セットプレーの質が高まるJ1リーグ。コーナーキックに注目せよ!

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第113回

セットプレーの質が高まるJ1リーグ。コーナーキックに注目せよ!

By 清水 英斗 ・ 2020.8.31

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奔放に流れるサッカーの試合において、セットプレーは異質な存在だ。流れが一度ピタッと止まる。そしてリスタートの立ち位置や戦術は、どのチームも攻守のパターンを準備してくる。


特にコーナーキックはボールを置く場所が限定され、最初からシーンが固定されているため、カチッとしたパターンに落とし込みやすい。そのため攻守共に分析や準備をしやすく、戦術的な駆け引きがもっとも高次元に達するプレーと言える。


そのコーナーキックだが、何となく「最近、ゾーンで守るチームが増えたなあ」という印象があったので、直近のJ1第13節辺りで調べてみることにした。


ゾーンで守備を構築しているのは、横浜FM、浦和、C大阪、名古屋、仙台、G大阪、横浜FC、清水、鳥栖、鹿島、神戸、柏、大分。数えてみたら18チーム中13チームもあった。逆にマンツーマンで守るのは、札幌、川崎、FC東京、湘南、広島の5チームだけ。いつの間にか、ゾーンは多数派だった。


(念の為に付け加えると、マンツーマンでもニアサイドにはストーンを2~3人置くことがほとんどなので、純粋ゾーンはあっても、純粋マンツーマンはない。正確に言えば、マンツーマンではなくミックスである。ただ、そうなると、ほぼ全チームがミックスになって分類ができないので、マークに割く人数の多さ等を考慮し、上記のように分類した)


なぜ、これほどゾーンが多いのだろうか。


理由の一つは昨今の外国人監督だろう。横浜FMのアンジェ・ポステコグルーやC大阪のミゲル・アンヘル・ロティーナ、神戸のトルステン・フィンクなど、ここ数年の間に来た外国人監督は、みんなゾーンを採用している。唯一、日本で10年以上にわたって指揮を執ってきた、札幌のミハイロ・ペトロヴィッチはマンツーマンを採用しているが、それ以外はゾーンだ。


監督で言えば、大分の片野坂知宏、仙台の木山隆之など、優れた戦術肌の日本人監督がJ1に増えてきたことも、見逃せない要因だろう。マンツーマンは、「○番につけ」と約束事がシンプルであることがメリットの一つだが、約束事が多いゾーンでもしっかりと落とし込む、あるいはその志向を持つ監督が、少しずつJ1でも増えてきた。


VARによるPKリスクの増加


そして、コーナーキックのゾーン守備が増えた二つ目の理由として、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)もありそうだ。ロシアW杯ではボックス内のファウルを細かく取ることで、PK数が増えたことが話題になったが、人につくマンツーマンはどうしてもボールに絡まない場所での接触が増えるため、PKのリスクは高まる。


また、他の味方がマークする相手に意図せずぶつかってしまう事故も多く、マンツーマンはVAR時代にはリスキーな守備だ。もちろん、今季は過密日程により、Jリーグは一旦VARの運用が停止されているが、各チーム、準備はしていたはず。あるいは来季以降も視野に入れて。


さらに三つ目の理由として、今季は選手交代が5人まで認められた。一度に2~3人が代わる光景は、もはや珍しいものではない。その中で「○番につけ!」という指示は、混乱を引き起こすのではないか。たとえば、マークする相手が一度に何人もいなくなったり、代わって入ってくる選手もワーッと3人くらい一度に来たりすれば、修正が大変だ。ミスマッチが発生するか、下手をすればマークを修正できないか、あるいは修正に気を取られて集中を欠くかもしれない。


そういう意味では、ゾーンは主体的に自分たちで立ち位置を決める守備なので、交代そのものには振り回されないで済む。


さまざまな理由は考えられるが、とりあえず現状、ゾーンはJ1の13チームに採用されている。何となく多いとは思っていたが、数えてみたら、想像以上に多かった。もちろん、ゾーンとマンツーマンは優劣の関係ではない。メリットとデメリットを計算し、ゾーンのほうが『適』と考えた監督が多かったのだろう。


ゾーンで守る際のデメリットは?


