軽い方がいいけど、それだけじゃダメ。PUMAに見るサッカースパイク進化論

軽い方がいいけど、それだけじゃダメ。PUMAに見るサッカースパイク進化論

2020.8.12 ・ 海外サッカー

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 今から20年前。サッカーのスパイクは、レザーの皮が主流で黒を基調とするカラーがほとんどだった。しかし、近年は今までの固定概念を覆すようなシューズが市場を賑わせている。


 足首上まで覆われた靴下のようなスパイクや、靴紐を結ぶ位置を自由に選べるモデル。カラーリングもカラフルで、左右で色が異なるデザインも流行った。そうした流れの中で、現在のトレンドがスパイクの軽量化だ。


 adidas、NIKE、PUMA。世界の主要メーカーは競い合うように“スパイクの軽さ”を追い求めてきた。その理由は、選手がスピードに特化する商品を好むようになったからだ。


 スパイク軽量化の歴史は古い。1998年頃までフィット性を重視したスパイクが主流だったが、2000年を境に大きく流れが変わる。2002年の日韓ワールドカップ前にNIKE社が“マーキュリアル・ヴェイパーI HG”を発表。重さは当時として異例の片足約200gで話題を呼んだ。


 その後、2009年にNIKE社は180gの“マーキュリアル・スーパーフライ”を発売。adidas社も2015年に135gの“アディゼロF50クレイジーライトFG”を世に送り出した。そして、PUMA社も2015年に100gの”EVO SPEED SL”を展開するなど、各社が技術を革新しながら軽量化を進めていった。


 その一方で問題がなかったわけではない。軽量化を求めると、無駄を省く過程の中でフィット感や耐久性が難しくなる。スパイク全体を覆うアッパーにカンガルーなどの天然皮が使えず、今までのような履き心地は求められない。


 アウトソールも往来の技術では簡単に重量を軽くできず、下げた場合は耐久性に難があった。選手が求める軽さ、フィット性、耐久性。その要望に全て答える一足はなかなかできず、様々なブランドが創意工夫を重ねていた。


 そしてこの夏、PUMA社が、新たに重量160g(27cm)のスパイク“ULTRA”を市場に送り込む。PUMA社のマーケティング本部・エナジーマーケティング・アシスタントプロデューサーの福井達矢氏は“ULTRA”について、こう話す。


「私たちが2015年に発売したEVO SPEED SLや他社さんのモデルもそうですが、当時の軽量スパイクはシューズの骨組みに一層のマイクロファイバーをアッパーに貼っているだけでした。なので、単純に負荷に耐えられなかったんです。


『“EVO SPEED SL”は10試合限定』と謳っていたのも、それが理由です。でも、今回は往来の課題をクリアするために、これまでの化学繊維と同等の軽量性を持つMATRYXEVO®(マトリックスエヴォ)という素材をアッパーに用いたんです。


 このMATRIXEVO®️は軽量性に優れたポリエステル素材にケブラー繊維とカーボン繊維を組み合わせた素材メーカーとPUMA共同開発のNEWウーブンアッパー。剛性と弾性を兼ね備えたケブラー繊維がアウトサイド(足の外側)のサポートを強化し、弾性・柔軟性に優れるカーボン繊維が、スムーズな屈曲と優れたボールタッチを生み出します。


 前作のevospeedのアッパーに比べ耐久性が向上した上で、軽量性を確保しています。レザーにはレザーの良さがありますが、MATRIXEVO®️にはレザーにはない良さがあります」

 ペップ・グアルディオラが取り入れている戦術において、2013シーズンから2018シーズンにてスプリントする距離をデータ計測したところ、5シーズンで21.2% も距離が伸びていたというデータがある。


 このことからもわかるように、“スピード”という要素はゲームを決める重要なファクターとなっている。戦術面や選手のプレースタイルに合わせて、PUMA社は新たなモデルの開発に着手するわけだが、そこでヒントを得たのが、“人類最速の男“ウサイン・ボルトのシューズだった。


 なぜ、ボルドの陸上スパイクが開発に大きく寄与したのか。当時を振り返り、福井氏は事の成り行きをこう説明する。


「開発は2年以上前からスタートしていました。その際に陸上短距離のスパイクからアイデアを得ることとしました。なぜなら我々は人類最速のウサイン・ボルト選手向けのスパイクを作っている実績があり、各クラブのスポーツサイエンティストからの助言や先述のデータを基に試作を重ねていきました。。


 今まではアウトソール(スパイクの裏側)の部分にぺバックス®️か、TPU か、どちらかの素材しか採用できませんでした。ぺバックス®️は軽量ナイロン素材で軽い。一方でポリウレタンのTPUは耐久性があるけど重い。


 ぺバックス®️とTPUを組み合わせるアウトソールの軽量性に限界があったのですが、新しい技術の開発により、これら2つの素材を組み合わせても耐久性と軽量性の両方が実現できました」


 スピードを重視する選手また、近年の先述のトレンドを反映させ、ウサイン・ボルトのシューズから起草されたPUMA社の “ULTRA”は、もはや限界とも思える160gまで軽量化を実現させた。


 課題だった耐久性も様々なカテゴリーの選手に40時間以上のテストでクリア。この夏から、海外選手ではセルヒオ・アグエロ、アントワーヌ・グリエーズマン、日本人選手では伊東純也、久保裕也といったスピードスターが、このULTRAを履いてプレーする。


 PUMA社が軽量化を目指すきっかけは、サミュエル・エトー(元バルセロナほか)の声が始まりだった。軽量スパイクと銘打って2006年に世に出した「V1.06 i FG」の片足重量は約200g。それから14年後、耐久性やフィット感など数字では表せない部分を数倍向上させつつ、20%の軽量化を実現させた。まさに努力の結晶といえるだろう。


 ただし、スパイクの進化は日進月歩。素材と技術の分野では常に新しいものが生み出され、上を目指す選手のスパイクへの要望もやむことがない。adidas、NIKE、PUMAなど、世界各国のスパイクメーカーは切磋琢磨し合い、そしてそれぞれに、現在進行形で新しいスパイクの開発も始めている。


 他競技の知恵、様々な業種の技術、各社が長きに渡って積み重ねてきたノウハウ。そうした英知の結集が次のスパイクを生み出す。最高の一足を作り続ける彼らの挑戦に終わりはない。


記事提供:サッカーダイジェストWEB

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