絶体絶命の状況から2ヶ月半、ベスト16に導いた西野采配の真髄

COLUMN戸塚啓 ロシアW杯スペシャルコラム

絶体絶命の状況から2ヶ月半、ベスト16に導いた西野采配の真髄

By 戸塚啓 ・ 2018.7.1

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 誰も予想できなかったベスト16入りは、誰も予想できなかった展開で成し遂げられた。


 コロンビア戦に続いてセネガル戦でも、西野朗監督は積極的な仕掛けをした。1対2と突き放された直後に、香川真司を下げて本田圭佑を投入する。その直後には、原口元気を下げて岡崎慎司を送り出す。システムも4-2-3-1から4-4-2へ変えた。


限られた3つの強化試合は効率よく消化したが…


 ロシアW杯の開幕までに、西野監督に用意されたテストマッチは3試合だった。5月30日のガーナ戦は、3バックのテストと最終的な選手の見極めが主目的だった。6人の交代ワクを使いきったものの、勝利をつかむための意味合いは薄かった。


 6月8日のスイス戦でも、途中出場で5人の選手を起用した。結果が欲しかった一戦だったが、ここでも最優先されたのは勝利ではなかった。選手のチューンナップとシステムの機能性のチェックに、軸足が置かれたといっていい。


 4日後のパラグアイ戦は、過去2試合でピッチに立っていない選手を漏れなく起用した。GKも前半は東口順昭が、後半は中村航輔が出場した。そのうえで、この試合も5人の選手が途中出場した。

4対2で勝利した一戦では、香川真司や柴崎岳が好印象を残した。昌子源もこの試合をきっかけに、コロンビア戦のスタメン入りを果たす。選手の最終チェックを行ないつつ、W杯開幕前にようやく勝利を得ることができた。チームにとっては有意義な一戦だったものの、西野監督は個人的な準備ができないままW杯を迎えることになった。


「大舞台で1ポイントを取るのは、本当に難しい。ギリギリの勝負をしていくなかで、どっちに転がってもおかしくないような状況のなかで自分たちが試合の流れを引き寄せなければならない。選手を代えて変化をもたらすのか、システムを代えてそういう瞬間を待つのか。そういう感覚を自分自身は持ちたい」


W杯開幕を控えた段階で、西野監督はこんな話をしていた。「想定外のこともたくさん起こるなかで、瞬間、瞬間の判断が大切になる。自分の直感的感覚を磨いていく必要がある」と。ところが、監督としての自分を研ぎ澄ます作業には、ほとんど手をつけることができなかったのである。


明確なメッセージによって流れを引き寄せる


それだけに、コロンビア戦の采配は見事だった。

2枚替えと言ってもいいタイミングで本田と岡崎を起用すると、彼らふたりがきっちり同点弾に絡んだ。ピッチに残した大迫勇也と乾貴士もゴールの流れに関わっている。

3枚目の交代は宇佐美貴史だった。失点後にセネガルが交代のカードを2枚切り、日本の守備に圧力をかけてきた。DFを投入する手当てを西野監督も考えたが、「貴史にワンチャンスある。最後に勝ち切りたい」とのメッセージを込めて背番号11を送り込んだ。

交代そのものはオーソドックスと言っていい。その代わりではないが、メッセージとして分かりやすい。選手たちが混乱することがない。交代によって試合の流れを手離すことがなく、むしろ引き寄せることができている。西野監督の手腕が評価されるところだろう。


ポーランド戦は大胆にメンバーを入れ替えた。長谷部誠と乾貴士は警告を受けていたから、決勝トーナメント1回戦を考えて温存することも予想された。しかし、第2戦までから6人も入れ替えるのは、相当に思い切ったターンオーバーだった。

大会初先発の選手のパフォーマンスは、必ずしも良くなかった。一方で、ひどく悪いものでもなかった。「バックアップメンバーのコンディションやモチベーションはとても大事」と西野監督は話していたが、スタメンから外れてきた選手たちのコンディションを、非公開練習でしっかりと整えていたのだろう。


責められることを覚悟した『ボール保持』采配は英断


この試合のハイライトはラスト10分だ。0対1で負けても2位通過できる状況で、西野監督はボールを保持し続けることを選ぶ。82分、3人目の交代選手として起用された長谷部誠の投入が、「このままのスコアでいい」とのメッセージとなった。

0対1でコロンビアに負けていたセネガルが、万が一にでも追いついていたら? 日本は3位に転落していた。無為な時間を過ごしたあげくにグループリーグ敗退となったら、世界中の笑いものになっていたかもしれない。日本国内も大騒ぎだっただろう。

自分の采配がどのような反響を呼ぶのかは、西野監督も想像を及ばせていたはずである。ここまで強気の采配をしてきた指揮官にとって、「負けるためにボールを保持する」のは自己否定に等しい。

それでも、西野監督は「攻めなくていい」と指示し、グループ2位の座をつかんだ。世紀の大ギャンブルに、彼は勝ったのだ。


賛否両論はあるだろう。ただ、最後まで攻めたあげくに2点目を取られたり、警告や退場を受けたりしたら、「なぜ攻めさせた」との声があがっていたはずである。

どのような判断をしたところで、西野監督は責められたのだ。だとすれば、チームを2位へ導いた手腕を、素直に評価するべきだと思うのである。

消極的な決断でも、弱気な決断でもない。大英断だったのだ。(文・戸塚啓)


写真提供:getty images

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戸塚啓

戸塚啓

1968年6月生まれ。神奈川県出身。サッカー専門誌編集者を経て98年よりフリーランスに。サッカーW杯は98年から18年まで6大会連続で取材中。近著に『必ず、愛は勝つ!車イスサッカー監督羽中田昌の挑戦』(講談社)、『結果を出し続ける~フィジカルトレーナーの仕事』(光文社新書、中野ジェームズ修一氏との共著)など。『2018ロシアワールドカップ観戦パーフェクトガイド』(ぴあ)を監修。

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