ロシアで変貌を遂げた日本代表は『プロセス至上主義』から抜け出せるか

COLUMNミムラユウスケ ロシアW杯スペシャルコラム

ロシアで変貌を遂げた日本代表は『プロセス至上主義』から抜け出せるか

By ミムラユウスケ ・ 2018.6.28

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にわとりが先か、卵が先か。


その議論は、サッカーというスポーツにおける内容(=プロセス)と結果(=勝利)の関係にも置き換えることができそうだ。


正しいプロセスが経て結果を手にする。それは理想だが、現実的には唯一の正解ではない。ときには、結果が自分たちの歩んできたプロセスに自信を与えてくれて、それで前に進めることもある。その自信が後ろ盾となって内容もさら良くなっていく。そんなケースが少なからず、ある。


勝利したからこそ、ポジティブに課題に向き合える


日本人はプロセスを至上のものとして考えてしまい過ぎるのかも知れない。正しいプロセスを踏んで、大きな結果が得られる流れはとても美しい。だからこそ、プロセスにとらわれ過ぎて、頭でっかちになってしまう。あくまでも結果(=目的)のためのプロセス(=手段)なのに、正しいプロセスを踏むことが目的化されてしまうようなケースが少なくない。


ただ、サッカーは相手のいるスポーツだ。試合の中で、意図していたプロセス通りに進まないことも多々ある。ブラジルW杯におけるコートジボワール戦の前半などは、その典型だった。自分たちがゲームを支配して戦い、相手を打ち負かす。それが大会前に描いていた理想的なプロセスだったため、ペースは握れていないがリードはしている、という前半の「結果」を最終的な試合結果につなげられなかった。


その意味で、今大会の初戦でコロンビアに勝った後に酒井宏樹が語った言葉は、いまの日本に新たな考え方が芽生えつつあることを予感させるものだった。


「勝利したからこそ、本当にポジティブに課題に取り組める。誰が悪かった、誰が良かったというわけではなくて、お互いが寄り添えるのが勝利した試合で出た課題ですから」


 結果が出たから、内容を良くしていくための作業をポジティブに取り組んでいくことができる。その作業が、プロセスの質をあげていくのだ。


西野監督の姿勢と導いた結果が選手のコミュニケーションを活性化させた


オーストリア合宿あたりから、西野朗監督のもとで議論は活発になった。午前中に行なわれるミーティングだけではなく、食事会場、チーム練習のあとの居残り練習の際に、選手同士の会話が盛んになった。そうした環境が生まれた裏には、試合出場の多い選手以外にも発言をうながしたり、実際に選手から出た意見を聞き入れる西野監督の姿勢もある。実際、本田圭佑はこのように語っている。


「(他)人の意見を受け入れることに西野さんの強みがあると僕は思っています。2018年のメンバーには、そこに提言できる選手が多いというところがマッチしている。この西野さんのタイプと、今の2試合が形に表れた、西野さんを評価する部分だと僕は思います」


 また、スイスとの練習試合を受けて、パラグアイの練習試合でスタメンを10人入れ替えた。内容もさることながら結果が出たことが、現在の流れを一気に促進させた。自分たちがやっていたプロセスが大きな意味を持つのだとチーム全体が信じられるようになったのだ。コロンビア戦では運も味方した。それがまた、結果を出すためのプロセスを後押しした。


原口元気は、ポーランドとのグループ最終戦を前に、こう言って胸を張る。


「全員がみんな意見を言います。『どうしたい』、『こうしたい』と、本当に年齢は関係なく、意見がすごく出ている。もちろん、それを上手くまとめてくれるのは、長谷部さんであったり、年齢が上の選手だったり、ということはありますけど。試合に出ている選手、出ていない選手に限らず、全員が、勝ちたいという気持ちをもって意見を出し合っているなというのはあります」


プロセスと結果、その両方を追うべき


 ここまで選手一人ひとりが、「自分はチームに欠かせない戦力」という自覚をもって議論を進めてきたことで、試合中に臨機応変に戦うことができた。コロンビア戦では相手が退場になった後に思うような戦いが見せられなかったが、ハーフタイムに選手とコーチが話し合うことで攻撃を修正、それが後半の勝ち越しにつながった。セネガル戦では相手がフォーメーションを変更、トップ下の香川真司に対応できるようなアンカーを置いてきた状況をうけて、香川が機転を利かせてサイドに流れたり、少し降りてボールを受けるようにしていた。また、相手が途中で前線の並びを変えてきた際には、長谷部がビルドアップの時に入るポジションに工夫をこらし、相手が高い位置からプレッシャーをかけてくるのを防いでいた。


 もっとも、この手法にもリミットはある。


大会が進むにつれて、続けてスタメンに名を連ねる選手と、ベンチで90分を過ごす選手との温度差がどうしても出てきてしまう。「選手全員がチームに欠かせない戦力である」という意識を持ち続けるためには、ポーランドとの試合でスターティングメンバーの変更を実施する等しないと、厳しいかもしれない。最初の2試合でそれほど出番のなかった選手たちが試合に出て、引き分け以上の結果が出るようなことがあれば、各選手が覚え始めている現在のチーム作りのプロセスに対する自信は、確信に変わっていくはずだ。


 ただ、勘違いしてはならないのは、結果が出さえすればプロセスを深く考慮しなくてもいいということではない、ということだ。これまで日本がしばしば陥りがちだったのは、プロセス至上主義だった。だが、サッカーの現場では、プロセスに逃げることなく結果を強く追い求めることも正しいし、きちんとしたプロセスを踏んで結果を求める姿勢も正しい。要はどちらも必要ということだ。どちらかに偏って考えてしまうことが、大きな問題なのだ。


 その意味で、ロシアW杯における日本代表の行く末が、プロセス至上主義や、プロセスの美学に寄ってしまいがちなこれまでの日本サッカーの考え方に、変化を与えてくれるきっかけになるのかもしれない。(文・ミムラユウスケ)


写真提供:getty images

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ミムラユウスケ

ミムラユウスケ

2009年1月にドイツへ移住し、サッカーブンデスリーガを中心にヨーロッパで取材をしてきた。Bリーグの開幕した2016年9月より、拠点を再び日本に移す。現在は2か月に1回以上のペースでヨーロッパに出張しつつも、『Number』などに記事を執筆。W杯は2010年の南アフリカ大会から現地取材中。内田篤人との共著に「淡々黙々。」、近著に「千葉ジェッツふなばし 熱い熱いDNA」、「海賊をプロデュース」がある。

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