久保建英の選択を検証する―― “ちょうどいい”条件が揃うビジャレアルは理想的な環境だ

久保建英の選択を検証する―― “ちょうどいい”条件が揃うビジャレアルは理想的な環境だ

2020.9.24 ・ 日本代表

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 マジョルカでブレイクした久保建英の新天地がビジャレアルに決まり、リーグ戦が開幕した。将来のレアル・マドリー復帰を視野に入れる19歳の逸材にとって、これはベストな選択だったのか。クラブ規模やサッカースタイル、定位置を争うライバルとの比較など、様々な観点から改めてサッカージャーナリストの西部謙司氏に検証してもらった。(※『サッカーダイジェスト9月10日号(8月27日発売)』より転載)

 

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 ある選手にとって、あるクラブが「最適」かどうかなど、実は誰にも分からないと思う。それは結婚と似ているのかもしれない。新婚当初はベストだと思っていた相手なのに、やがて上手くいかなくなったりする。それに上手くいったとしても、他の誰かでもそうなったのかもしれない。


 ある程度の好ましい条件はあるとしても、そこを最適なクラブにするかどうかは選手、クラブ双方の努力と運次第だ。最適か否かはあらかじめ決まっているわけではなく、最適にしていくものなのだ。


 それを前提としたうえでだが、久保建英のビジャレアル加入は“良い縁談”のように思える。


 ビジャレアルはラ・リーガで安定的に上位をキープできるクラブだ。昨季は5位で今季のヨーロッパリーグ(EL)出場権を手に入れた。ヨーロッパのコンペティションに出られるということが、まず久保にとって良い経験になる。またビジャレアルは小さな街なので、国内の強豪クラブの割りにプレッシャーが少ないのもいい。若い選手が落ち着いてプレーできる環境がある。

  マジョルカ時代のように、守備に追われることもない。ビジャレアルは伝統的に攻守のバランスが取れていて、戦術的にもしっかりしたプレースタイル。特殊な戦法は用いないので馴染みやすいはずだ。今季限りで退団したサンティ・カソルラ(カタールのアル・サッドへ移籍)の後釜との位置付けは若干荷が重いが、35歳の大ベテランと単純に比較されることもないだろう。また、かつてセビージャやパリ・サンジェルマンを率いた新監督のウナイ・エメリから学ぶことも多いはずだ。


 レアル・マドリーやバルセロナほどではないが国内有数の強豪で、その割りにはプレッシャーが過度ではなく、さらに実績のある監督がいて、ELにも出場できる。久保にとって「ちょうどいい」条件が揃っている。


 ビジャレアルの人口はおよそ5万人。ホームスタジアムのエスタディオ・デ・ラ・セラミカは、閑静な住宅地の中に唐突に現われる。チャンピオンズ・リーグ(CL)にも出場するようなクラブの実力と街の規模はアンバランスと言っていい。 クラブの躍進は1997年のフェルナンド・ロイグ会長就任に始まる。もともとバレンシアのファンで大株主だったロイグが、当時2部のビジャレアルの会長になったのは、経営する世界的タイルメーカー『パメラ・セラミカ』の工場が近郊にあり、また知人に勧められたからという、かなりあっさりした理由なのだが、就任後は大規模な補強や育成改革に着手。2005-2006シーズンには初出場のCLでベスト4、さらに2007-2008シーズンにはラ・リーガで過去最高位の2位と、まさしくシンデレラストーリーを実現した。

 

 ロイグ会長は世界的な資産家である。ビジャレアルはビッグクラブではないが、リッチクラブなのだ。だから創意と工夫でのし上がってきたスモールクラブというのは美しい誤解である。かつて所属していたファン・ロマン・リケルメやディエゴ・フォルランなども、資金力があればこそ獲得できたのだ。ただ、潤沢な資金を的確に投資してきたのも確かで、定評のある育成をはじめ、地に足のついた強化を続けてきた。

  今季はバレンシアの主将だったダニエル・パレホが中盤に加わり、前線には今季のスペイン人得点王、ジェラール・モレーノがいる。久保がポジションを争うのはサムエル・チュクウェゼ、モイ・ゴメス、マヌ・トリゲロスあたりになりそうで、レギュラーを確保されているわけではないが、マドリーでプレーするよりはチャンスが大きいのは間違いない。

 

 結局のところ、若い伸び盛りの選手にとっては実戦を積み重ねることが何より大切だ。さらに良い環境と適度な競争が必要だが、その点でビジャレアルはかなり理想的ではある。

 

文●西部謙司(サッカージャーナリスト)


※『サッカーダイジェスト9月10日号(8月27日発売)』より転載



記事提供:サッカーダイジェストWEB

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