“勝ち方を知るキャプテン”谷口彰悟が語る、川崎の強さと日本代表への想い

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第158回

“勝ち方を知るキャプテン”谷口彰悟が語る、川崎の強さと日本代表への想い

By 清水 英斗 ・ 2022.3.20

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【谷口彰悟選手独占インタビュー動画】

「日本代表 最終予選のここまでについて思うこと」谷口彰悟①
「日本代表における“タスク”と“こだわり”」谷口彰悟②
「谷口彰悟のサッカー観とファンへのメッセージ」谷口彰悟③

正直、残酷な場面だった。


J1第3節の終了間際、G大阪のGK石川慧がキャッチしたボールを足下に置くのを見逃さず、背後から川崎の小林悠が襲いかかって奪い、レアンドロ・ダミアンが決めた。


土壇場で2-2に追いついた川崎は、アウェーで最低限の勝ち点1を得ることに成功。対照的に、跪く石川の背中はあまりにも辛かった。


今回、レジェンドスタジアムで行った川崎のキャプテン、谷口彰悟インタビューでは、主に日本代表の話を聞かせて頂いているが、直近の出来事なので、上記のシーンについて聞いてみた。


「後ろから見ていて、ガンバの選手の状況と、(小林)悠さんが攻め残りみたいな形で隙を伺っているのは、もちろんわかっていました。悠さんもコメントしましたが、気持ちの良い得点への関わり方ではなかったのは、もちろんそうだと思います。僕らですら、スッキリしないというか、負け試合のようなところで、あの得点で追いついたので」


さらに、こうも言っていた。


「ただ、プロとしては、言ってしまえば当たり前というか。どんな隙でも逃さない。付け込む隙があるなら行かなきゃいけないし、しぶとく、よく狙ってたなと。申し訳ない気持ちもあるとは思いますが、そういう世界ではあるので、それ以上に考えすぎることではないのかなと。勝ち点ゼロを、1に変える事ができたのはポジティブに捉えています」


このインタビューでは、彼の口から「当たり前」という言葉が山ほど出てきた。


プロなら当たり前。勝ちたいなら当たり前。当たり前のスタンダードを上げる。言ってしまえば、それがすべて。うちのクラブは勝ち切れない。うちは内容が良いのに勝てない。そう感じて止まないチームのサポーターに、この谷口インタビューは刺さるかもしれない。


結果にこだわり、勝ち点をもぎ取る


上記の場面を「残酷」と書いたが、個人的には異なる感じ方もあった。


G大阪戦の前節となる浦和戦の終盤、川崎は2-1で逃げ切りを図り、ひたすら耐える展開だった。そんな中、後半31分に投入された小林は、自陣で浦和の縦パスに対し、顔面ブロックのように身体を投げ出し、ボールを防ぐ。結果はハンドになってしまったが、小林の勝利への執念は強く印象に残っていた。


その小林が次節、GKの隙を見逃さず、値千金の同点弾を導く。特別なことではなく、毎試合がそうだった。


あの場面は残酷さ以上に、線で感じられた川崎の執念の凄まじさが、印象として上回った。谷口によれば、「それが(川崎の)スタンダードになってきている。その姿を見る、新しい選手や若い選手にとっても当たり前。それが無ければ、ピッチには立てない」と。


昔は鹿島、今は川崎。


試合内容が悪くても結果にこだわり、勝ち点をもぎ取る。しぶとく、したたかに、粘り強く。練習中のピリッと張り詰めた空気は、他クラブとは一線を画す、プロ中のプロ。


昔はそうした言葉のすべては「鹿島アントラーズ」を形容するものだったが、最近は「川崎フロンターレ」を指すことが増えた。特に今季の川崎は圧倒的なパフォーマンスが感じられないだけに、それでも勝ち点を積み重ねる勝負強さが、より際立っている。



川崎が掲げる、高いスタンダード


「ターニングポイントは2016年」と谷口は言う。


その年はチャンピオンシップでも天皇杯でも、ことごとく鹿島に負けてタイトルを逃した。勝負弱いチームで終わりたくない、打開したい。


そんな中、2017年から監督になった鬼木達は、選手時代は鹿島でもプレー経験があり、上記のような勝利のスタンダードを大切にする指導者だった。


「細かい部分だし、どのチームでも、誰しもができるようなこと。それをどれだけ高いレベルで遂行できるかを大事にしてきたので、そうやって強くなったと思います」


求めるタイミングに、監督の矜持がはまる。さらに初年度にリーグ優勝を果たした。谷口は「こういうことをやって優勝できた。その経験が、このチームを強くしたなと思います」と語る。タイミング、監督の矜持、最後に結果だ。


ああするべき、こうするべきと、いくら考えても、結果が出ないうちは必ずブレる。優勝したからこそ、スタンダードや当たり前になった。


各クラブのファンやサポーターは、「うちは勝つためにどうすればいいんだろう」と考える。答えは様々だ。ただ、その答えをスタンダードにするには、結局勝つしかない。


勝つためにどうすればいいのかは、勝たなきゃわからない。言い方を替えれば、長期記憶にならない、染み付かない、というか。


そんなこんなで今の川崎があるわけで、谷口が語るのは普通のことが多かったけど、モーレツな説得力があった。


もしかしたらインタビュー動画を見て、モヤッとする人もいるかもしれない。「勝ち切れない病」に悩むチームへの処方箋が、結局、「規則正しい生活を送りなさい」みたいな当たり前の話が多いから。でも結局そうなんだろう。


魔法はない。秘密もない。誰しもがスッキリするような回答も理由もない。それがサッカーだということで、個人的には納得。


日本代表で2試合連続完封


その谷口が、当たり前やスタンダードが高い、水も漏らさぬ王者のセンターバックが、板倉滉とコンビを組んで中国戦とサウジアラビア戦を無失点に抑えたわけで、これもまた納得。


海外組のレベルの高さや経験は、国際試合では重要な要素だが、「勝ち方を知っている王者のチーム」という属性も、ポジションによっては大切なのだろう。現状、海外組で常勝王者のクラブに属する選手は、ほとんどいないだけに。(南野拓実はそれにあたるが、レギュラーではない)。


絶対的存在だった吉田麻也や冨安健洋が欠場となる中、谷口と板倉の安定したパフォーマンスのおかげで、日本は山場を乗り切った。いや、そういう言い方をすると、「まだその感覚はない」と谷口からは言われたが。失敬。


冨安健洋は負傷のためにリーグ戦を欠場するなど、次のオーストラリア戦も出場が微妙な状況(後に怪我のため対オーストラリア、ベトナムとの2試合には選出されないことが確定)。ただ、2カ月前ほどの心配は要らない。今回のインタビューを見ると、「オーストラリア戦も谷口と板倉で!」という人が増えそうだ。


むしろ、吉田と冨安の一方だけがプレーできる状況が一番、森保監督の頭を悩ませるかもしれない。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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