「森保ジャパンは戦術がない問題」について、田中碧に直接聞いてみた

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第169回

「森保ジャパンは戦術がない問題」について、田中碧に直接聞いてみた

By 清水 英斗 ・ 2022.8.30

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戦術がない。就任半年後、おそらく2019年アジアカップの頃からか。ファンやメディアから「戦術がない」と言われるのは、森保ジャパンの常になった。


この件、中の人はどう感じているのだろうか。8月初頭にレジェンドスタジアムで行った田中碧インタビューでは「森保ジャパン戦術がない問題」について質問を投げてみた。


――「森保ジャパンは戦術がない」と言われることは多いです。実際それほど細かい決め事は無いのだろうと個人的に見ても感じますが、逆にその分は選手にタクトが渡されている状況でもあります。この辺り、どう感じてプレーしていますか?


「そこは難しいですけど、真ん中の選手である以上、僕からするとやり甲斐はあります。自分が全権を握るとか、そういうことではないですが、相手を見て変化をさせられるし、変えられる範囲が広いのはありがたい。形にギュウギュウはめられるのも、僕はそういうサッカーをあまりしたことがないのでわからないですが、心地良くないだろうとは思います」


相手を見て変化を加える。その時、「誰が主体になるのかが大事」と田中は言う。


「僕は今インサイドハーフですけど、インサイドが主体となって、それにウイングやサイドバックが呼応して動く形を作るのか。それとも、アンカーが一番最初に動いてそれに対して自分たちが動くのか。相手を見てのことなので、その形をはっきり決めるのは難しいです。


 ただ、自分が真ん中でやっている以上、自分が最初にアクションを起こしたほうが周りは動きやすいと思うので、比較的自分は最初にアクションを起こそうと思っています。サイドバックとセンターバックの間に落ちたりとか、その立ち位置は相手を見て変えるし、組む選手によっても変わりますけど、自分が最初に動いたほうが安定するのかなという感覚はあります」


戦術って何?


カタールW杯・アジア最終予選では、田中碧、守田英正、遠藤航が4-3-3の中盤を組み、「主体」となった。特に田中、守田の主体的なポジション移動をきっかけに、各自が立ち位置を変えて行く。そうした場面は試合を重ねるごとに増えた。カタールワールドカップでも、この3人の連係はベースになりそうだ。


そして、田中はこう語り始めた。


「……まあ今よく『戦術がない』って言われますけど、『じゃあ戦術って何?』ということも僕は思うようになって。戦術がない、と言う人はたくさんいるけど、じゃあ戦術って何?って聞かれたとき、言語化できる人なんてほぼいない。にもかかわらず、そういう話題になるのはナンセンスかなと」


おそらくだが、一般的にチームの「戦術」と言及されることの大半は、立ち位置とその変化だろう。システムを含めて。


「立ち位置や配置が戦術なのであれば、監督がやるのもそうですけど、選手自身が相手を見て変えられれば成り立つことです。ただ、それで成り立ったチームを『戦術がある』と見てくれるのかと言えば、そうでもない。


 代表チームは時間がありません。その中で、どういうチームを見て『戦術がある』と言っているのかは、僕はずっと気になっていますね。『スペイン代表に戦術がある』と言う人もいるかもしれないけど、あれは戦術じゃなくて文化、と思います。どれをどう見て、『戦術がない』のか。僕はすごく疑問に思っています」


代表チームにおける戦術とは


最近よく語られる言葉の一つに「再現性」がある。サッカーの試合は色々なことが起きるが、チームが同じ形を再現して問題を解決していくとき、それが「戦術がある」と解釈されることは多い。


「再現性があるのが戦術なのであれば、僕らは『戦術がない』のかもしれません。ただ、再現性ある攻撃をやり続けるのは難しいことです。代表という短い期間の中で、戦術というのがどこまで作れるのかは僕もわからない。


 クラブであれば、(マンチェスター・)シティでもリヴァプールでも、色々な形でチャレンジもバリエーションも出来るけど、代表の大枠で見たとき、色々な国のサッカーを見て、『じゃあ戦術ってあるのか』と言われると、そんなことないんじゃないかなって。


 ブラジルを見ても、結局、彼らは個人戦術が集まって戦術として成り立っているし、もちろん細かい決め事はあるのかもしれないけど、それは外から見て『すごい戦術だな』と感じるようなことではないと思う。


