おめでとう、マドリディスタ。サッカー界のダ・ヴィンチ、ジダンがいれば「うまくいく」

おめでとう、マドリディスタ。サッカー界のダ・ヴィンチ、ジダンがいれば「うまくいく」

2019.3.15 ・ 海外サッカー

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レアル・マドリーのクラブオフィスの一室で、明かりもつけることなく、机にひじをついて頭を抱える男性が一人。クラブの絶対的権力者、フロレンティーノ・ペレスだ。その机の上には、監督候補者のリストが記された紙が置いてある。


彼の作品たるチームは、欧州全土をひざまずかせた白いチームはついに倒壊した。そうならないためにジュレン・ロペテギに早い段階で見切りをつけ、Bチームを率いていたサンティアゴ・ソラーリを昇格させてみたものの、かつて自身の寵愛する男が成し遂げたような復活劇が繰り返されることはなかった。


「フロレンティーノ、辞任しろ!」


マドリーの神殿サンティアゴ・ベルナベウでは、またもこのチャントが叫ばれるようになっていた。


フロレンティーノの手元にある今季3人目の監督候補のリストには、多種多様な人間の名が記されていた。旧知の仲であるジョゼ・モウリーニョであれば、以前よりも人間的に丸くなったとはいえ、今のチームに鞭を入れられるだろう。いや、マウリシオ・ポチェッティーノ、マッシミリアーノ・アッレグリ、ヨアヒム・レーヴら、マドリーを率いた経験のない名高い指導者たちにチームを任せてみるのもいいかもしれない……。


だがしかし、フロレンティーノにとって以上の候補者たちは本命に断られた後の候補でしかなかった。とにかく、まずはあの男に電話をしてみなくては……。彼の最初の行動は決まり切っていた。天から贈られたボールから美しきボレーシュートを放ってマドリーの9回目のチャンピオンズリーグ優勝に導き、カルロ・アンチェロッティのアシスタントとして10回目の優勝にも関与し、そして自ら監督となって11、12、13回目の優勝も成し遂げた男――。つまり2段落目で言及した寵愛の男、ジネディーヌ・ジダンへの電話である。


フロレンティーノはわずか9カ月前にクラブを後にし、自身に大きな悲しみを与えたジダンを呼び戻すことを希求していた。クリスティアーノ・ロナウド退団と、今季の失敗でサイクル終焉を断じられる中、ジダンの復帰こそ黄金の日々が終わってないと言い張れる唯一の手だった。「クリスティアーノのマドリー」でないならば「ジダンのマドリー」である。


フロレンティーノがジダンを説得するのに必要だった電話の回数は、2回。最初にかけた電話では、今すぐにではなく今季終了後ならば可能性はあると言われた。そして5日後の電話で、ケリがつく。待ち望んでいた返事を耳にして、ほかの候補者が記された紙はゴミ箱に捨てられた。クラブオフィスの一室に、再び明かりがついた。


「おめでとう、マドリディスタたち」


ジダンはまるでレアル・マドリー、ひいてはフットボールの世界におけるレオナルド・ダ・ヴィンチだ。ダ・ヴィンチが暗黒時代たる中世に光をもたらしたならば、ジダンはマドリーを本来のマドリーに戻すべく再びその姿を現した。彼が戻ってくることが発表された日、マドリディスタたちはうらぶられた存在から、祝福されるべき存在となったのだった。


■ジダンがマドリーに復帰した理由



復帰会見が行われているとき、私が勤める『MARCA』の編集局はその映像に釘付けだった。たとえ戦略的に話させないことがあったとしても、彼が母国のフランス語、またはたどたどしいスペイン語で発する言葉はいつどんなときにも裏がない。だからこそフロレンティーノ、選手たち、記者たち、そして公衆を惹きつけていく。


マドリー伝説の人物となり、しかしその伝説に汚点がつくリスクを承知で復帰を果たしたジダンは、その理由について「会長から連絡を受けたから、私がマドリーと会長を愛しているからだ」と説明。その一方で、昨季に一度クラブを離れた理由については、コパ・デル・レイ、そして日常のささやかな幸せを大事にする彼にとって何よりも大事な日常のコンペティション、リーガで結果を手にできなかったためと語った。


