メンバー発表以来、散々な言われようだった。
ロシアW杯を戦う日本代表の平均年齢は、今大会の出場チームのなかで7番目に高い28.3歳だ。23人の登録メンバーのなかに若い選手が少なく、ザッケローニ監督時代から常連だった選手も数多く含まれていることから、今大会がキャリア最後の出場となるベテラン選手たちによる「卒業旅行」になるとまで揶揄されていた。
しかし、その経験を武器にしていけそうな気配がある。それは何故だろうか。
槙野智章は現在のチームのコミュニケーションについて、3つのポイントを挙げている。
「まず、西野監督が選手を尊重して、(ミーティングなどで)映像を見せたときに選手に意見を求めるようになった、というのはあると思います。そして、次に紅白戦の中やホテルでの食事での際に自然とディスカッションが出来るようになりました。そこには西野監督が作っているフリーな状態というのがあると思っています。あとは(直前合宿の)オーストリア、ロシアとW杯への緊張感が増して、練習で起きた問題だったりミスのところですぐに集まって。近いポジションの選手たちが集まることで、より良さを引き出す。西野監督が選手をシャッフルした中で、選手からディスカッション(するための意見)が出るというところも良さかなと思っています。」
競争と対話をうながし、戦術的準備を選手全員の『自分事化』した西野式マネジメント
代表チームのマネージメントとしては、大きく分けて2つのタイプがある。1つが、スタメンを固定せずに常に競争意識を持たせるやり方。もう1つが、スタメンをある程度固定させていくやり方。前監督のヴァイド・ハリルホジッチは前者。一方、アルベルト・ザッケローニは後者を選択していた。どちらにも一長一短がある。
西野監督が就任した時点で、本大会までに残されたのはわずか3試合。メンバーやフォーメーションも固定しながら戦うと思われていたが、彼が選択したのは前者の戦い方だった。大会前の最後の2試合スイス戦とパラグアイ戦のスタメンが10人替わったというのは、その象徴だ。
ただ、単に競争をあおったわけではない。
多くの選手に“当事者として”考え、意見を出させることに監督はこだわってきた。与えられた時間は短い。そのハンデを、コミュニケーションを活発にすることで濃密な時間にすることが狙いだった。午前中、1時間にわたって行なわれるミーティングでは西野監督が映像を見せたり、特定のシチュエーションに言及した後、選手に発言をうながすようなシーンがよくあるという。対象となるのは、試合に多く出場している選手だけではなく、これまであまり試合に出ていない選手も同じだ。
キャプテンの長谷部誠は、今大会にむけてのオーストリア合宿が始まった時点でこう話していた。
「西野監督の場合は特に、選手に投げかけたり、選手がピッチの中でどういう対応ができるかを強く求める感覚なので。それは選手としてもメッセージとして受け取って、よりコミュニケーションとか、自分たちがやらなければという部分が確かに出ているかなという感覚はあります」
23人全員が改善したからこそ結果が出たパラグアイ戦
例えば、0-2で敗れたスイス戦から、4-2で勝利したパラグアイ戦を比較した時、スタメンが大幅に替わったことで、内容が著しく改善したと思われがちだ。そして、それがW杯初戦のコロンビア戦につながった、と。
しかし、選手たちの感じ方は違う。
スタメン変更よりも、現在の23人のメンバーで戦った試合が3試合目になったから、内容が改善したのではないか。そう問われた原口元気は即答している。
「もちろん!チームとして勝たないといけないなかで、出た選手は替わったけどチーム全員で良いものにしようというのは監督も言っていたし。出ていない選手も、そういう思いでやっていたので」
パラグアイ戦でスタメンに入り、コロンビア戦では先制のPKを決めた香川真司はこう話す。
「出る選手、出ない選手、途中から入る選手が話し合いながら、途中から入った選手がどうするのか、というところもやっぱり大事になってくるので。そういう選手の声の掛け方なんかも(スイス戦のあとに)話したりしました。別にスタメンだけで話し合ったわけではないし、みんなの共通意識ですよね。それは普段の食事の会場からもそうですし、ポジションが近い選手を含めて常々、話をしているので。そういう会話は必要ですし、そういうところでの一対一の関係だけであっても共通意識を持つことで、試合の中で得るものがたくさんあるなというのは感じた。」
そんなチームの狙いを、短い言葉で的確に表現したのが岡崎慎司だった。彼はパラグアイ戦前日の時点で、こんな風に話していた。
「自分の今までやってきたことの全てを出して、W杯のコロンビア戦のヒントになるようなプレーがいくつか出れば、それはまずチームのためになると思う」
1つの試合を全員が当事者としてとらえて、改善するための方策を考えていく。だからこそ、一つひとつの試合が有意義なものになってくる。それが実を結んだのがコロンビア戦だった。
監督、コーチから明確なディレクションをすればチームは崩壊しない
1-1で迎えたコロンビア戦のハーフタイムについて、西野監督はこのように振り返っている。
「コロンビア戦のハーフタイムでも、選手の中には『引き分けでいい』『リスクを負わなくてもいい』という声がありました。ただ私は、これは勝たないといけないし、勝てるゲームということで、勝ちにいく戦術や戦略を選手に与えて送り出しました」
もちろん、監督や選手だけではない。あの時点で、勝ちに行くためのアトバイスを手倉森誠コーチも送っている。ハーフタイムの喧騒のなかで、手倉森コーチは、右サイドの酒井宏樹と原口にアドバイスを送っていたという。原口はそのアドバイスにヒントを受けての修正について、こう話している。
「僕も前半は開いていたけど、後半は中気味(のポジション)で受けて、宏樹を(一番外側のレーンに)上げることで、ちょっと厚みを増やした感じがしたし。チーム全体で回す位置というのは、宏樹をあげたり、ガクがもう少し前に出てきたりとか、そういう部分でチームとして回す位置が高くなったので、スムーズになったかなというのはあります」
監督、コーチ、選手がお互いに意見をすり寄せることで、時間のないなかで、この苦境を乗り切ろうとしているのだ。
では、彼らの背中を押すための原動力とは何だろうか。
今大会に臨むにあたり、多くの選手の口から聞かれたのは「後悔したくない」という想いだった。例えば、長谷部もロシアに渡る前にこう話していた。
「これをやっておけば良かったというのはないように準備したいと思っているし、本当にね、やれることをやっていきたいなと思います」
だからこそ、1996年のアトランタ五輪の初戦のブラジル戦に続いて、国際大会の初戦で南米のチームを破った感想を求められたときに、西野監督が冗談をまじえて答えた言葉の裏にも、熱いものが透けて見えるのだ。
「(五輪では)次、アフリカの代表にやられているので(笑)それで、あの時はハンガリー、ポーランドは同じような(ヨーロッパの)対戦相手なので、同じ轍(てつ)は踏まないように……」
チームにかかわる者が、それぞれの立場で、過去に味わった悔しい経験をモチベーションにしている。それが今のチームに渦巻いているポジティブな空気なのである。(文・ミムラユウスケ)
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