ぶっちぎった――と思ったら、ニョキッと伸びてきた足がボールを触ってコーナーキックになる。そんなシーンは一度や二度ではなかった。
U-17W杯ラウンド16、イングランド戦は「まさに死闘」(森山佳郎監督)だった。日本は「ほぼほぼ狙いどおりの流れ」(同監督)で後半勝負の展開に持ち込んで、スーパーサブの高速ドリブラー、MF椿直起(横浜FMユース)を投入して、勝負をかけた。疲れてきた相手に対して、打開力と推進力のある椿をぶつける。プラン通りの流れだった。
ただ、結果として日本の狙いどおりの流れはゴールという果実を産み落とさなかった。決定力不足だった? いや、違うだろう。イングランドの守備を最後に破りきれなかったからだ。
椿は何度もドリブルで対面のDFを出し抜いてみせていた。だが、日本ならそこからの加速で確実にぶっちぎっていくであろう流れから、追い付かれてしまうのだ。「あんなに(疲れて)ヘロヘロなのに、最後のところで加速して足が出てくる」(森山監督)守備を前にして、結局日本が準備していた勝利の方程式は、成立の手前で防がれてしまった。
真剣勝負だからこそ見えた課題
あるいはこれが親善試合だったら、彼らもあそこまで必死に走り切らないのかもしれない。「試合前からギラギラ感が(親善試合とは)違った」とはFW宮代大聖(川崎F U-18)の言葉だが、そういう真剣勝負だからこそ見えた課題とも言えるだろう。
日本の選手たちが日常的に競っている相手とは、アスリート能力が決定的に違っている選手たちをどうやって打ち崩せばいいのか。「疲れたところを刺しに行く」というのが日本側が用意していた回答だったし、実際に親善大会や練習試合ではそうやって強豪国を沈めてきたチームでもある。だが、真剣勝負の世界大会で、そう都合良くいかない部分がクローズアップされることとなった。
「日本では観られない」(森山監督)、彼らの日常と乖離した光景と言えば、二つの欧州勢、フランスとイングランドの両国から受けた猛プレスもそうだろう。戦術的に整理されたプレッシング自体は日本でもあり得ることだが、個々のアスリート能力が加味されてのプレスはまるで話が違ってくる。
日常のリーグ戦が人工芝で開催される弊害
心理的にも圧力を受ける中、猛スピードで迫ってくる相手をいなして運ぶだけの力が日本になかったことも確かだ。もちろん芝の状態が良くなかったこともあると言えばあるのだが、人工芝の上でしか発揮できない技術ならば、それはやはり不十分な技術ということだろう。
その意味でも、彼らが日常的に戦っているリーグ戦の多くが人工芝で開催されている現状は、決してポジティブではないかもしれない。ボールがよく走り、“事故”も起きにくく、顔を上げやすいので判断も容易な人工芝では、後方から繋ぐプレーに自然と優位性ができやすい。
これは当初「後ろから繋ぐチームが増える」と歓迎されたのだが、結果としてハイプレスがリスキーなだけになるので、積極的に奪いに行くことを避けて、後ろで構えるチームが自然と多くなる効果を生み出した。
ある強豪校の監督は「Jユースが相手でも、天然芝なら前から追って戦える。でも、人工芝だと無理。前から追うサッカーは絶対にできない」と語っていたが、裏を返して「人工芝ならできる」というのも、世界大会が天然芝で開催されている現状を思えば、考え物である。
人工芝のグラウンドは日本サッカー協会が推奨して爆発的に普及した背景もあるので、今さら言いにくそうだけれど、日常のリーグ戦で天然芝開催を増やすアプローチはもっと必要かもしれない。
それはもちろん、天然芝グラウンドの整備を促すこととワンセットだ。手始めの策として、高円宮杯U-18プレミアリーグでの天然芝グラウンド開催に、補助金を出すといった制度導入はどうだろうかと思う。
欧州勢の台頭を予感する大会
今大会、インドの環境面を考慮すると、欧州勢は走り切れないのではないか。大会前はそんな観測もあったが、彼らは日本側の想像以上にタフだったし、グループステージの戦いを通じてアジャストしてきていた。誤算と言えば、誤算である。この大会の欧州勢はフィジカルコンディションに加えて、メンタリティーの部分でも非常にタフで、“走れなくなった後の戦い方”も心得ていた。
これまでU-17W杯ではアフリカ勢が専ら強く、中南米勢がそれに次ぐ流れもあった。だが、“エイジチート”、いわゆる年齢詐称に関する医科学的な規制が厳しくなっている流れもあり、今後はU-17年代でも欧州勢がコンスタントに結果を残していく流れになるのかもしれない。
そのくらい欧州勢のクオリティは高かったし、選手層も分厚かった。あらためて、彼らに打ち克っていく難しさを痛感させられると同時に、そんな彼らと真剣勝負で競うことのできるこの大会の貴重さを、実感できる場ともなった。(文・川端暁彦)
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