好調・大分が見せた“疑似カウンター”と“待の先(たいのせん)”

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第83回

好調・大分が見せた“疑似カウンター”と“待の先(たいのせん)”

By 清水 英斗 ・ 2019.4.18

シェアする

J1第7節の大分対仙台。大分が1-0とリードして迎えた、後半32分。それは不思議なゴールだった。


大分は敵陣でボールを持って仙台を押し込みつつも、仕掛けることなく、バックパス、バックパス。GKまでボールを下げてしまう。必然、仙台のハイプレスを食らう羽目に。しかし、構うことなくパスを回し続けてプレスをかわし切ると、押し上げてきた仙台ラインの背後をねらい、藤本憲明がタイミングよく飛び出す。最後はゴール前に走り込んだオナイウ阿道が折り返しに合わせ、試合を決定付ける2点目のゴールを挙げた。


ピッチの端から端へ、行ったり来たり。方向性を感じないポゼッション。しかし、のらりくらりと1分40秒をかけ、31本のパスをつないだ後、プレスをかわした大分は一気に牙をむいた。左ウイングの星雄次の縦パスがスイッチとなり、そこからオナイウがゴールを挙げるまでは、電光石火の9秒。恐るべき緩急である。


このような攻撃は、『疑似カウンター』とも呼ばれている。


なぜ、疑似なのか。空いたスペースを陥れる速攻の流れは、カウンターとほぼ同じ。違いがあるとすれば、スイッチだ。通常のカウンターは、守備フェーズでボールを奪った瞬間がスイッチとなり、空いたスペースを突くが、『疑似カウンター』は攻撃フェーズのポゼッションでプレスをかわした瞬間がスイッチとなり、空いたスペースを突く。


守備に限定せずとも、相手を釣り出してスペースを空けることができれば、スイッチは何でもいい。相手のアクションに対し、カウンターが成立している。攻守一体で戦術を考えるのが当たり前となった現代サッカーで、カウンターを守備フェーズに限定して考えること自体が、ナンセンスなのかもしれない。


先に動くのは相手の方


大分の戦術は、宮本武蔵が『五輪書』に記した兵法の一つ、“待の先”にその真髄を見ることができる。“待の先”とは、すなわち後手の先取り。あくまでも先に動くのは相手のほうだが、その機先を制して勝つ。たとえば剣道で、相手がピクッと動く様子を見せた瞬間、その機先を制し、鋭く間合いを詰めて、先に一撃を見舞うイメージだ。このような兵法を“待の先”と呼ぶ。


相手のアクションを待ち、その機先を制する大分。まさに“待の先”を表現している。


大分は『疑似カウンター』だけでなく、通常の『カウンター』も得意とする。いわば攻守両面で“待の先”を備えた、カウンター2刀流だ。ポゼッション、被ポゼッションにかかわらず、藤本ら飛び出し型FWのクオリティーを生かす状況を、より多くのフェーズで作り出す仕組みになっている。見事だ。


日本代表への波及も期待


もちろん、『疑似カウンター』が、ぎりぎりの駆け引きをしているのは間違いない。特に仙台戦の前半は、GK高木駿の周りでボールを失い、ピンチに陥る場面が散見された。大分の戦術上、想定内のリスクとはいえ、一歩間違えば、結果はひっくり返る。


それでも、心穏やかに、明鏡止水を保つことができるか。


“待の先”は軽やかで美しいが、心理的に言えば、先に動くほうが楽だ。後手の先取りを実践するには、静穏、適度な緊張、勇気、そして、確信が必要。これらが大分に備わっていることが、ここまで7節終了時点で3位と、躍進を果たした最大の要因だろう。


おそらく“待の先”は、日本代表の森保監督にとっても、理想とする戦い方ではないだろうか。その具体的な実践において、GKを最終ラインに組み込んでプレスを剥がすなど、幾多の工夫を盛り込む大分は、参考になるはず。今後は代表への波及も期待したいところだ。


対策を講じられたらどうする?


とはいえ、“待の先”は万能の戦術ではない。


後手の先取りが通じるのは、あくまでも相手が先手を打ってくる状況だけ。仙台戦は、大分が先制ゴールを挙げたこともあり、降格圏にあえぐ仙台がどうにか勝ち点をもぎ取ろうと、前へ出てきた。つまり、“待の先”が通じやすいシチュエーションだった。


逆に相手に先制されると、苦しい。リードした相手は不用意に攻撃に人数を割かないし、プレッシングの深追いも控える。『カウンター』も『疑似カウンター』も、後手の先取りは、全般的に通用しづらくなる。


先制されるケースのほかに、大分をリスペクトした対戦相手が、“0-0で構わない”という意識で挑んで来た場合、これも困る。相手が大きなアクションを起こさないからだ。“待の先”が手詰まりとなった、典型的な敗戦が、第2節松本戦(0-1)、第5節広島戦(0-1)だった。


今のところ昇格組の大分に対し、同様の戦い方をするチームは少ないが、今後はわからない。大分が勝ち点を重ね、上位へ行けば行くほど、リスペクトされる試合は増えるだろう。“待の先”で勝ってきた大分にとって、困難が突きつけられるのは必至。


大分の挑戦は、ここからが本番である。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

シェアする
清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

このコラムの他の記事