視野の広さは縁起のいいトンボ!? 至高のベテラン遠藤保仁を昆虫に例えると? “こんちゅうクン”が私的解説!

視野の広さは縁起のいいトンボ!? 至高のベテラン遠藤保仁を昆虫に例えると? “こんちゅうクン”が私的解説!

2021.12.4 ・ Jリーグ

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 幼少期の夢はサッカー選手になることだった。


 プロの試合を見ては、いつもあのピッチに立っていたら自分はどんなプレーを選択するかと想像し、その妄想の上を行くスーパースターたちのプレーに感動した。


 そんな私は、現在、幼少期にサッカーと同等に愛した昆虫に携わる仕事に就いている。「もし、私がピッチに立っていたら」と妄想していたものが、今では「もし、虫たちがピッチに立っていたら――」と考えてしまうまでになった。


 本稿では、今シーズン、ジュビロ磐田のJ2優勝に大きく貢献したベテラン、遠藤保仁を昆虫に例えて紹介したい。サッカーを見ながら昆虫を想い、また、昆虫を見ながらサッカーに想いを馳せる楽しみを少しでも知っていただければ幸いである。


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  周知の通り、遠藤のキックは実に多彩だ。


 十八番の「コロコロPK」や、2010年の南アフリカ・ワールドカップでのデンマーク戦で決めた直接フリーキックは、私たちの記憶に強く残っている。いずれも「シュートはゴールへのパス」というジーコの言葉を思い出させるほど、“優しいゴール”だった。


 去るJ2第38節の2位京都との天王山では、山本康裕とのパス交換から相手の意表をつくアウトサイドでのスルーパスを見せた。鈴木雄斗が完全フリーで抜け出し、決勝点へと結びついた美しい軌道のダイレクトパスは、まさしく遠藤といったプレーだった。「型を持たない」と自負する彼のキックは実に多彩である。


 その多彩なキックは、まるでクモの糸のようだといつも思っている。だが、決して遠藤の手足が長くてクモのように見えるというわけではない。「クモ男」と呼ばれていたのは、元清水エスパルスの名GKシジマールであり、クモは昆虫ではない点もついでにご容赦いただきたい(昆虫ではないが、昆虫と同じ節足動物の近い仲間ではある)。


 クモの糸は実はいろんな種類や使われ方がある。ジョロウグモなどの網の巣では、粘着力のある横糸と粘着しない縦糸を使い分け、クモ自身は粘着力のない縦糸だけを歩いて自滅しないようにしている。


 獲物が網にかかればすぐに駆けつけて糸でぐるぐる巻きにするのだが、その時には1本ではなく数十本の糸を一斉に出してあっという間に包んでしまう。また、糸を這わせてセンサーとして使用する種もいれば、卵から孵った子グモが糸を出して風に乗せ、自らを空へと飛ばす「バルーニング」という飛び技にも使っている。


 足下にピタッと鋭い縦パスを突き刺すこともあれば、歩くスピードの横パスや緩やかな放物線を描くような優しいパスもある。時に厳しく、時に優しい遠藤のキックは、住処にも、武器にも、飛行船にもなるクモの巧みな糸使いを思い起こさせるのである。 遠藤はスピードやフィジカルに秀でたプレーヤーではない。それにもかかわらず、日本代表の国際Aマッチ出場数は152試合で歴代最多。キャリア23年を重ねたJリーグではベストイレブンに12回選出されており、こちらも最多の記録だ。


 類まれなテクニックもさることながら、彼のプレーを支えているのが「眼」である。ボール、選手、敵味方のポジションを瞬時に見極める。誰よりも広く、細かく状況が「見えている」からこそ、状況に応じた最適なプレーを選択できる。


 眼がいい昆虫といえば、やはりトンボである。


 昆虫の眼は小さな個眼が集まってできた複眼になっており、トンボの個眼は1~3万個ととりわけ多い。この複眼は、解像度こそ高くないが、動体視力に優れ、視野がずば抜けて広い。

