なでしこジャパンがE-1選手権で得たものと得られなかったもの

COLUMN河治良幸の真・代表論 第116回

なでしこジャパンがE-1選手権で得たものと得られなかったもの

By 河治良幸 ・ 2022.7.29

シェアする

7月に行われたEAFF E-1選手権は、日本の男女アベック優勝で幕を閉じた。ともに2勝1分という成績だったが、女子は3試合目で、中国を相手に63%のボールポゼッション、シュートを13本打ちながら得点がなかったことは、反省材料ではある。


それでも池田太監督が就任時から掲げていた「ボールを奪う、ゴールを奪う」というキャッチフレーズのもとに、4-4-2の3ラインでアグレッシブにプレッシャーをかけながら高い位置でボールを奪い、ダイナミックに仕掛けて攻め切るコンセプトが、WEリーグをベースにした今回のメンバーでもある程度、実現できたことは前向きに評価できる。


特に”千葉の千葉”ことFW千葉玲海菜(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)や井上綾香(大宮アルディージャVENTUS)など、WEリーグで活躍して、今回の招集を勝ち取った戦力の台頭が見られたことも、来年7月のW杯に向けた競争の活性化、オプションの強化という意味で非常にポジティブだった。


躍動したなでしこ


3試合目の中国戦こそ無得点に終わったが、韓国戦では2得点。成宮唯(INAC神戸レオネッサ)と猶本光(三菱重工浦和レッズレディース)のチャンスメイクから宮澤ひなた(マイナビ仙台レディース)が先制点。


クロスからチ・ソヨンに技巧的な同点ゴールを決められるも、サイドを仕掛けたFW植木理子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)のクロスから長野風花(ノースカロライナ・カレッジ)がダイナミックにシュートを決めて勝ち越した。


2試合目のチャイニーズ・タイペイ戦は力の差があることは予想されたが、コーナキックから喫した失点に千葉のゴールで追い付くと、上野真実(サンフレッチェ広島レジーナ)、清家貴子(三菱重工浦和レッズレディース)が畳み掛けて、最後は波状攻撃からWEリーグ初代得点王の菅澤優衣香(三菱重工浦和レッズレディース)がダメ押しゴールを決めた。


ディフェンスでは3試合で2失点はしたが、本来のキャプテンである熊谷紗希(バイエルン・ミュンヘン)、イタリアのASローマに移籍が決まった南萌華という守備の二本柱がいなくても、高橋はな(三菱重工浦和レッズレディース)、乗松瑠華(大宮アルディージャVENTUS)、宝田沙織(リンシェーピングFC)といった選手たちが守備を締められたのも大きい。


アジアと欧州の差


そうしたメリットは間違いなくある大会だったが、感じられたのはアジアと世界、特に現在EUROを戦っている欧州列強国とのチーム力の差だ。


E-1で対戦した韓国や中国でも欧米の列強国に比べると、縦の迫力や前線の個の力、ピッチ全体を使ったダイナミックさと言った、日本が世界と戦う上で、向き合わなければいけない脅威は感じられなかった。


もちろん韓国なら経験豊富な大型FWパク・ウンソンや司令塔のチ・ソヨン、中国であればパワーとテクニックを兼備するワン・シャンシャンなど、世界基準でも強力なタレントはいる。


しかし、一発で切り裂かれたり、波のように押し寄せてくる圧力は無く、日本が現状の強度でもカバーできてしまう。つまり池田太監督の求める戦術的な共有や新戦力のチェックという意味はあったが、”対世界”のシミュレーションにはならなかった。


“なでしこジャパン”は、来年7月に開幕する女子W杯の出場を決めているが、前回ベスト16に終わった中で躍進を果たすには、かなり高いハードルを乗り越える必要がある。


欧州勢の成長と勢いは明らか


最新FIFAランキングの1位はアメリカだが、トップ10のうち、2位スウェーデンをはじめ6か国が欧州勢となっている。残りは東京五輪の金メダリストである6位のカナダ、9位ブラジル、10位北朝鮮だ。(北朝鮮は新型コロナウイルスの感染を懸念して、W杯アジア予選を辞退した)。


