カタールワールドカップ最終予選、日本はアウェーで初めてオーストラリアに勝利を収め、最終節に持ち込まれることなく、本大会出場権を獲得した。
4年前の最終予選は、ホームでオーストラリアに勝って出場決定。今回はアウェーでオーストラリアに勝って出場決定。何の偶然か、スコアは共に2-0。そもそも4大会連続で最終予選が同グループになること自体、縁が深すぎるわけだが、いつまで続くのやら。
三笘薫の2ゴールは本当にブラボーだった。
1点目の起点は山根視来だ。右サイドでボールを持つと、しゃくり上げた浮き球をエリア内の守田英正へ渡す。すると、山根は一歩縦へ行くふりをして、すぐに中へ。対峙したDFの裏ではなく表側を通り抜け、それから縦へコースを変えた。アルファベットの『L』を描く動きで、オフサイドにかからず、守田とワンツーを成功させた。
ゴールエリアの脇を崩したら、折り返す場所はマイナス方向だ。そこへいち早く反応した三笘は少し膨らんで走り込み、打ちやすいシュート角度を作って、ファーポストへ流し込む。
キックの際に相手DFの足が伸びてきたが、三笘はテークバックをほぼ取らず、ランニング姿勢のまま、ボールを足に乗せて送り出すようにシュートを決めた。
川崎でよく見たプレー
山根の崩し方から、守田の起点、三笘のフィニッシュに至るまで、川崎でよく見たようなシーン。
2点目は三笘の単独突破だったが、半テンポずらして後ろ足から引きずるようなタッチで、一気にスピードに乗り、すいすい突破してゴール。ボールが足から離れないスピードドリブルも見事だが、状況をうまく使った。
ボールキープし始めた日本が、まさか仕掛けてくるわけがない。そう思い込んだオーストラリアDF陣の隙を突き、衝撃的なゴールを挙げた。
三笘はあのスピードに乗った中で、シュートをインサイドで打ち、浮かさなかったのも見事だ。ボールはグラウンダーでGKマシュー・ライアンの足下、伸ばした手に当たってゴールに吸い込まれた。
中途半端にシュートが高くなり、相手GKの腰や肩の横など、そのまま手が届く範囲に蹴ってしまうと、セーブされやすい。GKライアンは悔しがったが、ピッチ状態も含め、三笘のシュートはGKにとっては決して簡単ではない、泣き所を突くものだった。
1点目も2点目も、三笘のシュートの巧さが随所に表れていた。決定力に乾杯。
川崎出身選手の台頭
今回の最終予選は、序盤3戦が1勝2敗。今まで以上に厳しいスタートだったが、終わってみれば、その後は怒涛の6連勝で出場決定。潮目が変わったのは10月、ホームのオーストラリア戦だった。
守田と田中碧をインサイドハーフの主軸とする、[4-3-3]を導入。アウェーのオマーン戦や今回のオーストラリア戦では三笘がインパクトを残し、山根もフル出場した。
1月の2試合では谷口彰悟と板倉滉がセンターバックでコンビを組み、板倉は今回もフル出場。川崎と同じシステムの中で、川崎出身の選手が次々と台頭した。
今日のゴールは特に、川崎のDNAが無ければ生まれない形だった。今回の最終予選が6連勝に転じた背景に、今季3連覇を目指すJ1王者の姿があったのは、誰もが認めるところだ。
クラブのベースから、代表が作られていく。2010年にW杯で優勝したスペイン代表はバルセロナ、2014年のドイツ代表はバイエルン・ミュンヘンの選手が中心となり、クラブチームのような代表を作り出した。
まさか、日本代表でもそれが見られるとは。正直驚いた。今回の最終予選で一番印象的だった。
あり得なかったことが起きている
基本的に、Jクラブが日本代表のベースになるのは難しいと思っていた。Jリーグはスペインやドイツとは違い、世界のトップリーグではないので、日本代表が上を目指そうとすれば、欧州クラブに所属する個の力に長けた選手を集めるしかない。
スペインやドイツのように、同一クラブから選手を集めて代表を作るのは、日本では不可能だと思っていた。
ところが、川崎出身の選手たちはそれを覆した。彼らは欧州クラブへ移籍した後も、川崎のDNAを維持している。おそらく今後も失わないだろう。
哲学やスタイルを持ったクラブで、複数年に渡って確固たる結果を残せば、そこから羽ばたいた選手が再び代表で集まり、クラブチームのような代表を作り上げる。そんなことが起こり得るんだと、今回の最終予選では特に印象的だった。
最近の日本代表を見て、「結局川崎じゃん」と言う人もいるかもしれない。だが、それを言えること自体が衝撃的、歴史的だ。今まではあり得なかったことが起きている。(文・清水英斗)
写真提供:getty images