  童謡で「とんぼのめがね」と歌われるほど、その眼は特徴的で、頭部のほとんどを占めるほど巨大だ。トンボは高速で飛びながら他の虫を捕らえたり、ナワバリに侵入した他のトンボを追い出すために眼を働かせ、広い範囲も近い範囲もよく見ているのである。


 遠藤はトンボのようにフィールド全体がよく見えている。まるで空飛ぶトンボがフィールドを俯瞰しているかのようである。そのプレーに驚きや感動を覚えるのは、彼にしか見えていないパスコースやプレーが存在し、それが見ている者の想像を超えてくるからではないだろうか。1人だけ少し先の未来が見えているような、そんな印象すら覚える。


 ジュビロ磐田のホームタウンである磐田市には「市の昆虫」で、絶滅危惧種でもあるベッコウトンボが生息している。実は今シーズンに磐田は夏の3連戦で、このベッコウトンボがデザインされたユニホームで闘い、2勝1分と好成績を残した。トンボは前にしか進まないことから縁起のいい「勝ち虫」とされ、古くは鎧や兜のデザインとして使われてきた。


 遠藤の持つトンボのような広く、そして細かな「眼」も、ジュビロの勝ちに大きく貢献したのは間違いない。いまやベッコウトンボのような磐田のシンボルとして定着してきている。 遠藤はよく“マイペース”と言われる。確かに動きがゆったりとしていて、スプリントすることは滅多にない。全速力のダッシュが少ないのは、あえてしないようにしていると本人が語っているように、ボールのコントロールが難しくなるのを避け、そのなかでプレーを選択しているからでもある。


 一見するとマイペースに見える遠藤のプレーは、フィールドで幾度も思考し、検討し続けたうえで、状況に応じて最適解を見出しているのだ。


 ギフチョウというチョウをご存じだろうか。「春の女神」と称され、この美しいチョウに会えるのは春のみという貴重な虫である。春に成虫が現れ、卵を産み、孵化した幼虫は初夏にさなぎになる。さなぎは夏も秋も冬もじーっと動かずにただ次の春を待ち続ける。


 昆虫といえば夏のイメージがあるかもしれないが、ギフチョウはセミがどんなに鳴き叫ぼうと、モンシロチョウが1年間のうちに何世代を繰り返そうと、1年に1度、春にだけ成虫へと羽化する「マイペース」を崩さない。

  ギフチョウは早春に新芽を出すカンアオイという植物に卵を産む。もし、夏に羽化してもうまく産卵できないどころか仲間にも会えず、生き残ること、命を繋ぐことはできない。あえて春にだけ成虫になる生き方を選択しているようだ。そして、この春にだけ現れるというマイペースさがギフチョウの魅力のひとつにもなっている。


 もっとも、昆虫は例外なくみんなマイペースである。その生き方は人間から見れば、大変に見えたり、不思議に思えるかもしれないが、昆虫たちにとっては自然界で生き残るために、長い年月をかけて進化してきた最適な生き方でしかないのである。


 昆虫と同じように、遠藤も長い年月をかけてサッカーの世界で生き残るためのプレーを作り上げてきた。マイペースに見えるプレーは決して自分優先なのではなく、経験の蓄積から生み出されたサッカーへの適応だ。


 41歳のベテランがさらに経験を積み、私たちの想像を超える彼らしい“マイペース”なプレーがさらに進化するのを、今からとても楽しみにしている。


文●こんちゅうクン


【著者プロフィール】

こんちゅうクン(北野伸雄)/1985年、静岡県浜松市生まれ。九州大学農学部生物資源環境学科で昆虫について学ぶ。チャバネアオカメムシの卵に卵を産みつける寄生バチの研究がテーマ。2014年より磐田市竜洋昆虫自然観察公園の職員として、昆虫の楽しさや面白さ、奥深さを子どもから大人まで幅広い世代に伝えている。2020年から磐田市竜洋昆虫自然観察公園の館長就任。

記事提供:サッカーダイジェストWEB

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