【小宮良之の日本サッカー兵法書】「口は災いの元」――デシャン監督を憤慨させたベンゼマの一言

【小宮良之の日本サッカー兵法書】「口は災いの元」――デシャン監督を憤慨させたベンゼマの一言

2019.5.25 ・ 海外サッカー

シェアする

「○○はブラックリストに入っている。代表に選ばれることはない」

 

 そんな噂が、まことしやかに囁かれることがある。関係者に訊くと、あるはずがない、と呆れ返ったような返答。実際、代表に「選ばないリスト」があるとは考えにくい。

 

 もっとも、監督個人が「胸の内にリストを作る」ということは、十分に可能性としてあるだろう。プロの監督と言えども、一人の人間である。好悪の情は持っていて、許すことができない一線というのもある。

 

 それだけに、選手の一言が災いの元になることもある。

 

「デシャンは、国内にいる人種差別主義者の一派のプレッシャーに屈服した」

 

 レアル・マドリーのFWであるカリム・ベンゼマは、2016年6月に受けたインタビューで、フランス代表監督であるディディエ・デシャンについて、こう述べたことがあった。質疑応答の内容はほとんどが「マドリー欧州王者記念」だっただけに、本人としても不本意だったのではないだろうか。センセーショナルな見出しが、どうしても目を引いた。

 

「監督が人種によって選考している!」

 

 そうした訴えとして読まれても、おかしくはないだろう。

 

 そしてこの発言以後、ベンゼマはデシャン監督が率いるフランス代表でプレーしていない。マドリーでは欧州3連覇の主力選手でありながら、メンバーにすら選ばれていないのである。ロシアワールドカップの優勝メンバー23人にも、候補にすら含まれていなかった。

  これについて、デシャンは憤慨気味に言う。

 

「(ベンゼマは)一線を越えた、と思った。私はフランス人選手を代表に選んでいる。肌の色や地域で、選別したことなどない」

 

 つまり、この発言を理由にベンゼマを外したのだ。

 

 実はベンゼマは、デシャンに対決姿勢を見せてはいない。当時は、極右政党が急速に台頭していた。そうした政情の中で「重圧があったのかも知れない」とむしろ気遣っているのだ。

 

「僕とディディエの関係は良好だよ。監督や会長が、彼ら自身の考えで決定を下して欲しい。プレッシャーに負けずにね」

 

 ベンゼマはその気持ちを率直に語っている。

 

 お互い、面と向かって話したら、たいしたことではなかったかもしれない。しかし、少々迂闊だったか。デリケートなテーマについて、「屈服した」と決めつけてしまったのだ。

 

 もっとも、両者の関係は良好ではなかった。ベンゼマはデシャンの采配に対して懐疑的で、デシャンもベンゼマのプレースタイルを必ずしも好んではいなかった。両者のサッカー観は異なっていた。結局、そうした感情のもつれが、発言によって決定打になったケースと言えるだろう。

 

 口は災いの元だ。

 

 フィーリングの摩擦は避けられない。監督も人間で、選手も人間。欧州3連覇の偉業を成し遂げたジネディーヌ・ジダン監督でさえも、嗜好の強さははっきりしているのだ。

 

文:小宮 良之


【著者プロフィール】

こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。


 

記事提供:サッカーダイジェストWEB

シェアする

最新記事

おすすめ動画