「ボールを握りたいチームと、相手に握らせたくないチーム」。田中碧が分析する、スペインとドイツの違い

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第170回

「ボールを握りたいチームと、相手に握らせたくないチーム」。田中碧が分析する、スペインとドイツの違い

By 清水 英斗 ・ 2022.9.2

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X世代、Y世代、Z世代。時折、目にする「ナントカ世代」の発祥は、アメリカのマーケティング業界。世代ごとに異なる消費動向を捉えるため、定義されたそうだ。


具体的には1965~80年生まれを「X世代」、1980~95年生まれを「Y世代」(もしくはミレニアル世代)。1995~2010年生まれを「Z世代」と呼称する。私自身は、ギリギリX世代。Z以降はα、β、γと続く。


X世代。高度経済成長が終わる辺りで育った人々の特徴は、コスパ重視だ。価格と機能が見合うかどうかを見定め、慎重にモノを消費する。続くY世代は、モノよりコト。体験にお金を惜しまない。ゆとり世代とも呼ばれる。

 

そしてZ世代の特徴は、自分の価値観だ。有名ブランドや知名度を全く重視せず、自分の価値観をベースにお金を使う。スマホ&SNSネイティブであり、より現実的で、社会問題に関心が高いのもZ世代の特徴らしい。


……と定義を確認した上で、田中碧のインタビューを思い返すと……なるほど。彼はまさしくZ世代だった。


日本の街並みが好き


彼には前回コラムの「森保ジャパンには戦術がない?」云々など、サッカーの話を中心に聞いたが、オフザピッチも色々聞かせてもらった。たとえば、「ドイツ生活で気に入っていることはありますか?」という定番の質問。田中は苦笑いしつつ、「ないっすね」と答えた。


「僕、日本好きなんで。ドイツで好きなことは特にないんですよ。それはたぶん、何処の国へ行っても、日本が好きなので、国が変わろうが場所が変わろうが、そこが好きですって言うことは無いです(笑)。(ドイツに来たのは)完全にサッカーのためで、あまり外にも出ないですね、僕は。基本的には家でゆっくりしてます」


そこまで言うほど、日本の何が好きなのか? そう聞くと、こんな答えが返ってきた。


「街並みが好きなんですよね、日本の。ヨーロッパの街並みがあまり好きになれないというか。これは僕の主観的な考えなのでアレですけど。僕、高いところが好きなんですよ。ビルとか、いっぱいあるところが好き。別にタワーマンション育ちとか、そういうわけじゃないですよ(笑)。ヨーロッパは低い家が多くて、風景的にもレンガとかおしゃれだけど、僕はおしゃれなものより、ビルみたいなきれいなものが好き。だからヨーロッパは色とか建物の雰囲気とか、街並み自体が好きじゃない」


え? そうなんだ。X世代のワタシからすれば、やっぱりヨーロッパの街並みは素敵だな~と思うけれど。Z世代はあくまでも、自分の価値観GOGO。ブランドや知名度など、世の中が当たり前とする価値観はカンケーなし。


「森保ジャパンに戦術がない」問題も、世の感覚に迎合せず、「碧の世界」で語ってくれた。浮くことを恐れないというか、共感を欲しがらないというか。


自分に対する誇りが強いドイツ人


そういえばオンラインインタビューが始まるときも、「やっぱりスマホじゃなくてタブレットでやってもいいですか?」と交換に行ったり、「やっぱりTシャツは黒じゃなくて白にしてもいいですか?」と着替えに行ったり、フリーダム。


技術サイドを含め、周囲から見て全く問題は無かったが、「碧の世界」的にはしっくりこなかったらしい。


人とは異なる意見とか、独自の感性がバンバン言動に出る人だが、かといって、ひねくれ者という感じはしない。むしろド素直。自分の価値観に素直すぎる、Z世代のエース格だ。


色々な質問をした。たとえば、彼の視点では、ブンデスリーガの選手はどのように見えるのか。

 

「試合に勝ったとき、すっげえ喜ぶなあと思って。こっちの選手は。それこそ練習のミニゲーム一つもそう。僕も負けず嫌いですけど、ボールが出たとか出ないとか、マイボールとか敵ボールとか延々と。僕は『そんなのどっちでも良いじゃん。すぐやろうよ!』って思っちゃうんですよ(笑)。


