河治良幸×清水英斗 現地対談(8)「どうだった? ベルギー戦」

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 W 杯特別企画 日本 vs ベルギー レビュー

河治良幸×清水英斗 現地対談(8)「どうだった? ベルギー戦」

By 清水 英斗 ・ 2018.7.5

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ラウンド16でベルギーと対戦した日本。戦前の予想を覆し、強豪相手に2点リードを奪ったが、フェライニの登場で流れを変えられると、立て続けに3失点を喰らい逆転負けを喫した。現地で取材を続ける河治良幸氏と清水英斗氏は、ベルギー戦の戦い方をどう捉えているのか? 好評対談の第8弾をお届けします。


河治:試合の立ち上がりは、日本が引いて守るよりも守備でハメに行き、ベルギーも思ったよりもパスをつないで来ましたね。


清水:最初はそうでした。ただ、日本も前から行くというよりは、試合の状況が落ち着いたら、ミドルゾーンで構えて守備をする形になりました。


河治:そこで、デ・ブライネが日本のディフェンスの間にパスを通してくるといったプレーはありましたが、それなりに対応はできていたと思います。


清水:日本は4-4-2系の守備で、3-4-2-1のベルギーにマッチアップする守備ではなかったので、ボールをサイドに展開されたとき、特に右サイドのムニエに展開されたときにスライドが間に合わず、起点にされてしまいましたね。


河治:ムニエは左サイドのカラスコと違って、典型的なウイングハーフの選手ではないんですよね。中央にいきなり入ってきたりしますから、


清水:ぼくも何かの記事で書いたんですけど、瞬間的にデ・ブライネが2人いるような錯覚に陥るんですよ。スピードは違うけど、ムニエはハーフスペースでもプレーできるし、クロスの質も高く、中に入れるパスの判断も速い。サイドのムニエがうまく起点になって、日本は対応に苦労していたように見えました。


河治:逆サイドのカラスコとアザールはボールをこねる選手です。彼らから良いパスが出てくることもあるけど、デ・ブライネとムニエのサイドに比べると、酒井宏樹と原口はうまく対応できたと思います。


「実はムニエがキーマン。嫌な選手でした」(河治)


清水:徐々に、日本はムニエが起点になる攻撃パターンに慣れてはきましたが、前半の途中からメルテンスが大外に流れて、ムニエが中に入って、ポジションチェンジをする形で仕掛けてきました。長友や昌子のところで対応に迷って、マークが浮くところもありました。


河治:デ・ブライネに注目が行きやすいのですが、実はムニエがキーマン。嫌な選手でしたね。シンプルなクロスでもチャンスを作られましたし。


清水:まあ、何だかんだ言いながらも、前半は0-0で抑えました。


河治:そのおかげで、日本は後半にギアを入れられた。むしろベルギーが一段上げてくるかと思ったら、日本が先にゴールを奪いました。


清水:1点目は柴崎のスルーパスに原口が走って、フェルトンゲンの裏を取る形でした。GKクルトワはスペースカバーの範囲が広いけど、フェルトンゲンが処理に行ったので、出てくることもなかった。そうしたら処理をミスし、原口がちょうど追いつきやすいボールになりました。


河治:フェルトンゲンの股辺りというか、取れそうで取れないボールに行ったんですよね。あのシーンは、乾が自陣でインターセプトしたところから始まっています。で、柴崎を経由して。


清水:鮮やかなカウンターでしたね。


河治:ベルギーの3バックに対して、左サイドから柴崎を経由して右に行き、相手の最終ラインを斜めに横切るカウンター。良い形でした。


清水:カウンターで逆サイドをねらって行けば、一発で裏を取るシーンを作れますからね。どうしても同サイドからカウンターに行くと、相手がスライドして来ちゃうので、もうひと手間かかります。得点場面はサイドを変えながら、一発でGKの前まで行った。良いカウンターでした。


河治:シュートは原口が中へ切り返して打つのかと思いきや、縦にグイッと行って打ちました。フェルトンゲンが追いかけてきたときに、切り返しそうなところを、その素振りから前に出て、GKクルトワが届かないぎりぎりのファーサイドに突き刺すという。


