収穫が乏しかったブラジル戦。森保体制4年間のまとめは“個のジャパン”

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第164回

収穫が乏しかったブラジル戦。森保体制4年間のまとめは“個のジャパン”

By 清水 英斗 ・ 2022.6.8

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今、監督が大事なこと言ったぞ。


「チームのコンセプトとして、組織的に戦うところは選手たちに伝えている。ただ、それはいつも言っているわけではなく、いつも言っているのは個の力を発揮してほしいということ。個の力が大きくなった先で、組織としてプレーすれば、より強いチームになると話している。日本代表で戦ってくれる選手たちは話さなくても、個の特徴をしっかり出せるように、個の強さ、個の巧さを培いながら連係連動することを考えながらプレーしていると思う。組織と個のどっちを取りますか、というと、個の部分を取ってもらえるようにと考えている」(ブラジル戦前日、森保監督の記者会見コメント)


個のジャパン。これが4年間のまとめ、と言ってもいいのではないか。振り返れば、2018年に3-0で勝利した初陣のコスタリカ戦から、ずっとこの考え方だった。


基本的にはOKだと思う。W杯を目指す代表チームは、4年の長いサイクルを過ごす。クラブでも4年経てばメンバーが入れ替わるように、代表でも選手の力関係は少しずつ変化する。


しかし、そのときに細かいチーム戦術が前提にあると、競争における旧選手側のアドバンテージが大きく、新陳代謝が進みづらい。スペインのように育成年代から一貫した戦術を用いる国なら話は別だが、少なくとも日本の現況で、A代表が組織よりも個を重視してプレーする方針は妥当だ。


ビルドアップの硬直


ただ、「個」と言っても、今この段階で、一体どこまでを個と呼ぶのか。全部1対1で固定すれば、それが「個」なのか。


ブラジル戦は、ビルドアップの硬直が気になった。相手は[4-4-2]でプレスを仕掛けてくる。[4-3-3]の日本はアンカーの遠藤航が空くため、ここへボールを渡せば第一ラインは勝ち。実際、そうやって遠藤を起点に運ぶ場面は多かった。


しかし、ブラジルのプレッシングが的を絞り、右利きの吉田麻也が立つ左センターバックの位置でボールを持たせ、ルーカス・パケタが中を切り、ネイマールと共に遠藤へのパスコースを防ぎながらプレスを仕掛けて来ると、日本はなかなか脱出できない。


吉田から遠藤へのコースが切られると、中山雄太か田中碧へ渡したが、どちらも連動したプレスを受け、ワンサイドで詰まった。


特に日本のゴールキック時に多く見られた現象だったが、中継の場合はリプレイやベンチ映しなどに画が奪われるため、テレビ視聴組は確認しづらかったかもしれない。ブラジルの時間帯は、ほぼ日本のゴールキックがきっかけだった。


これも全部、1対1で解決しなければならないのだろうか。ブラジルは連動してプレスに来ているのに。


グループで連動したい


方法は色々あると思う。たとえば遠藤が吉田の左脇へ出て、中山を前へ押し出し、相手サイドハーフを引っ張る。田中碧はアンカー付近へ下がる。こうして三角形の立ち位置を回すようにすれば、遠藤が外からもフリーで運びやすくなる。


このとき、相手ボランチが田中を深追いすれば、遠藤は原口あるいは古橋亨梧へ縦パスを付けられるし、相手ボランチが留まれば、フリーの田中へ横パスして脱出完了だ。


あるいは単純に、田中と中山が場所を入れ替わるだけでもいい。相手のマークが混乱しなかったとしても、右利きの田中が左サイドバックの位置へ移れば、相手サイドハーフを背負ってボールをキープしやすい。


そこから田中が中央や逆サイドを見ながら、遠藤へ渡してもいいし、逆サイドまで振ってもいい。ワンサイドに絞ろうとするブラジルにとっては厄介だろう。


しかし、実際の日本は[4-3-3]の初期配置で硬直したまま、ブラジルのプレスを馬鹿正直に受け続けた。守田英正が出場していれば、もう少しビルドアップに変化を付けられたのかもしれないが。


鎌田大地の能力


この問題を解決してくれたのが、後半から入った鎌田大地だ。


原口が下がって田中が右インサイドハーフへ移り、相手のプレス地帯になっていた左インサイドハーフの位置に、鎌田が入った。彼はすごい。圧倒的なキープ力で、ブラジルのプレスを受け止め、日本のビルドアップの詰まりを解消してくれた。


相手の体力的な問題があるとはいえ、堂々として落ち着きのあるプレーぶりだった。森保監督は、この鎌田の個を試したかったのだろうか。いや、知ってるけど。


遠藤と鎌田は、相手のプレスの要所をうまく外してくれた。この2人は相手の圧力がある中でも、ボールを運べる。田中は鎌田のようにキープするのは難しいが、ある程度の間合いがあれば、逆を取ったり、展開したりと、こちらも堂々としたプレーぶりだった。


今この段階で、この試合?


攻撃陣に目を移すと、伊東純也や三笘薫は、1対1専用機では通じなかった。ハーフスペースも、ただ行くだけではカバーされて終わり。大外からクロスで点を取るのも難しい。


少なくとも強豪が相手なら、オーストラリア戦の山根視来と守田のコンビネーションのように、もうひと手間の工夫がなければ崩せない。


なんかすごく当たり前のことを知らされて、終わった印象だ。


組織よりも個だと、大きな個が集まって組織化するんだと、断言した森保監督の基本方針は良いと思う。でも、今この段階で、この試合? その話?


カタールW杯本番まで半年を切った。今回は直前キャンプがないので、この6月の招集が直前キャンプと同じ位置付けだ。


つまり、チームは最終段階に入っているわけだが、その在り方、戦い方として、妥当とは思えない試合へのアプローチだった。ベスト8を目指すチームにしては、スタートラインが低い。


ブラジル戦があと5回くらい出来るのなら、これでもいいのかもしれないが。せっかくのマッチメークだったのに、もったいないお化けが出そう。


残る2試合で、プレッシング耐性をどこまで上げられるか。もっとも、残る2試合ではそれ以外の課題として、[5-3-2]などの戦略的オプションとなるシステムや戦術を試す必要もあるはず。忙しい、忙しい。


ブラジル戦の収穫が多かったと見るか、少なかったと見るか。個人的には後者だ。無かったとは言わないが、もっと多くなることを期待していた。


「強豪と戦えるチャンスだから、今の自分たちを真っさらにぶつけて力を量ってみよう」という発想のチームが、W杯でベスト8に行ける気がしない。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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