なでしことオランダ。紙一重の勝負を分けた差とは?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第91回

なでしことオランダ。紙一重の勝負を分けた差とは?

By 清水 英斗 ・ 2019.6.27

シェアする

FIFA女子ワールドカップ、決勝トーナメント1回戦。なでしこジャパンはオランダ女子代表に1-2で敗れ、ワールドカップの舞台を後にすることになった。


グループリーグのスコットランド、イングランド、そして決勝トーナメントのオランダと、どのチームもピッチの幅を広く使い、GKから意図的なビルドアップを仕掛けてきた。身体の大きさを生かしたデュエルと、長くて正確なキック。なでしこの特徴から見れば、3つの欧州のチームは、どれもそれなりに似ている。


ただし、戦術の細部はチームごとに違った。オランダはセンターバックに合わせてサイドバックが低い位置を取り、ボールを回す。日本のサイドハーフ、長谷川唯や中島依美を引っ張り出し、中盤を間延びさせて、前方に蹴る。アンカーを経由できる状況ではショートパスを使う場面もあったが、特に試合序盤のオランダは、ロングボールをシンプルに蹴ってきた。


ポストプレーの細かいパス交換でもミスが多発するオランダは、イングランドほどの技術はない。最終ラインでボールを保持しつつも、その先はショートパスにこだわらず、シンプルに蹴ってきた。


ロングボールでウイングが裏を取れれば、それでよし。もし取れなければ、ウイングが足下にボールを収め、MFが飛び出して行く。オランダはインサイドハーフが高い位置を取っていた。日本のダブルボランチ、杉田妃和と三浦成美の前には立たず、その横か、あるいは背後のライン間に立つ。杉田と三浦にとっては、彼女らを視認しづらく、ポジショニングが難しい。


中盤の間延びと、捕まえづらいギャップ。オランダはビルドアップで、日本にとって厄介かつ、再現性のあるポジショニング攻撃を仕掛けてきた。


見事だった同点ゴール


ただ、日本がそれに対し、常に無力だったわけではない。前半の怪我人の治療中、選手同士がコミュニケーションを取り、修正を図っていた。それが実を結んだのが、前半43分に1-1に追いついた同点ゴールと言えるだろう。


低い位置に立つ相手サイドバックへ、やや緩慢なロングパスが出ると、左サイドハーフの長谷川唯がこれを見逃さず、勢い良くスプリントし、プレッシャーをかけた。すると相手はボールを保持できず、そのまま前方へクリア気味にキック。これを杉田が拾うと、ショートカウンター発動。杉田は長谷川とスイッチして左サイドへ流れ、岩渕真奈を経由したボールをタッチライン際で受けた。


そして左サイドからドリブルで運び、アンカーの8番スピッツェを引き出すと、中へ短くパス。岩渕をねらったパスに見えたが、ボールが流れたところを菅澤優衣香がサポートして落とすと、岩渕の下へ。うまい具合に混乱を引き起こした。最後は岩渕のスルーパスに反応して飛び出した長谷川が、ゴールへ流し込む。


サイドバックの位置取りで守備に穴を開けてきたオランダに対し、日本は相手のビルドアップの幹を断ち切るプレスをかけ、ショートカウンターを浴びせた。見事な同点ゴールだった。


コーナーキックで与えた失点


そうやって時間と共に日本はペースを握り、後半は一方的な試合になった。それだけに、決定機を沈めることができず、終了間際のPKに泣いたのは残念だ。


ただ、そのPK云々を語る前に、前半17分にオランダに与えた先制ゴールは、非常に安いものだった。ペナルティエリアの角のスペースを守る長谷川が、相手に引き寄せられてコーナーサイドへ近寄ったため、それを見た三浦が味方に声をかけつつ、ペナルティアーク付近でマークしていた7番ファン・デ・サンデンを捨て、ニアサイドへ移って行った。


ところが、そのファン・デ・サンデンが、三浦がマークを捨てるや否や、すぐにゴール前へ移動。これでオランダの空中戦5人に対し、日本は4人。マークが足りない状況で、コーナーキックは蹴られた。そして、20番ブラッドワースと11番マルテンスがニアサイドへ走り、その合間で対応が遅れた杉田の目の前で、マルテンスがフリーで合わせる。ボールは菅澤の足下を抜け、ゴールに吸い込まれてしまった。


相手がペナルティエリアの角を使い、サインプレーを仕掛けてくるとスカウティングされていたのかもしれないが、その対応で守備がずれたところを、オランダに突かれてしまった。この試合、日本が与えたコーナーキックはわずか3本。悔いが残る対応ではある。


また、オランダのビルドアップに対しても、うまく同点ゴールを挙げたとはいえ、修正に時間がかかりすぎた。なでしこの“4-4-2破り”として、そんなに珍しい戦術ではないにもかかわらず。


紙一重で敗れた試合の要因はさまざまだが、セットプレーの失敗、プレッシング修正の遅さなど、ディテールに甘さがあったのは確かだろう。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

シェアする
清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

このコラムの他の記事