ロンドンで育った私が子供の頃、サッカーファンの友人たちは皆、いくつかのスタジアムにアウェーファンとして行きたがっていた。
当時、最も成功していたチームはマンチェスター・ユナイテッドとリバプール。誰もが、この2チームのスタジアムに行きたがった。そして、強豪ではないにもかかわらず、皆が一度は見に行きたいと思っていたチームがもうひとつあった。それが、セント・ジェームズ・パークを本拠地とするニューカッスル・ユナイテッドだ。
当時から、ニューカッスルのファンはとても情熱的だと評判だった。イングランドのほとんどの都市には複数のサッカーチームが存在し、ファンはどのチームを応援するかを選べる環境にある。だが、ニューカッスルの町にはチームが1つしかなかったので、誰もがパグパイズのファンになった。
ロンドンに住む私たちにとって、イングランドの北部に位置しているニューカッスルは、とても遠い場所にあるようにも感じられていた。いざ向かうとすれば、旅に出るようなものだ。
中立のファンにとっても、ニューカッスルというクラブは愛すべき存在だった。なぜなら、ファンのクラブに対する情熱がとてもピュアだからだ。そして、ビッグクラブでも強豪でもなかったので、より親近感や好感を抱きやすかったのだ。
しかし先週、ニューカッスル・ユナイテッドは、サウジアラビアのコンソーシアムに買収されたことが発表された。
そのため、彼らは親しみやすく好感の持てるクラブから、一夜にして“嫌われ者”へと変貌してしまった。なぜなら、サウジアラビアの人権軽視問題などを横に置いておいて、巨額の投資に飛びついたからだ。
そもそも、英国のサッカーファンは、巨額の資金援助を受けているクラブを好まず、そのチームのファンであっても嫌悪感を持つ傾向にある。
ニューカッスルのサポーターの中にも、早々に新オーナーの下では試合を観戦しないと表明している者もいる。サウジアラビアで問題視されている人権軽視問題をないがしろにしたままの買収に納得できず、スタジアムで応援するのは無理だというのだ。
そして、新体制のニューカッスルではまず、監督のスティーブ・ブルースが解任された。これは「不当な扱いを受けた」事実として、クラブを嫌う理由となる。実際、彼のもとでの成績は悪かったのだが、よそのファンには“サウジアラビアの後ろ盾による変化”としか映らない。
一方で、新しい投資に喜んでいるファンもいる。彼らは、その資金がどこから来たのかなど気にせず、チームの強化を望んでいる。例えば、クリスチアーノ・ロナウドやリオネル・メッシを連れてくるのではないかという夢物語を信じているのだ。
ただ、どんなに巨額を費やしたとしても、このクラブが優勝トロフィーに挑戦するようになるまでには、かなりの年月を要するだろう。現時点での選手たちのクオリティは低く、大型補強が必要な状況にある。とはいえ、すぐにスター選手を連れ込めるはずもなく、これからが本番だ。良いことも悪いことも必ず起こる。
成功するか失敗するかは、時間が経てば分かる。イングランドでの冷風も、結果が出たときには収まるのではないだろうか。
取材・文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)
記事提供:サッカーダイジェストWEB