少なからず意見は分かれるかもしれないが、コスタリカの躍進をあげる声は多いはずだ。大会前はまったくの無印だった北中米カリブ海地区からの来訪者は、ウルグアイとのグループリーグ初戦で3対1の勝利をつかみ、イタリアとの第2戦も1対0で競り勝つ。イングランドとの第3戦はスコアレスドローに持ち込み、2勝1分の首位でグループリーグを突破したのだった。
これだけでも特筆すべき足跡だが、コスタリカの躍進は決勝トーナメントでも続く。日本のグループを2位で通過したギリシャをPK戦のすえに退け、オランダとの準々決勝でもPK戦まで持ち込んだ。大会後にレアル・マドリーへ移籍する守護神ケイロル・ナバスの好守が支えになったとはいえ、チーム全体のハードワークと敢闘精神は胸に響くものがあった。
日本代表はケイロル・ナバスの壁を3度破った
そのコスタリカに日本が勝っていることは、多くの人の記憶から抜け落ちているに違いない。ブラジルW杯直前の6月2日にアメリカで対峙し、アルベルト・ザッケローニ率いる日本が3対1で快勝している。
コスタリカはほぼベストメンバーで臨んでいた。システムもブラジルW杯と同じ5-4-1である。
グループリーグで対戦する3か国よりも実力の劣る相手に、1対3の完敗を喫したのである。これが日本であれば、ショッキングな敗退として報道されていただろう。
ところが、コスタリカのホルヘ・ルイス・ピント監督は慌てないのだ。試合後の会見では淡々とした口ぶりで、前向きなコメントを並べた。
「カウンターアタックや選手個々の動き、試合のペース配分やリズムを含めて、W杯を想定した試合ができたと思います。選手交代を3人にしたのも、W杯と同じシチュエーションで調整をするためでした」
ガーナ戦もコロンビア戦までのプロセスでしかない
西野朗監督の初陣となった5月30日のガーナ戦は、0対2の完敗に終わった。長谷部誠を最終ライン中央へ置いた3バックは、オープンプレーから失点を許さなかった。その一方、他国なら得点に結びついてもおかしくない場面で、少なくともシュートをワクに持っていくべきシーンで、スタンドから何度もため息をこぼれた。W杯の初戦を約3週間後に控えたチームとしては、結果も内容も満足できるものではなかった。
他でもない西野監督自身も、結果については厳しく受け止めていた。
ただ、19日のコロンビア戦までのプロセスとして考えた場合、必ずしも悲観するものでない、というのが指揮官の肌触りだったと感じる。
「W杯では色々な状況に対応しなければならない」と、西野監督は話す。ビハインドを追いかける展開、リードを守り切る展開、自分たちが主導権を握っている展開、相手に握られている展開──時間帯やスコア、グループ内の勝点差などにも応じて、1試合のなかで幅のある戦いができるような準備が必要だと言う。そのためのひとつの選択肢として、ガーナ戦では3-4-2-1を含めた複数のシステムにトライしたのだった。
スイス戦、パラグアイ戦も勝利が最優先ではない
8日に予定されるスイス戦と12日のパラグアイ戦では、4-2-3-1で戦う時間がありそうだ。また、西野監督はこの2試合で23人全員を使う意向も示している。
システムを使い分けている時間的余裕があるのか?
ある程度メンバーを固めたほうがいいのでは?
こうした疑問もあるだろう。W杯まで猶予がないことは、西野監督も承知している。そのうえで、「色々な状況」に対応し得る準備を進めているのだ。時間の無さはミーティングの効果的な活用で解消しつつ、多くの選手が馴染んでいる4バックはそもそもゼロからの取り組みではない。「時間はないが、できうる限りの準備をしたい」と、西野監督は話す。
バックアップメンバーを使っておくことも、W杯に必要な準備である。W杯前のこのタイミングで実戦を経験しておかなければ、コロンビア戦までに1カ月以上も試合から遠ざかる選手が続出する。バックアッパーたちのコンディション維持も、W杯へのプロセスとして欠かせないものだ。
直前のテストマッチで結果を残すことは、チームから不安を取り除くことにつながる。だからといって、「勝てばすべてOK」ではない。大切なのは、テストマッチの位置づけの明確化だ。その意味で言うと、西野監督のプランは悪くないと思うのである。
ちなみに、グループリーグを突破した02年と10年は、直前のテストマッチを未勝利で終えている。だから今回も負けていいとは言わないが、「勝てば準敏万端、負ければ不安あり」との決めつけは、事実を見誤ることにつながる。(文・戸塚啓)
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