ニュージーランドとのW杯共同開催国であるオーストラリアが12位で、日本はオーストラリアに続く13位。E-1選手権で対戦した中国は16位、韓国が18位だ。FIFAランキングを素直に評価しても、欧州勢の成長と勢いは明らかだ。


また昨年の欧州遠征で0-2の負けを喫した17位のアイスランドなど、ランキングは日本より下でも、相性のかみ合わせで厳しい戦いを強いられそうな国もある。


2019年にフランスで行われた前回のW杯では、ベスト8のうち7つが欧州だった。そのうち、東京五輪に出場できたのがイングランド(スコットランド、ウェールズの選手を加えてイギリスとして参加)、オランダ、スウェーデンの3か国だったことを考えても、オリンピックよりW杯の方が競争力の激しい大会であることは明白だ。


W杯の出場国数が拡大


さらに、オーストラリアとニュージーランドの共催で行われる来年のW杯は参加国が24から32に拡大される。それにより欧州の枠が8(前回はフランスが開催国だったため9か国が参加)から11に拡大し、プレーオフの結果次第では12か国が出場する。


すでにスウェーデンのほか、FIFAランキング3位のフランス、7位のスペイン、15位のデンマークが予選突破を決めているが、おそらく4位のオランダや5位のドイツ、8位のイングランドも順当に勝ち上がってくるだろう。


現在、乗りに乗っているのが11位のノルウェーで、高さとパワーを前面に押し出してくる分、日本が対戦することになれば、相当に厄介な相手だろう。


“なでしこジャパン”は今年6月の欧州遠征で36位のセルビア、EUROにも出場している29位のフィンランドと対戦し、それぞれ5-0、5-1と大勝して自信を強めたが、上位国に比べるとチームとしての強度やクオリティは高くなかった。


現時点では10月にホームで、アフリカ勢の39位ナイジェリア 、W杯の開催国である22位のニュージーランドとの対戦が決まっている。


ナイジェリアはランキング以上に強豪であるし、ニュージーランドはフィジカル的な特長を考えても、それなりに歯応えのある相手だ。加えて、残り1年間でいかに欧米の列強国とマッチメークしていけるかが鍵になる。


若手の突き上げに期待


もちろん選手が”個の力”を伸ばしていくことも重要だ。南が三菱重工浦和レッズレディースを離れて、ASローマでの欧州挑戦を決めた。長野風花もマイナビ仙台レディースからノースカロライナ・カレッジに移籍し、北米のNWSLでチャレンジする。


欧州で長く活躍する熊谷や岩渕真奈(アーセナル ・ウィメン)、長谷川唯(ウェストハム・ユナイテッド)に加えて、海外組が増えているのは頼もしいが、WEリーグ全体がもっと活性化していくことが”なでしこジャパン”の競争力、選手層のアップにもつながる。


期待したいのが若手の突き上げだ。池田太監督が兼任で率いる”ヤングなでしこ”は8月10日にコスタリカで開幕するU-20女子W杯で、同じ池田監督が率い、長野風花や宮澤ひなたを擁して優勝した、2018年大会に続く大会連覇に挑む。


強豪国には必ずと言っていいほど10代でA代表に名を連ねている選手はいるが、現在の”なでしこジャパン”では最年少が22歳の遠藤純(エンジェル・シティ)や高橋だ。


池田監督は大会後にU-20の選手を”なでしこジャパン”に組み込んでいくことを示唆している。チームとしての躍進はもちろん、来年のW杯に向けて一人でも多く、若手が突き上げることが、チームのさらなる成長につながるはずだ。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

シェアする
河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

このコラムの他の記事

おすすめ動画