ゾーンのデメリットと言えば、守る選手間にスピードをつけて走り込まれると、立ち幅跳びと走り幅跳びの差を、空中戦でつけられてしまうこと。その差で叩かれる失点が多いために、今までJリーグでゾーンは流行らなかったのではないかと思う。だが、今季を見ると、その点は各チームがきちんと対策を整えているように見える。


コーナーキックのゾーンは、ニアサイドやペナルティーアークを除くと、ゴール正面は4人や3人の2段ブロックで組まれることが多い。後列の4人は空中戦に強いタイプだが、キーポイントはむしろ前列の3人だ。この3人が、相手に勢い良く走り込まれることを防げるか否か。それが勝負の分かれ目になる。


純粋ゾーンならば、後列と前列の立ち位置が『W』のように互い違いになって隙間を埋め、相手に勢い良く走り込まれるのを防ぐ。ゾーンの隙間をねらわれるケースでも、相手に蛇行させ、スピードを落とさせる。そして、ボールの落下地点周辺ではギュッと縮まって囲み、ファウルにならない程度に身体を当てる。そうすれば、隙間で簡単にやられることはない。


さらに最近は、この3人が、相手の得点源に絞ってマンマークを行う『ゾーン+マンツー』も増えてきた。3人程度しかいないので全員をマークはできないが、セットプレーで点を取る選手はほぼ決まっているので、キーマンに絞ってマークする、という効率的な考え方だ。


前列3人はMFが担当することが多いが、彼らの役割は競り勝つというよりも、キーマンの動きを邪魔すること。そうすれば、空中戦に強い後列の4人がクリアしてくれる。個人的に、その守り方を初めて見たのは、グアルディオラ時代のバルセロナだったが、今季J1でも神戸や鹿島、柏など採用するチームは多い。


また、普段は純粋ゾーンでも、対戦相手によっては1人だけマークにつかせる、といったチームもある。全試合見ているわけではないが、横浜FMやC大阪にはその傾向がありそうだ。


兎にも角にも、鍵は前列の3人である。純粋ゾーンでも、ゾーン+マンツーでも、この3人が位置取りやマーキングで相手を自由にさせず、後列の4人に優位な状況でヘディングさせるか。そこにかかっている。


試合中の駆け引きに注目


そして、ここまではゾーン守備の基本に過ぎない。実際の試合を見ると、駆け引きはもっと複雑だ。ゾーンはマンツーマンとは違い、『構造』がある分、それを逆手に取られるケースがある。


たとえば、第11節のG大阪対浦和。後半15分に井手口陽介がコーナーキックからダイレクトボレーを突き刺したが、この場面は、昌子源らが浦和の前列3人をブロックし、ペナルティーアーク付近の井手口をフリーにしたのがキーポイントだった。本来ならコーナーキックから井手口の足元に届くまで、浦和は飛び出して寄せる時間があるのだが、その前列3人がブロックされたことで、フリーで打たれてしまった。


浦和は第12節の神戸戦でも、後半37分にコーナーキックから一度ヘディングでクリアしたボールを、やはりペナルティーアーク付近から、山口蛍にボレーシュートを決められている。現象は違うが、ねらわれたスペースは同じだ。浦和のゾーン守備の構造的に、「そこが空く」という場所を突かれた。


すると第13節大分戦では、それまでコーナーキック時にニアサイド辺りでふらふらしていたFWレオナルドが、アーク近辺のスペースをカバーし、ねらっている相手にも目を光らせるようになった。他方、ショートコーナーには山中亮輔らが対応する。おそらく修正がかかったのだろう。


これはゾーンにもマンツーにも言えることだが、自分たちの守り方のデメリット、あるいは構造的な弱点を理解した上で、相手のねらいを読み、動けるかどうか。あるいは試合中に修正できるか。こうした駆け引きが重要になってくる。


ゾーンは立っているだけじゃ駄目。むしろ、立つことがスタートである。


ニアに引きつけてファーを狙う


12節のC大阪対仙台、前半アディショナルタイムに仙台が決めた同点ゴールも、一連の駆け引きが見られた。


ゾーン守備に対する基本的なセオリーの一つは、ショートコーナーだ。ボールをずらし、立ち位置をずらす。このパススピードは速ければ速いほど、ゾーンの陣形を大きく崩しやすい。仙台はこれを序盤から仕掛けていた。


そうやってC大阪の意識をニアサイドへ引きつけた後、前半アディショナルタイムに決めたコーナーキックは、一転してファーサイドだ。勢い良く走り込んだ蜂須賀孝治が、打点の高いヘディングを叩き込んだ。落下地点は丸橋祐介との1対1だったが、まさに走り幅跳びと立ち幅跳びである。その差で、蜂須賀は丸橋を圧倒した。


C大阪の意識がニアサイドへ引っ張られていなければ、それまでのように蜂須賀の動きを制限する前列の働きがあったかもしれないが、この場面はそれがなく、ファーサイドが仙台優位の1対1にさらされてしまった。ショートコーナーのニア攻めからの、一転してファーサイド。仙台のストーリーが成し遂げたゴールとも言える。


今、ゾーンが流行するJ1で、何が起きているのか。確実に言えるのは、こうした戦術的な駆け引きは、Jリーグの、Jリーガーのレベルを引き上げるということだろう。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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