高倉なでしこの試練。”天敵”オランダとの攻防を読む

COLUMN河治良幸の真・代表論 第39回

高倉なでしこの試練。”天敵”オランダとの攻防を読む

By 河治良幸 ・ 2019.6.24

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高倉麻子監督が率いる”なでしこジャパン”は、日本時間26日早朝4時、フランスW杯決勝トーナメント1回戦でオランダと対戦する。なでしこはグループリーグ3戦目でイングランドに0-2で敗れたが、何度かチャンスを作るなど、手も足も出なかったわけではなかった。


高倉監督も選手もポジティブに前を向いているはずだが、イングランドとオランダに共通する特長は、なでしこのアキレス腱でもある。


なでしこの基本的なスタイルは、ボールホルダーと周囲の選手が近い距離で絡み、相手を崩して行く形だ。ボールを失ったら素早くプレッシャーをかけ、再び回収して次の攻撃に繋げる。


そうした戦い方の”功罪”として、オープンな展開になり、空いたスペースを突かれると後手に回らざるを得ない傾向がある。オランダはサイドアタックを徹底してくるチームで、負けが許されない決勝トーナメントでは、なでしこのウィークポイントを突くために、執拗にサイドアタックを仕掛けてくることが予想される。


サイドを起点に、ゴールを目指すオランダ


グループリーグ3戦目でも、オランダのサイドアタックは体格的に互角のカナダを切り裂いた。ファン・デ・サンデンの鋭い仕掛けから、グラウンダーのパスを受けたエースのミーデマが鋭いターンでポスト直撃のシュートを打ったシーンは、オランダの特長そのままと言える。


オランダの先制点は得意のセットプレーだったが、1点返された後に奪った勝ち越しゴールも右サイドからで、サイドバックのファン・ルンテレンが入れたクロスボールに、途中出場のベーレンステインがディフェンスの間から抜け出して合わせた。


ファン・デ・サンデンがマークを引きつけながら、ファン・ルンテレンに外を使わせた形で、なでしこも似た状況を作られると非常に難しくなる。ファン・デ・サンデンを常にケアしながら、ファン・ルンテレンが上がってくるところを、左サイドでプレーする長谷川唯、あるいは遠藤純が素早くプレスバックするなどして対処して行きたい。


このシーンではエースのミーデマがわざと手前に引いて浮いた状況を作り、代わりにワイドから飛び込むベーレンステインに対し、カナダのディフェンスが集中しにくい状況を生んでいた。オランダはサイドバックが高い位置で攻撃に関わる際に、相手のマークが浮きやすいポジショニングや連動を意図的に作ってくる。これは男子同様に、欧州の中でも独特のものだ。


なでしことしては、守備の要である熊谷紗希がエースのミーデマをマークできている状態なら、多少攻め込まれても問題ないが、ミーデマが浮くシチュエーションでは、ボランチの杉田妃和や三浦成美がミドルレンジをケアして、熊谷が2列目の飛び出しに集中できる状態を確保したい。


鍵を握る、なでしこの両サイドバック


なでしこにとって、もっとも避けなければいけないのが、ボールを失った直後に前方にいるワイドの選手にパスを振られ、オランダが誇る3トップに仕掛けられる形だ。オランダの力は優勝候補のアメリカ、ドイツ、フランス、グループリーグ3戦目で対戦したイングランドよりは一段落ちると見られるが、日本にとって4カ国以上の”天敵”になりうるのは、攻守の切り替わりから、ダイレクトにサイドを狙ってくる傾向が強いこと。


その意味では、攻撃時に中途半端なボールの失い方をせず、なるべく高い位置まで攻め切りたい。ボールを失った場合はタイトにプレッシャーをかけて、相手に自由に蹴らせないことがポイントになる。そこは高倉監督も意識させているはずだが、それをノーミスで90分やりきれることはあり得ない。何度かはシンプルなサイドアタックで、一気に抉られるシーンが出てくるだろう。


そこで鍵を握るのは、サイドバックの鮫島彩と清水梨紗だ。構成上は右ウイングのファン・デ・サンデンに鮫島が、左のマルテンスに清水が付く形になる。基本的になでしこの守備は縦にも横にもコンパクトにし、常にチャレンジ&カバーの関係を作ってボールを奪いに行くスタイルだが、アンカーのファン・デ・ドンクのファーストパスから一気にサイドを突かれると、サイドバックがデュエルで対応するしかなくなる。多少スペースでボールを受けられても、鮫島や清水が素早くポジションを取っていければ、一発で危険なクロスまで持ち込まれることは少ないだろう。


いかに組織でビジョンを共有できるか


そこは高倉ジャパンの立ち上げの頃より、はるかに改善されている要素だが、危険なのはセンターバックの市瀬菜々や熊谷がカバーに出た時に、簡単にリターンパスを通されて、中央のボランチとセンターバックの間に起点を作られた場合。そうなったときは、サイドバックに頑張らせて、センターバックの二枚は中央を守るポジションを維持した方がベターだと思うが、そのような守り方はあまりしないので、逆サイドからの絞り込みやボランチの戻りが生命線になる。


よく見られる現象が、逆サイドの選手が中央に絞った結果、大外のウイングが空き、ファーに抜けるクロスを合わせられる形だ。もしくはサイドチェンジから、フリーでシュートを打たれる流れに繋がりやすい。


効果的なファーストパスを繋がれてしまった先の対応に、パーフェクトな手段は存在しない。いかなるメカニズムで守るにしても、組織としてビジョンを共有して、タイムラグやギャップが生じないようにやり切るしかないだろう。


ニューヒロイン誕生なるか


セットプレーで高さのミスマッチが生じるのは、仕方のない部分もある。空陸のデュエルに強い宇津木瑠美が万全でないのはアンラッキーだが、エースのミーデマはもちろん、カナダ戦でゴールを決めた182cmのデッカーをどう止めるかは重要になる。ちなみにデッカーは、なでしこより体格に優れたカナダの選手に二人掛かりで対応されながらも、ゴールを決めている。オランダは他の選手も軒並み170cm前後だが、女子サッカーでは規格外のハイタワー、デッカーをなんとかしないと、流れで優位に立てていたとしても結果で上回られてしまう。


守備のことばかり書いたが、攻撃ではイングランド相手でもチャンスは作れていた。あとは、決めるべきところをいかに決め切るか。オランダのディフェンスはサイズが大きい分、やや大股なので岩渕真奈や横山久美のクイックネスを生かしやすい。セットプレーの守備も考えれば、2トップの一人は空中戦にも強い菅澤優衣香を岩渕とセットで起用する可能性が高いと見る。


岩渕はスコットランド戦で先制ゴールを決め、菅澤は同じ試合でPKによる追加点を決めたのみだが、前線で存在感あるプレーを見せている。一方で、決勝トーナメントを勝ち上がるには、ヒロイン誕生が不可欠であることも確かだ。その意味でイングランド戦はスタメンに抜擢されたが不発だった小林里歌子や、ここまで未出場の籾木結花などに期待がかかる。彼女たちがヒロインになることができれば、躍進の波に乗っていく流れはできるだろう。高倉監督には、勝負師としての手腕も問われてきそうだ。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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