ACLをメリットに変えた川崎。戦術浸透度の高い鳥栖。J開幕で見えてきた戦い方

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第124回

ACLをメリットに変えた川崎。戦術浸透度の高い鳥栖。J開幕で見えてきた戦い方

By 清水 英斗 ・ 2021.3.17

シェアする

2021年のJ1は4節を終え、前年度チャンピオンの川崎が5戦全勝で首位に立つ。やはり強い。1試合平均2.6得点は圧倒的だ。


対抗馬の先鋒は、2位の名古屋。消化試合は1つ少ないが、4戦全勝の同ペースで川崎を追いかける。ただし、大量点を稼ぐチームではなく、4勝はすべて1点差ゲームだ。仮に勝ち点が並んでも、得失点差では分が悪い。直接対決で叩ければ理想的だが、まずは何より、勝ち点で引き離されず、付いて行くことが肝要だ。


その意味で、川崎には意外なメリットがある。上記「4節終了時点で5戦全勝」は、校正者のペンが止まりそうな表現だが、今季の集中開催となるACLグループリーグを戦う予定の川崎は、今後の日程を見越し、この早期からリーグ戦を1試合多く先行消化している。


先行優位の川崎


追う立場からみれば、川崎に先に勝ち点を稼がれてしまうのは、相当なプレッシャーではないだろうか。


PK戦における先攻優位の法則と同じこと。「勝たないと引き離される」というビハインド状態で試合をするのは、心理的負担が増す。段々、その状況が出来上がってきた。(本来なら名古屋も同じ条件だが、コロナ関連でG大阪戦が中止となり、未消化)。


意外なメリットだ。通常はACLといえば、コンディション不良をチームにもたらすリーグ戦のリスク要因であり、かつては「罰ゲーム」と揶揄する向きもあった。


しかし、今季に関しては、ACL組が早期から先攻優位のポジションを取れる可能性がある。そして、川崎はそれを取った。集中開催のため移動負担が例年より軽減されることを含めて、今季のACL組には、イレギュラーなメリットがあるかもしれない。


とはいえ、今季はすべてが流動的。ACLグループリーグは6~7月に延期され、リーグの日程変更もあり得る中、コロナ禍のリスクも依然存在する。消化試合数は今後もバラつくだろう。この際、順位表を見て一喜一憂する習慣から解き放たれることが、何よりの得策ではないか。

 

戦術浸透度の高い鳥栖


川崎の対抗馬として、名古屋以外にも、いや、名古屋以上に注目を集めているクラブがある。3勝1分の無敗で3位につける、鳥栖だ。


整理された立ち位置をスムーズに動かし、見事なポゼッション攻撃を披露する。さらにハードワーク、切り替えの早さ、運動量、強度など、総合的に完成度が高い。好チームだ。


ただし、わずか3節で、注目され過ぎたかもしれない。4節はロティーナ監督が率いる清水エスパルス戦にしっかりとリスペクトされ、対策を打たれた。


鳥栖はビルドアップを3枚で行うが、[3-1―4-2]で構えた清水は、FWチアゴ・サンタナとカルリーニョス・ジュニオが縦関係になり、片方は相手ボランチを見る。残った1枚と、河井陽介と鈴木唯人のインサイドハーフが、鳥栖の3枚にプレスを噛み合わせて行く。


清水のキーポイントは、竹内涼に代わってアンカーに入った、ヘナト・アウグストだ。前線とサイドが噛み合った状態で、鳥栖が中盤に入れる縦パスを、ヘナト・アウグストが奪い取る。この形で清水がカウンターを仕掛ける場面はいくつもあった。


逆に鳥栖から見れば、このヘナト・アウグストを外せば、攻略成功だ。インサイドハーフの仙頭啓矢らをサイドへ落とし、どこまで深追いするかの判断を迫ったり、あるいは逆側の樋口雄太が、カルリーニョス・ジュニオらが下がらない位置に出たりと、ヘナト・アウグスト周辺で様々な駆け引きをした。


それはまるで、詰め将棋。ヘナト・アウグストという将をいかに討ち取るか。失敗すれば逆にボールを引っ掛けられ、カウンターを食らう。ロジカルな緊張感に満ちていた。


相手にリスペクトされたときにどうするか


もっとも、清水はこの勝負にすべてを賭けるほど、若いチームではない。ヘナト・アウグスト周辺を攻略され、鳥栖に前を向かれたとき、DFはヘルプしない。手段は一択、美しき撤退だ。DFが中盤まで捕まえに出ることはなく、サッと下がり、守備ブロックの再構築を行う。


鳥栖も、この清水の守備の癖を途中から見切った。2トップの山下敬大と林大地の1枚をヘナト・アウグストの脇に下ろし、縦パスを受ける起点を作る。清水のDFはそこへ追撃して来ないので、有効な一手と言える。


ただし、林や山下がバイタルエリアで前を向いても、サイドへ展開するくらいで、相手への脅威は小さい。そこで後半17分、林に代わって、ドリブルを含めた打開に長けた本田風智の投入が意味を持ち、この交代から、鳥栖の攻撃は中盤打開後のスムーズさが高まり、次第に清水は深く下がる展開に。


その後、終盤は完全に鳥栖のペースだったが、GK権田修一のスーパーセーブもあって決め切ることは出来ず、スコアレスドローで勝ち点を分け合った。


序盤の注目チームと言える今季の鳥栖だが、清水戦のように相手にリスペクトされる試合が、今後の課題だろう。ゲーム作りは素晴らしいが、相手にスペースを閉じられたとき、こじ開ける力は物足りない。終盤を除けば、遠めからのシュートも可能性の無いものが多かった。


ただし、セットプレーに工夫が見られ、決定機も作っているので、本田投入と共に、セットプレーは膠着をぶち破る手段になるかもしれない。鳥栖は色々と楽しみなチームだ。


昨年の降格無しのレギュレーションでチーム作りが進んだためか、あるいはそういう監督が増えたためか、例年より戦術の浸透度が高いチームが多い印象はある。まあやっぱり、サッカーは面白い。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

シェアする
清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

このコラムの他の記事