「先制」と「集中」の戦い方が天才的にうまい指揮官シメオネ【小宮良之の日本サッカー兵法書】

「先制」と「集中」の戦い方が天才的にうまい指揮官シメオネ【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020.7.8 ・ 海外サッカー

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 戦力的に劣るチームが、優れたチームと互角以上の勝負に持ち込むには、「先制」と「集中」が基本になるだろう。


 日露戦争の遼陽会戦では、日本は13万の兵力で23万のロシアに挑んでいる。日本は先手を取って、夜襲攻撃で相手の虚を突いた。これによって、動揺を生じさせ、ロシアの防御線を後退させている。その後は激しい反撃に遭い、兵力を失うも、陣地では密集して守り抜いた。さらに遊軍を迂回させ、相手の後方を断つ戦いによって、警戒したロシアをさらに退かせたのである。


「守るだけでは必ずやられる」


 サッカーで、それは一つの定石である。


 守ることは基本だが、攻め手を必ず確保しておかねばならない。先制し、相手の虚を突き、陣を下げ、反撃に耐え、再び虚をつく。それを繰り返すしかない。機動力と耐久力の勝負に持ち込むのだ。


 もっとも、この戦いは消耗も激しい。奇襲となるカウンターで相手を脅かすには、まずはそれだけの走力が必要だろう。そして、逆襲を食らった時に1対1で持ち場を守れるか。全体の防御線を下げ過ぎず、お互いで突破されそうな戦線を補う必要もある。走る量は必然的に増え、体力的な疲弊を余儀なくされる。繰り返しているうち、反撃に及べなくなると、一気に押し込まれ、総崩れになる。


 アトレティコ・マドリードのディエゴ・シメオネ監督は、「先制」と「集中」の戦い方が天才的にうまい指揮官だろう。相手を脅かしつつも、屈強なだけでなく弾力のある防御線に誘い込み、打撃を与えられる。チャレンジ&カバーを繰り返し、危機を回避し、ボールを取り切る。今シーズンのチャンピオンズ・リーグ、ラウンド・オブ16、欧州王者リバプール戦はその最たるものだ。

  この戦いで決着をつけるには、ストライカーが欠かせないだろう。


 遼陽会戦、日本はロシアを撤退させ、遼陽城に入っただけに、陣取りでは勝利したと言える。しかし、ロシアよりも多い2万3000人もの死傷者を出し、損耗率はロシアの倍近かった。傷だらけの勝利だったと言える。


 この一戦をサッカーに置き換えると、これを試合の前半とした場合、いくら相手を押し込んでも、後半には苦しい戦いになる。後半になって足が止まり、上回る戦力で攻め込まれたら、受け身一方になるだろう。やはり、相手の急所をつける、打撃力のある選手が必要になるのだ。


 日本では、南アフリカ・ワールドカップに挑んだ岡田武史監督の戦いが、これに近いだろう。大久保嘉人、本田圭佑、松井大輔のような気鋭のアタッカーたちが、守備の防衛拠点としての仕事を粘り強く行うと同時に、一瞬のスキを見つけては、激しく攻撃に転じた。それによって、カメルーンやデンマークという強敵を相手に活路を見出すことができたのだ。


 先制と集中は、逆転の兵法である。


文●小宮良之


【著者プロフィール】

こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。

記事提供:サッカーダイジェストWEB

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