なでしこジャパン、欧州遠征を2連勝で終える。監督交代で見えた着実な進歩

COLUMN河治良幸の真・代表論 第115回

なでしこジャパン、欧州遠征を2連勝で終える。監督交代で見えた着実な進歩

By 河治良幸 ・ 2022.7.5

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池田太監督が率いる”なでしこジャパン”は、欧州遠征でセルビアに5-0、フィンランドに5-1で勝利。2試合で10得点を記録した。


池田監督の初陣となった、昨年11月の欧州遠征ではアイスランドに0-2の負け、オランダともスコアレスドローで、無得点に終わったことを振り返ると、相手の力が違うとはいえ、着実な進歩が感じられる2試合だった。


フィンランド戦後、池田監督が「いろいろなコンビネーションや関わりの中でゴールが奪えました。今後はさらに引き出しを増やしていきたい」と語ったように、この1年足らずで「ボールを奪う、ゴールを奪う」というコンセプトの共有が進み、攻守両面で連動性が高くなってきている。


4-4-2の3ラインをベースに、高い位置からプレスをかけ、最終ラインも高く押し上げることで、ボールへの圧力を高める。ボールを奪うと、まず狙うのは”前選択”とも言われる縦方向で、余計なポゼッションに拘らないのが池田監督の流儀だ。


もちろん、ボール保持がいけないわけではないが、優先順位をゴール方向にすることで、相手の守備が整わないうちに前のスペースを突いたり、1対1で前を向いて仕掛けることができる。


セルビア戦でもフィンランド戦でも、攻撃の位置が高いだけでなく、アタッキングサード、特にペナルティエリアの幅で関わる人数が多くなっているのはポジティブな要素だ。


浮き彫りになる守備の課題


一方でセルビア戦もフィンランド戦も、1試合を通して見れば課題は多い。例えば、守備の距離感。


フィンランド戦の前半18分に決められたゴールが象徴的で、カウンターで左サイドバック三宅史織の裏を突かれたところで、ボランチ三浦成美のカバーが間に合わず、センターバックが下がりながら対応しようとする中でペナルティエリアに吸収され、その手前からゴールを打ち抜かれてしまった。


個人戦術で言えば、左センターバックの高橋はなが明確にゴールの右側を切って、GK山下杏也加が対応する範囲を限定してあげれば、十分にセービングできていたし、相手がシュートを外していたかもしれない。


また、それ以前のところで前線、ボランチ、最終ラインの距離が不必要に空き、相手のアタッカーに前を向かれるシーンが何度も見られた。


フィンランド戦の後半は距離感の問題が解決され、ゴールという結果も付いてきたが、前半に限れば1-1というスコアも去ることながら、どっちに転んでもおかしくないゲームだった。


基本コンセプトの浸透を目指す


フィンランドは欧州選手権に出るチームであり、コンディションも良好に見えたが、FIFAランキング29位の国だ。スウェーデンやフランスのようなシングルランクのチームに同じような隙を見せたら、前半でリードを許してしまう展開は目に見えている。


日本はWEリーグでプレーする選手が3分の2以上もいるので、国際試合のスタートは相手のスピード、パワー、足の長さなどに戸惑いが出やすく、それが前半や立ち上がりのパフォーマンスに反映されてしまう。


2023年の女子W杯まで1年ある。現時点では、ゲームコントロールよりも基本コンセプトを身に付けることが大事であり、池田監督も高い位置でボールを奪って素早くシュートに持ち込む成功体験を増やすために、そこを徹底させている向きがある。


女子サッカーでもポジショナルプレーの考え方をベースに、サイドの選手が幅を取りながら、ハーフスペースを狙ったりといった戦い方が普及してきている。日本もサイドバックのビルドアップの関わりやインナーラップといった攻撃の引き出しは加えているが、基本がコンパクトフィールドであり、攻守両面で欧米の相手よりも狭い距離感での連動が生命線になっている。


そこで大切なのは、相手にボールサイドから簡単に裏を通させない、反対側のスペースにサイドチェンジさせないこと。その辺りもセルビア戦、フィンランド戦とそれなりにできていたが、相手が強豪になると、一瞬の隙が守備の組織を破られるきっかけになる。コンパクトに戦う中で、水も漏らさない厳しさは求められるだろう。


7月にEAFF E-1選手権


今回の欧州遠征は千葉玲海菜(ジェフユナイテッド千葉レディース)が4月の候補キャンプからメンバー入りしたのを除くと、あまり入れ替わりのないメンバーだった。池田監督が掲げる戦い方の共有を進め、欧州遠征でベースを固めるのが狙いだろう。


7月にEAFF E-1選手権があり、WEリーグで活躍が目立った選手はそこで招集可能だ。池田監督は国内組だけでなく、クラブの同意を得られれば、海外組でもメンバーに入れる意向を示している。それでも国内組がメインになる事は間違いなく、そこでフレッシュなメンバーが加わるのではないだろうか。


もう1つ気になるのはE-1選手権のあと、8月にコスタリカで開催されるU-20女子W杯から、”なでしこジャパン”に食い込む選手がどれだけ出てくるかということ。


同チームも兼任する池田監督は同じコンセプトでチームを作っている。そこでA代表の基準を満たしていると評価されれば、A代表の活動に招集される可能性が高まる。


遠藤純の成長


一方で、少しずつではあるが海外組も増えてきており、例えば北米NWSLのエンジェル・シティに移籍したFW遠藤純は、半年で力強さが出てきた。キャプテンの熊谷紗希(バイエルン・ミュンヘン)とセンターバックのコンビを組む南萌華は三菱重工浦和レッズレディースを離れ、欧州挑戦することを表明している。


WEリーグからの新しい突き上げにも注目だが、なでしこジャパンのメンバーからも海外挑戦を通じて厳しい環境で揉まれ、個の力を磨くことで、チームに大きな力をもたらしてくれる可能性がある。


チームの戦術的な完成度、成熟度を高めていく事は大事だが、フレッシュなメンバーのテスト、個人の挑戦による成長というものが合わさり、来年の女子W杯に向けたチーム力アップにつながることを期待している。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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