ向から戦えるようにしたいと話している。
ということは、これからの日本は、ボールを支配して相手の守備を崩していく攻撃的なサッカーを「理想」として掲げて進んでいくのだろうか?
そんな問いに答えるのに最適な選手がいる。今大会2ゴールを決めた堂安律だ。
これからの4年間、日本代表はどのように戦っていくべきなのか。以前のように「理想」を追い求めていくべきか、今大会で見せたような「勝利にこだわる」サッカーを継続していくべきなか。堂安に問いかけると、即座にこんな答えが返ってきた。
「理想を求めて、(なおかつ)勝ちたいです」
『現実か理想か』、ではなく『現実も理想も』
そう考える理由は、以下の通りだ。
「(クロアチア戦後に)ホテルで他の選手たちと話しましたけど、やはりあの時の例は挙がっていて。南アフリカのW杯が終わってから4年間、本田さんを先頭に理想を求めて。でも、次の大会で(グループリーグで)敗退したということを、当時を経験している選手たちが話してくれたんです」
そうした議論を経て、堂安はいま、こう考えている。
「僕らがこの大会で、粘り強い守備をできた部分は、ベースとして持っていないといけないです。そして、そのベースを持ちながら、理想を追いかけるのが良いと思っています」
実に、まっとうな答えだった。
「理想」を追い求めるべきなのか、「現実」的な戦い方をつきつめるのか。ともすれば二者択一の問いのように思える。実際に、FIFA ワールドカップ 2010 南アフリカの後の日本代表は、「現実」を切り捨てて、ひたすら「理想」を追い求めようとしてきた感が強い。
しかし、堂安が言うように、進むべき道は二者択一で決められるものではない。勝つためには強固な守備が必要だという「現実」を認識して、それを土台にする。その上で、ボールを握って世界をあっと驚かせるような「理想」に近づくために努力をする。それが、これからの進むべき道だ。
だから、堂安を中心とした現在の選手たちが、そのような答えにたどり着いたことは大きな意味がある。
もちろん、彼らがそこにたどり着けたのは、かつて日本代表の一員として戦ってきた先人たちが、日本代表のレベルを上げようと汗をかいてきた歴史があるからだ。
次回のFIFA ワールドカップ 2026まで、すでに4年を切っている。時間は十分にあるように見えるが、代表チームの活動はとても限られたものだから、時間はあるようでいて、実はあまりない。
そのなかで、日本代表が進むべき道がクリアになっている。そんな事実は、輝かしい未来を手にするための希望となることを忘れてはいけない。(文・ミムラユウスケ)
写真提供:getty images