チャンピオンズ三連覇は誰もがひれ伏す偉業ではあるが、ジダンにとって運も大きな要素も絡む大会でしか優勝できなかった昨季は、決して納得がいくものではなかった。そのために「チームには変化が、私のものとは違う指導法が必要だ」と考え、身を退くことを決意したのだった。それから9カ月……、スペイン首都でプレーする息子たちの試合観戦だけを日々の糧としてきた彼は、再び監督を務める意欲を養っていき、愛するマドリーと恩義を感じるフロレンティーノの救難信号に応じたのである。


■フロレンティーノ中心のマドリーから、ジダン中心のマドリーへ



もちろん、ジダンは無条件でマドリーへの復帰を決めたわけではない。ジダンから強く進言したわけではなく、逆にフロレンティーノから提案された形ではあるが、今後のチームの陣容はジダンの考えベースとなったものとなる。それこそアレックス・ファーガソン率いるマンチェスター・ユナイテッド、ディエゴ・シメオネのアトレティコ・マドリーのように。フロレンティーノが取り仕切るマドリーでそんなことを可能とするのは、後にも先にもジダンだけだろう。


ジダンがこれから求めていくのは、リーガとチャンピオンズの二冠を達成した2015-16シーズンのような陣容である。あの頃のマドリーは絶対的主力のほか、アルバロ・モラタ、ぺぺ、ハメス・ロドリゲス、マテオ・コバチッチらがおり、チャンピオンズ、リーガと大会毎に起用メンバーを分けられるほどの戦力があった。ジダンは青田買いを繰り返すだけで痩せ細っていった陣容を、自分が見込む才能たちで太らせることを求めている。


史上最高の選手の一人としてフットボール界に名を刻むジダンがスパイクを脱いだのは、13年前のこと。そして現在のフットボールシーンは、マドリーが青田買いしているジダンを知らぬ世代ではなく、ジダンに憧れの眼差しを向けていた選手たちが支えている。欧州のビッグクラブは、ジダンが自クラブの選手に目をつけるのではないかと戦々恐々だ。


ジダンとマドリーが今夏の移籍市場でまずチームに加えるのは、エデン・アザールとなるだろう。アザールはマドリー移籍を公言し、マドリーも彼の獲得に前向き。そしてアザールがアイドルと公言してきたジダンが再びベンチに座るとなると、移籍の方程式はすでに成立したことになる。


その一方で、ジダン復帰によってマドリーに別れを告げる選手もいるはずだ。間違いないのは、ジダンと緊張走る関係にあるギャレス・ベイルの放出だろう。ジダンはベイルを完全には信頼しておらず、対してベイルは重要な試合で自身を先発させないジダンに苛立ちを感じ続けてきた。フロレンティーノ率いるマドリー理事会が昨夏に彼の放出に動こうとしなかったことは、ジダンが辞任を決した要因の一つとなったが、フランス人指揮官帰還によってベイルのプレミアリーグ復帰の扉は完全に開かれている。


またソラーリと確執があったイスコや、レギュラーの座を失ったマルセロ、伸び悩みつつあるマルコ・アセンシオらを、ジダンがどう扱っていくかにも注目が集まる。マドリー理事会はジダンがそうした選手たちを復活させることに期待を寄せているようだが、いずれにしても最終的な判断を下すのはフランス人指揮官だ。マドリーはいつの時代も監督ではなく選手が主役のチームだったが、ジダンは選手としても監督としても花形たる存在なのである(ジダン本人はこれからも選手たちのことを立て続けるのだろうが)。


■ダ・ヴィンチのようにルネサンスを請け負う



ルカ・モドリッチから「フットボール」そのものと形容されたこともあるジダンは、暗黒時代にその当時の人智を超えた科学・芸術作品を生み出していったダ・ヴィンチの如く、マドリーのルネサンス(再生、復活)を請け負った。思い出すのは2016年1月、ジダンがマドリーのトップチームを初めて率いることになったときのことだ。彼は会見で「きっとうまくいくはず。うまくいくと思うよ」と、どこに根拠があるのか皆目見当もつかない言葉を述べたが、しかし実際にその通りになったのだった。


フロレンティーノとマドリディスタはジダンがいれば「うまくいく」と信じてやまず、それ以外の人たちも彼がそういう存在であることを、それとなく感じている。そのことが改めて証明される日々が、ジダンのいる日々が、今始まったのである。


文=ミゲル・アンヘル・ララ(Miguel Angel Lara)/スペイン『マルカ』レアル・マドリー&スペイン代表番記者


翻訳・構成=江間慎一郎(Shinichiro Ema)




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記事提供:Goal

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