国際大会は初戦が9割――。極端な表現に聞こえるかもしれないが、世界の中の日本の立ち位置を思えば、そう過ぎた言葉でもないだろう。
5月20日に開幕するU-20ワールドカップ。日本の初戦は21日、水原での南アフリカ戦だ。メンタル面への影響を考えると、たとえ初戦の相手がグループ最強国だったとしても、敗戦は後々まで響くもの。ましてやより力のある相手が後ろに控えているとなれば、必勝の構えで臨むほかない。
これは、たった3試合しかないために起こる現象である。34試合あるJ1リーグにたとえて考えるなら、初戦黒星スタートは開幕11連敗のようなもの。さらに、ライバルチームの開幕11連勝もワンセットなのだ。これは星勘定という意味でも、心理的な負荷という意味でも重すぎる。せめて、開幕11連分け(=初戦は引き分け)である。渋い結果には違いないが、ライバルに11連勝も与えていないので、十分にポジティブな可能性が残る。
リオ五輪では、初戦の躓きが大ダメージに
しかし、だからこそ「初戦は難しい」とも言える。
直近ではリオ五輪が典型だろう。初戦の重要性は、監督も選手も狂おしいまでに分かっていた。そして、だからこそ平常心で試合に入ることができなかった。乱れに乱れた試合は、結局大会の行方自体を左右してしまった。年代別代表の国際大会は、試合と試合の間が短く、A代表以上に立て直しが難しいという問題もある。今回のU-20ワールドカップも中2日のハードスケジュールで体力的に厳しく、精神的にも落ち込んだ状態から持ち直すのは難しい。
思えば、リオ五輪の初戦における選手たちの様子を観て、日本サッカー協会関係者が一様に漏らし、過去が現在にのしかかる「10年の空白」を痛感した「経験不足」だった。FIFA主催の世界大会へ出場するのが初めてという選手ばかりで構成され、オーバーエイジの選手も同様だったチームに、落ち着いたメンタリティーを望むのは難しかった。「10年の空白」を破って10年ぶりにU-20ワールドカップに臨む選手たちは緊張してしまうかもしれないが、それはそれで後々に向けた財産になるという見方もできる。
振り返ってみると、U-20ワールドカップ出場権をかけたアジア1次予選でも最終予選でも、初戦は最低の試合内容だった。考えられないような技術的なミスが出て、信じられないような判断の暴走が頻発した。前者がラオス、後者がイエメンとグループ最強国ではない相手だったが、まさしく大苦戦である。結果として勝ったものの、「どうも初戦はうまくいかない」(FW小川航基/磐田)というイメージを多くの選手が持ってしまっているところではある。どうもこのチームは、初戦に弱いように見える。
チームに漂う、ポジティブなチャレンジャー精神
もっとも、意外に伸び伸びやれるかもしれないという感触もある。「負ければ終わり」「絶対に負けられない」と意気込んで臨んだアジア予選の初戦は、いかにも「初戦」の内容だった。その点、10年ぶりの出場を果たして臨む世界大会は、完全にチャレンジャーのマインドだ。選手たちに話を聞いていても、明らかにアジア予選時のピリピリ感とは違う空気を感じる。「初戦に弱い」というイメージは、今回は当てはまらないかもしれない。
保険をかけておくわけではないが、初戦に負けた場合に思い出しておきたい故事についてもあらかじめ書いておこう。1999年のワールドユース(現・U-20ワールドカップ)ナイジェリア大会。小野伸二、高原直泰、遠藤保仁、小笠原満男、中田浩二といった後のA代表選手をズラリとそろえた日本代表は、初戦でカメルーンにまさかの苦杯をなめてしまう。だがその後の彼らはプレッシャーを跳ね返して大躍進し、見事に決勝へ進出。日本サッカー史における金字塔である準優勝という快挙を為し遂げることとなった。
「初戦が大事」なのは間違いない。9割大事かもしれない。ただ、残る「1割」のことも忘れないでおきたい。それくらいの余裕があったほうが、かえって結果も付いてくるはずだ。(文・川端暁彦)
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