 スローインになったらこうするとか、こうなったらここへ走るとか、本当に細かいことだと思うので、それを大きく外から見て『戦術がある』と言えるようなことではない。そこはどうなのかなって。


 別に森保さんをかばいたいとかではなく、代表チームにおいて戦術ってどうなのかなって。個人個人が相手を見れれば、配置も立ち位置も変えられるし、それがうまくいかなかったら修正すればいいだけ。それを『戦術がない』って言われてもね……という感じです。僕は」


枠組みからか、個人からか


スペイン代表の例で言えば、彼らはアンダー世代の頃から同じ配置で、代表に関わる全チームが同じ枠組みでプレーをしている積み重ねがある。


それを田中は「文化」と表現したが、的を射た言い方だ。そして、他の代表チームにそうした特殊な枠組みがあるかと言えば、日本同様、ないチームのほうが多い。


「まあ他の代表チームを覗いたことがないので、わからないし、他の代表監督ともやったことがないのでわかりませんが、今は個人が色々なレベルでプレーしているし、その中で、個人が相手を見てプレーを変えられれば、それがグループとなって、戦術になる。


 選手によっては相手を見ずに……と言ったら変ですが、相手を制して局面を変えられる選手もいるし、立ち位置を変えないと局面を変えられない選手もいる。良くも悪くも、一局面で変える選手と、大局的にゲームを見て変える選手の2パターンがある中で、全員が同じ絵を描ければ、それが勝手に戦術になるんじゃないかと思いますね」


要は枠組みから出発するか、個人から出発するか、だ。アプローチは大きく分けて2種類あり、どちらのアプローチでも戦術として成り立つ。


前者は外から見てわかりやすいし、監督もいかにも戦術派として格好良く見えるが、一方で戦術が見える=分析もしやすい、とも言える。後者のように選手が相手を見てやり方を変える裁量の広さがあるチームのほうが、対戦相手にとって分析しづらい側面はある。


田中碧は監督をやりたい


もう一つは、環境や規定の諸条件にどちらが合うか。代表チームで言えば「時間がない」という最大の制約に、どちらのアプローチが向くのか。あるいはどういう配分で、両アプローチをミックスさせるか。


スペイン代表で言えば、戦術を文化にしてしまうことは、チーム作りの時間短縮においてメリットが大きい。もちろん、枠組みの統一によってスポイルされる才能が増えるリスクとデメリットは小さくないが、それを補うメリットはありそうだ。


……と考えていくと、どちらのアプローチも一長一短。そのベターを見出す議論には価値があると思う。ただ一方で、どちらかのアプローチを「戦術がない」と見るのは、サッカーに対する理解がズレてしまうのではないか。


それにしても、田中は分析派だ。世の中の当たり前とは違う視点を持っているし、少し早口だが、伝える言葉もある。それを彼に伝えると……、


「いやあ……監督やりたいんですよ(笑)」と言う。


「(そうなんですか!?)そうなんです。だからそっちにも興味が沸いちゃうんです。僕らも今の時代、『戦術がない』って批判とか、嫌でも目に入ってくるので考えるんです。じゃあ戦術って何?って。考えるきっかけというか、そういうのを見て、僕も考えてますね。


 もちろん一発目からはあり得ないですけど、代表監督をやりたいと思ってます。名誉なことだし、大変なことだと思いますけど、それ以上に日本サッカーを勝たせられるチャンスがあるので、やってみたいなと今は思ってますね。やってみないとわからないところはありますけど、今漠然と思い描いているのは、代表監督やってみたいなあって。


 (監督には)小さい頃から興味はありました。教えるというより、チームを勝たせる。それが好きなので、監督として色々なチームを勝たせたい。もちろん、自分が引退するときに、1~2年や3年は世界トップとのブランクがあると思うけど、それでも自分が感じてきたもの、日本サッカーを強くしたい思いはあるので、選手を成長させて、勝たせられる監督になりたいですね。簡単ではないけど。


 色々な監督を見てきて、色々なやり方、アプローチがあるので、誰かを目指すというよりは、そういう人たちの良いところを盗んで、自分らしい監督像を築ければいいなと勝手に思ってます」


インサイドハーフで自分が主体となり、相手を見て、最初にアクションを起こす。チームを動かす。そんな若きプレーメーカーが、監督志望と知り、色々と合点がいった。(文・清水英斗)



写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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