清水:シュートを打つのが遅れたかなと思ったけど、結果的にそれが良かったですね。クルトワがニアへのポジション移動の逆を突かれる形になり、フェルトンゲンも切り返しのフェイントに引っかかったのか、シュートコースに入って来なかった。


「2点目はセレッソっぽいリズム」(清水)


河治:2点目はクロスのこぼれ球から、乾がシュートしました。対応したのはヴィツェルですかね。


清水:香川がこぼれ球を拾って、ヒールパスで乾に預けたんですよね。


河治:乾はそれがわかっているように、構えていました。


清水:セレッソ時代っぽいリズムというか。背中側だろうが関係なく、ヒールで出す。乾もヒールで出されるのを待つような距離感でした。シュートも素晴らしかったです。ただ……、どうしても話題にしなければいけないのは、そこからの3失点。


河治:最初の失点は、日本がいちばん苦手な形でした。バレーボールみたいな。コーナーキックから長友とチャドリが競って浮き上がったボールを、川島がルカクの上からパンチング。弾いたところまでは良かったけど、その後にかき出せなかったですね。


清水:ルカクの上からだったので、川島のパンチングも、ちょっと短くなりました。とはいえ、競り勝っているから悪くはないし、サイド方向にはじけている。むしろ良いプレーです。


河治:それを乾が戻りながら蹴り上げて、落ちてきたボールをフェルトンゲンが頭で折り返して、入っちゃった。ちょっとこれはね、難しい。


清水:結果的に、この失点がかなり試合を左右しました。このボールの処理は見た目ほど簡単ではないし、川島の過失を責められるシーンではない。ただ、ポジショニングに若干の疑問はありますね。フェルトンゲンにボールが行ったとき、ニアポスト近くまで出て来たんですけど、ボールは高く浮いていました。


河治:はい。


清水:強いシュートが来る場面ではないし、頭で味方に折り返すイメージを含めて、もう1~2歩、中に立つのが良かったんじゃないかと。もし、フェルトンゲンが足元でコントロールする場面なら、川島が立ったニアポスト近くのポジションでOKだけど、フェルトンゲンの状況を踏まえると、どうなのか。相手がボールを抑えてから、出て行く順番で良かったのではと。ほんの1~2歩の、難しい話ですけどね。


河治:ゴール前に2人ぐらいいましたからね。ルカクやチャドリもそうだけど、フェライニが入ってきて、パスをつないで攻めてきたところから、パワープレーに転じていました。その結果、日本は苦しい対応を強いられました。


「フェライニ対策がどのぐらいできていたのか」(河治)


河治:ハリルホジッチがアルジェリア代表を率いて戦ったブラジルW杯のベルギー戦で、途中まで良い感じだったのに、フェライニが出て急にベルギーの戦い方が変わり、後手を踏んでメンバー交代を用意している間にやられた試合があったんですよ。だから、フェライニ対策がどのくらい出来ていたのかは気になりましたね。


清水:フェライニは、マンチェスター・ユナイテッドでも戦術兵器ですからね。4-3-3のインサイドハーフで使って、クロスに飛び込ませるのはよく見られた形で、この試合と同じです。プレミアリーグでも戦術兵器なんだから、日本戦でそうならないわけがない。


河治:日本としては割とうまくいってたけど、フェライニが出てくるのはわかっていたはず。そこで植田を入れるとか。特に対策をせずにやられてしまいました。


清水:その辺りは23人のメンバー選びからどうだったんだ、という話に戻ってきますね。


河治:今回の23人には入りませんでしたが、三竿健斗という選択肢もあったかもしれません。ただ、ラウンド16まで来て、この状況で起用するのは難しかったと思いますけどね。


清水:結局、今回の登録メンバー23人は、主力11人を選ぶためのリストであって、西野さんも最初からコメントしていましたが、それほど実戦がイメージされていたわけではありません。あまり、試合のパターンを作れなかった感じですよね。途中から本田や岡崎を入れるのも、割とワンパターン。守備陣にてこ入れする采配は、全然なかったですし。このチームの経験不足が出てしまいました。