 それでも最後決まるまで頑固に争う姿とか、それでミニゲーム終わって勝ってたりしたら、すっげえ喜ぶとか。別に理解できないわけじゃないけど、すごいなあ……と思っちゃう。そんな喜べるんだ、って。もちろん僕もうれしいけど、日本人って良くも悪くも切り替えるじゃないですか。パッと。だけどそこを最後まで本気で…、本気で喜べるのがすごく良いなって思いますね」


「(それは彼らのプレースタイルにも出ているのでは?)そうですね。すごく自信を持っていると感じるし。それは自分が上手いから、とかではなくて、自分自身に対する誇りが強いなって。日本では天狗になるなとか、浮かれるなとか、そういう教育を受けますよね。


 もちろん、それはそれで良いと思いますけど、ただ、自分がやってきたこととか、積み上げてきたものに誇りを持ってやる強さは重要です。だからこそ、プレーでも彼らはたくさんチャレンジができるんだと思う。そこは日本人の感覚とは大きくかけ離れているし、彼らの武器だなと思います」


これはX世代のワタシも共感。感情の高ぶりとか、爆発とか、そういうものを周囲が当たり前のように受け入れているのが大きい。彼らのイケイケのプレーの源になっている。


ドイツとスペインの違い


それを田中は客観的な言い方で「彼らの武器」と表現した。彼らの武器があれば、僕らの武器もある。それはつまり、相手の良さを認めた上で、違う一面であなたたちを上回りますよと、そう聞こえた気もする。


彼らとの武器の差し合い、と言えば、ドイツと初戦を戦うことになったカタールワールドカップだが、田中から見たドイツやスペインは、どのように映っているのか。


「(ドイツ代表について)堅い印象ですね。隙がないですし、フィジカルを前面に出して来ますし、上手い選手もいます。強度マシマシでやってくるイメージはありますね」


「(チームメイトなど周囲からは何と言われる?)ランニングシューズ持ってけって。お前ら一生ボール持てねえから、90分間どうせ取れないんだから、ランニングシューズで走っとけと言われましたね(笑)」


そこまで言われるほど、ハンジ・フリック率いる今のドイツ代表はポゼッション率が高く、主導権を握るサッカーをやっている。ただ……、


「どちらかと言うと、僕のイメージでは、ドイツはボールを握りたいというより、相手に握らせたくないチーム。その印象が強いですね。スタンスとして、スペインはボールを握りたいチームですけど、ドイツは相手に握らせたくない。そういうイメージがありますね。


 守備やトランジションの部分でもそうですが、相手に何もやらせないのがドイツで、自分たちがやりたいことをやるのがスペイン。そういう重きやスタンス、主体の違いはあるのかなと勝手に思っています」


確かに、この戦略的解釈は頷ける。ドイツはポゼッション率も高いが、ショートパスだけでなく、ロングボールも使うし、攻め方に関して一つのこだわりのようなものはない。それはつまり、自分たちのプレースタイルの実践より、相手を潰すことに重きがあるからだ。


重要な最初の15分


どちらのやり方でも、1試合だけを見れば、戦術的に重なることはある。しかし、出発点が違うのではないか。ドイツとスペインを戦略的スタンスの違いで切り分けた田中の見方は、的を射ている。


では実際、ドイツとはどう戦えばいいのか。田中は初戦のキーポイントに、「序盤の15分間」を挙げた。


相手を潰そうとする戦略観のドイツが相手だけに、最初の15分間で潰されないことは、何より大事な足場になる。また、前回のロシア大会のように序盤で起きたこと(PK獲得&相手の退場)がポジティブに働けば、勢いに乗る可能性もある。


一方、スペインとはどう戦うか。東京五輪でも戦った相手だが、今度はフル代表。最適な位置に立って、最適な判断をしながらチームで前進することを作り上げたチームだ。


田中はドイツ戦と違い、「どうやってボールを奪うのか」が重要になると言う。戦略観スタンスから見ると、ドイツやスペインの特徴も捉えやすくなりそうだ。


独自の価値観GOGOの田中だけに、世の解釈に迎合せず、本質をズバッと見抜く眼の鋭さを随所に感じさせる。そんなインタビューだった。将来的には監督をも思い描くZ世代の司令塔は、カタールワールドカップの森保ジャパンで、何を果たすのか。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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