東京五輪サッカー男子・準決勝敗退。スペイン戦の守備プランを考察する

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第142回

東京五輪サッカー男子・準決勝敗退。スペイン戦の守備プランを考察する

By 清水 英斗 ・ 2021.8.4

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五輪準決勝のスペイン戦は、延長戦の末に0-1で敗れた。


歴史の扉を開くことはできなかった。


日本の選手たちはそれを成し遂げようと、強い意志を持ち、この試合にすべてをかけた。ただ、『扉』に対する意識はあまりにも強く、試合の序盤は動きが堅かった。


普段ではあり得ないイージーミスをする選手もちらほら見られ、スタジアム入場時も、緊張の色は顔や様子に出ていた。平常心で挑むのが困難な試合だったのは想像に難くない。


これで五輪はベスト4が3回目。ワールドカップもベスト16が3回。日本は共に3回チャレンジしたが、その上を見ることができなかった。今後、『扉』は『鬼門』になりそうだ。


メキシコ戦同様のやり方


日本はスペインのポゼッションに対し、どう守備を、ゲームプランを構築したか。やはりポイントになるのは、アンカーのマルティン・スビメンディへの対処だ。


キックオフと同時に林大地と久保建英は、2枚でプレスに行ったが、序盤の喧騒が落ち着くと、すぐに久保は林と縦関係になり、スビメンディを明確に抑える形を取った。メキシコ戦と同様のやり方だ。


また、左サイドハーフが前へ出て、林と共に相手センターバックへのプレスをかみ合わせるやり方も、メキシコ戦と同様だった。


ただし、今回そのポジションに起用された旗手怜央は、メキシコ戦の相馬勇紀ほど明確なハイプレスは実践していない。行けるときは行くが、行けないときは中盤のラインに下がり、基本的には[4-5-1]で相手のパスを引っ掛けてロングカウンターを狙う。


タイミングの合わないプレス


メキシコ戦の日本は序盤に勢い良くハイプレスに行くなど、時間帯とスコアによってプレッシングのゾーンを変える節もあったが、延長戦まで考えなければならないスペイン戦は違った。


序盤から[4-5-1]で構える時間が長かった。もっとも、最初に旗手がプレスに行ったとき、あっさり外されてビルドアップを許したので、慎重になっただけかもしれないが。


その後も旗手は終始、プレスをかみ合わせる機会をねらっていたので、この辺りのハイプレスとリトリートの使い分けは、選手の判断に委ねられたのだろう。


しかし、全般的に旗手のプレスは、中途半端に感じられた。タイミングが味方と合っていない。前とも後ろとも合っていない。攻撃面では良かった旗手だが、守備はかなり苦労した印象だ。


スペインに崩された場面


その際たる場面は、前半39分だった。相手左センターバックのパウ・トーレスが持ち運び、MFミケル・メリノにワンタッチでつながれ、抜け出したFWラファ・ミルが決定機を迎えた。日本はGK谷晃生のファインセーブでどうにか難を逃れたが、危険すぎるシーンだった。


この場面は、旗手のちょっとした動きで日本に隙が生まれている。


まだ林がパウ・トーレスにプレッシャーをかけていないのに、旗手が右センターバックのエリック・ガルシアへ寄せる動きを見せてしまい、それをパウ・トーレスに見切られた。


その瞬間、パウ・トーレスに素早くボールを運ばれ、旗手の背後のスペース、ボランチ脇へ斜めにクサビが通ってしまう。


あとは芋づる式。ワンタッチで中継したMFメリノに板倉滉が釣り出され、吉田麻也も、パウ・トーレスのクサビのコースを空けるために前へ出てきたMFスビメンディに一瞬釣られ、FWラファ・ミルへの対応が遅れた。


質の高いコンビネーション


スペインは中盤でマークを合わされても、こうやってスビメンディが潜って来たり、誰かが入れ替わったりと、質の高いコンビネーションを行うので厄介だったが、この場面はそもそも日本の守備がズレていた。


旗手はプレッシングのキーマンだが、なかなかタイミングが合わないシーンが多かった。旗手スイッチ、君のはどこにあるんだろう。味方は見つけられなかった。スペインが隠したのかもしれない。


おそらく、この前半39分の決定機は、日本にプレスの修正を判断させるきっかけになった。


後半は林が左センターバックのパウ・トーレスをはっきりと見張り、右のガルシアをわざと空け、ワンサイドに絞った。


本来なら両方チェイシングしながら、流動的にプレスを合わせたほうが高い位置で奪うチャンスはあるが、スペインに連係で上回られてしまうので仕方ない。いよいよ、ハイプレスは諦めた。


日本も変化で対応


このワンサイド絞りは、逆サイドへ展開されたとき、酒井宏樹が1対1で圧倒したり、サイドチェンジを引っ掛けてくれたりと副次効果もあり、良い修正というか、良い妥協だったと思う。


一方、スペインも日本のカウンターや中央への飛び出しを警戒したのか、後半途中から後ろを3枚に変形させてきた。互いに慎重さを見せる修正采配は、この試合の緊張感をまざまざと感じさせた。


結局、スコアは0-0のまま動かず、115分間を過ごすことになった。


最後はマルコ・アセンシオの一発にやられたが、日本もチャンスは作った。林、久保、堂安のシュート。コーナーキック。延長戦の前田大然のヘディングも惜しかった。


何よりPK戦に持ち込めていれば…。『森保る』ことができたかもしれない。


決して先に進めない試合ではなかった。それだけに、この落胆から立ち直るのは簡単ではないが、五輪はメダルがある。3位と4位は大きく違う。最後はメダリストとして終わりたいところだ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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