河治:ベルギー戦の1失点目、フェライニは間にいたんですよね。ボールには触ってないけど、吉田とマッチアップしていました。いちばん頼りになる吉田を、フェライニに付けなくてはいけない状況になっていた。


清水:そうですね。それを放置した結果、そのフェライニが、2点目を決めました。アザールが大迫をかわしてクロスを入れた場面ですね。どちらもセットプレーの二次攻撃から失点しました。


河治:フェライニが長谷部と吉田の間に入って来て、長谷部の上からヘディングされました。ベルギーの丁寧な崩しから何度かピンチになっていながら、結局はそこからやられるという。


清水:そこまでは持ち込んだ、とも言えますけどね。


河治:それから2-2になって、西野さんは延長戦も考えていたみたいですが、日本は点を取りに行って、本田を投入しました。フリーキックを直接狙った場面は良かったけど、最後は失点につながったコーナーキックの直後、GKクルトワに対するチェックの甘さとか、点を取りに行くところでリスク管理の甘さが出ました。


清水:そうですね。


「選手たちは、悔しさと充実感を感じていた」(清水)


河治:日本としてはベスト16に行って、勝ちたいのはもちろんあるけど、ここでベルギーと試合をして、何かを見いだせるのではないかというところもあったと思います。


清水:選手に話を聞くと、自分たちのサッカーを示したことに対する自信を語っていました。もちろん悔しいけど、一定の充実感があった。それだけに、このチームでもっとやりたかったと。


河治:日本はよそ行きじゃなくて、自分たちの特徴を出しました。クイックネスやコンビネーション生かして攻めたし、守備では前からのプレッシャーだけではなく、ミドルゾーンのブロックでは数的優位をなるべく作っていました。でも、最後はその上をベルギーに行かれた。西野さんも「整理が難しい。ちょっとずつ、すべてが足りない」と言っていましたが、日本の良さを生かすところが足りなかったわけではなく、先鋭的に出せた部分もありました。実際にベルギーから点を取ることもできましたし。2点目はともかく、1点目はポゼッションではなくてカウンターなんだけど、その使い方が良かった。スペースを3人で共有して、そこに入って行くことができたので。そういう部分は出せましたよね。


清水:周囲からも日本のサッカーはすごく好意的に見られていました。良いプレーだったぞと、めちゃくちゃ言われましたね。なんだ、この手のひら返しは、と(笑)


河治:4年前と違うのは、状況に対して判断できるようになっていたこと。一つのやり方を突き通すのではなく、状況に応じて、自分たちの特徴を出すことはできていた。西野さんが監督になって2カ月ではあるけど、好意的に見たい部分ではあります。


清水:そうですね。


河治:ただ、就任2カ月で結果を出したことで、西野さんがこの先も率いてしまうんじゃないかと…。


清水:それはどうなんだろうと思います。西野さんは記者会見の中で、しっかりと「ハリルさんが率いたチームがあって、そのベースが間違いなくあった」と言っていました。もし西野さんが続投したら、ハリルさんと同じように、代表チームの強化というミッションが出来るかどうかですよね。今回の仕事は、クラブの監督の延長であって、代表監督ならではのオリジナルの仕事はほとんどやっていません。継続的な強化と、選手の発掘をどう行うか。指針、基準作り、競争の活発化。つまり、素材作りから始めなければいけない。そこが問題です。これまでとは違う仕事を見せてくれると、期待しなきゃいけない。


河治:西野さんが「やる」と言えば、やることになるんじゃないかと思いますけどね。カタールワールドカップでも継続するか、別の監督になるのかは、わからないけど。


清水:それにしても、しばらく西野派だのハリル派だの、擁護だのシンパだの、くだらない言い争いが増えそうで、面倒くさいです。


河治:決勝トーナメント進出は西野さんの大きな功績ではあったけど、ハリルの3年間がベースにあって、アギーレの半年がどのくらい影響したかはわからないけど、それを壊さずに、西野さんがアイデアを乗せたところが、ポイントですからね。


清水:ハリルさんと西野さんのどちらが欠けても、今回のチームにはならなかったと思う。そういうことを踏まえて、アジアカップに向けて強化を進めてもらいたいですね。ベテラン選手が一気にいなくなって、これからは新鮮で大変な半年になると思いますよ。


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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