久保、安部、菅原、中村…。若手の海外移籍から見る、日本サッカーが迎えた新たなフェーズ

COLUMN河治良幸の真・代表論 第41回

久保、安部、菅原、中村…。若手の海外移籍から見る、日本サッカーが迎えた新たなフェーズ

By 河治良幸 ・ 2019.7.20

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日本人選手の欧州移籍ラッシュが続いている。FC東京からレアル・マドリードに移籍した久保建英と鹿島アントラーズからバルセロナに移籍した安部裕葵に話題が集中しているが、彼らと同じU-20年代の選手から、28歳でベルギー2部のロケレンに期限付き移籍した天野純(横浜F・マリノス)まで、幅広い形で欧州移籍が報じられている。


日本人選手の海外志向、とりわけ欧州志向は年々高まっている。Jリーグがここ数年で大きな成長を見せており、欧州での成功例も増えていると同時に、獲得する側も映像やデータなどで、世界中の選手をスカウティングできる仕組みが整備されたこと。Jクラブも選手の欧州志向を見越した中で、チーム編成を考えるようになってきているのも理由のひとつだろう。


特に現在は選手の市場価値や移籍金が高騰し、有望なタレントを若い年代で獲得し、価値を高めるプロジェクトが5大リーグのビッグクラブで流行している。そこからチームの主力を担って行くのが究極の成功例だが、そうならなくても獲得時より価値が高い状況で手放すことができれば、ビジネスとして成立する。


欧州でもベルギーやオランダ、ポルトガルといったリーグはもともと若い選手を育てて自国のビッグクラブや5大リーグに高く売るサイクルが定着しているが、日本人選手の評価が高まり、日本企業が保有するベルギーのシント=トロイデンのようなクラブが出てきたことも、日本人選手の欧州移籍を加速させている。


海外で活躍し、A代表の主力に定着


もう1つは日本代表の影響だ。国際大会を経験し、国際基準での課題を意識したり、A代表において欧州で活躍する選手から刺激を受ける傾向は数年前から強まっていたが、堂安律や冨安健洋など東京五輪世代の選手たちが欧州に渡り、急成長を見せてA代表の主力に定着している流れは、同世代や下の世代の選手たちに大きな刺激を与えている。


■今夏の主な欧州移籍


久保建英 18歳 FC東京 → レアル・マドリード(スペイン) 完全移籍

中村敬斗 18歳 G大阪 → トゥエンテ(オランダ) 期限付き移籍

菅原由勢 19歳 名古屋 → AZアルクマール(オランダ) 期限付き移籍

安部裕葵 20歳 鹿島 → バルセロナ(スペイン) 完全移籍

鈴木優磨 23歳 鹿島 → シント=トロイデン(ベルギー) 完全移籍

安西幸輝 24歳 鹿島 → ポルティモネンセ(ポルトガル) 完全移籍

シュミット・ダニエル 27歳 仙台 → シント=トロイデン(ベルギー) 完全移籍

天野純 28歳 横浜FM → ロケレン(ベルギー2部) 期限付き移籍


1シーズンにおけるJリーグからの海外移籍は最多となっており、さらに増える可能性もある。7月18日にはコパ・アメリカでA代表を経験した前田大然(松本山雅)にポルトガルのマリティモから期限付きでの獲得オファーがあり、数日中に決断するというニュースも報じられた。


青田買いされる、日本の若手選手


選手が若くから欧州移籍を希望し、実際に欧州のクラブからもオファーが届けば、Jリーグのクラブとしては容認せざるを得ない状況だ。一方で10代から20歳前後の選手の場合、クラブの主力に定着していない時点で欧州クラブが”青田買い”する形で移籍するという流れも出てきている。これまでは若い年代で海外に行くにしても、最初に契約したJクラブで何か成し遂げてからという傾向があったし、そうでないと具体的なオファーが来なかった。


しかし、U-17W杯やU-20W杯などの出場経験があり、年代別の代表の主力となる選手は、その時点で国際市場に乗っているし、基本的な技術や特徴など、今後の成長も見込んで評価されている。U-20W杯で活躍し、名古屋グランパスからオランダの強豪AZアルクマールに期限付き移籍をした菅原由勢は典型的な事例で、同じくU-20W杯組で、帰国後はガンバ大阪で出場機会を得ていた中村敬斗も、以前からリストアップされていたはずだ。


すでに移籍が決まった選手に限らず、U-20代表やU-22代表を取材すると、臆することなく欧州への移籍希望を口にする選手が増えている。数年前であれば、仮にそうした気持ちがあったとしても、表立っては言わない傾向があったが、現在では後ろめたさも無くなっている。同世代や1つ上の先輩がすでに欧州でプレーしており、直接情報を得ているケースも増えているようだ。


見方を変えると、年齢が高くなるほどステップアップの曲線が描きにくいという事実もある。鹿島からポルティモネンセに移籍した24歳の安西幸輝は「年齢的にも海外への挑戦はラストチャンス」と語っている。仙台からシント=トロイデンに移籍した27歳のシュミット・ダニエルも、GKという息の長いポジションながら、本当は20代前半で欧州移籍を実現させたかったことを述懐している。


海外での経験を日本に還元


そうした傾向がある中で、もう1つ興味深い現象がある。「成長してこのクラブに戻ってきたい」といったメッセージを発する選手が増えていることだ。いわゆる”出戻り”というと、以前は欧州でうまく行かなかった選手が古巣に戻ってくるというイメージが強かった。現在もそうした傾向がなくなっているわけではないが、ドイツで一時代を築いて鹿島に復帰した内田篤人などの事例も出て来ており、欧州での経験を育ったクラブに還元するサイクルが、1つのトレンドになって行くかもしれない。


菅原は移籍時にクラブの公式サイトで「僕の夢はこのクラブでリーグ優勝をすること、日本一のクラブにすること、そしてこのクラブで引退することです。その為にもこのチャレンジを応援いただき見守ってください。僕は必ずグランパスにこの恩をお返ししたい」というメッセージを残している。


現在は1年間の期限付き移籍だが、AZは完全移籍での買い取りオプションを確保しており、順調なら欧州でステップアップして行くことになるだろう。菅原がいつ名古屋に復帰するイメージを描いているかは分からないが、”海外移籍は片道切符でなければいけない”という固定観念は無くなりつつある。


これだけ海外移籍、欧州移籍が加速するとJリーグからの”タレントの流出”というイメージが付いてしまうかもしれないが、現在は選手の出入りのサイクルの過渡期にあると言える。何が何でも海外という意識が加速することに懸念はあるものの、島国の日本から海を渡り、異なる環境の中で挑戦することはサッカーはもちろん、人としての成長につながることは間違いない。それは海外からJリーグにやってくる外国人選手にも言えることで、単に助っ人としてお金を稼ぐだけでなく、Jリーグで確かな成長を見せている選手も少なくない。


しばらくは若い選手を中心に海外移籍、特に欧州移籍は増えて行くと考えられるが、その中でJリーグがどういう立ち位置になり、日本代表にどういう影響を与えて行くのか、しっかりと見守っていきたい。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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