『立ち位置』というコトバが好きだ。
静的な位置に、「立つ」というアクションが乗った表現。何となくその位置に居るのではなく、意識してそこに立つ、という能動的なニュアンスがある。「ポジション」や「ポジショニング」と言われるより、感覚に働きかける、動力のあるコトバだなと個人的には感じる。
元々『立ち位置』は演劇等で使われる舞台用語だったが、今は一般的にも使われ、「グループの中での立ち位置を確立する」といった具合に、周囲との相対的な位置を示唆するコトバでもある。辞書を引くと、『周囲の状況の中でその人が取る立場』(デジタル大辞泉)と記されている。
決められたママの位置、独りよがりの位置ではなく、味方や敵など周囲の状況の中で決まる『立ち位置』。最初からサッカー用語だったのでは? と思えるほど、サッカー的な言い方だ。指導者や選手をはじめ、いつの間にか『立ち位置』と表現する人が増えたなと昨今思っていたが、現場にコトバが浸透するのは、それだけの要因がある。
ところで昨年、渡邉晋さん(現レノファ山口監督)の『ポジショナルフットボール 実践論』の制作に携わった。ご存知かもしれないが、あの本は巻末に振付師の夏まゆみ先生との対談が収録されている。
サッカー監督と振付師、まさに異色の対談だが、別に制作陣が押し付けたセッティングではない。「振付師や演出家の方と対談をしてみたい」と希望したのは渡邉さん本人だった。『立ち位置』の語源といい、このポジショナルプレー指導者の琴線といい、現代サッカーと舞台には繋がるもの、繋がるコトバがあるのだろう。
『切る』は相手を置き去りにするトラップ
また、渡邉さんと言えば、本にも書かれているが、コトバを大事にする監督だ。チームが共通語を持つことを重視し、その一つに『切る』がある。味方のパスを受けるとき、マークされた相手と並行か、より高い位置に立ってパスを受ければ、トラップ一つで相手を置き去りにできる。こうしたボールの受け方を、『切る』と定義しているそうだ。
切る! ズバッと。仙台での指導時代、特にこのプレーを吸収した蜂須賀孝治は、「切れてるよ、切れてるよ。早くちょうだい!」と試合中によく要求したそうだが、この地味なオフザボールの工夫に、『抜く』と同じような爽快感、達成感を与えたのは画期的だなと思う。実際、戦術的な効果は同じなのだから。子どもに教えれば、きっと面白がって、「切りまくる」だろう。楽しく戦術IQが上がる、これも動力のある良いコトバだなと思う。
日常言語にフィットする言葉を使う
『解放』も印象的だった。
直訳すればサイドチェンジだが、『解放』はただサイドを変えるだけの用語ではない。狭くなった場所から広いところへ、『解放』する。相手のきついプレッシャーから、ボールを『解放』する。つまり、狭くもなっていないのに、目的意識が薄いままサイドチェンジするプレーを『解放』とは呼ばない。
単なる手段としての意味に留まる『サイドチェンジ』に比べると、『解放』はその状況、目的、心理的な共感も含まれた戦術的ニュアンスがある。多層的な動力のあるコトバであり、これも面白い。なおかつ短い。
英語とかスペイン語とか、今まで日本には外来語で様々なサッカー用語が入ってきた。先入観のない外来語は、アカデミックに学ぶ意味では有効だった。しかし、最終的に現場で使おうとすれば、その意味を咀嚼し、自分たちに最もフィットする日常言語として、感覚的なアウトプットをしたほうが、より高い動力を生み出せる。
指導者は映像、数字など様々なツールを使って指導し、チームを強化するが、いつの時代も、コトバはその中心だ。試合中継で聞こえるコーチングの中に、そうした動力のあるコトバが潜んでいると思えば、耳を澄ませたくなるだろうか。(文・清水英斗)
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