新生なでしこジャパン。欧州遠征で見えた課題と海外移籍のススメ

COLUMN河治良幸の真・代表論 第101回

新生なでしこジャパン。欧州遠征で見えた課題と海外移籍のススメ

By 河治良幸 ・ 2021.12.15

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東京五輪でメダル獲得が期待されながら、ベスト8に終わった”なでしこジャパン”。新監督に、2018年のU-20女子W杯で世界一に導いた池田太氏が就任し、栄光を取り戻すべく、リスタートを切った。


2度の国内合宿を経て、11月下旬には初の海外遠征を行った。熊谷紗希(バイエルン・ミュンヘン)など5人の”海外組”を加えた中で、アイスランドに0-2、オランダとスコアレスドローに終わった。


上々とは言い難い結果ではあるが、池田監督が目指すスタイルのベースと現状の課題も見えてきた。


東京五輪にフル出場した、清水梨紗(日テレ・東京ベレーザ)が「太さんのサッカーの1番のテーマが奪う」と語るように、高い位置から組織的にボールを奪いに行き、素早くゴール方向に攻めることが基本テーマになっている。


”なでしこジャパン”と言うと、華麗なパスワークのイメージが強いが、身体能力やサイズにアドバンテージがあり、戦術も進歩している世界との戦いにおいて、それだけでは相手を圧倒するどころか、好勝負に持ち込むことも難しい。


池田新監督は女子サッカーの潮流を見ながら、日本の女子サッカーが世界に対抗するために、どう戦って行くべきかを模索しているようだ。その1つの回答という意味で、2試合のトライは興味深かった。


ボール奪取はできたが・・・


システムはオーソドックスな4-4-2だが、2トップをファーストディフェンダーとして中盤の4枚に加えて、ボールサイドではサイドバックが高い位置をとり、ボール奪取に参加する。アイスランド戦では、成長著しい相手に”ボールを奪う”部分では、手応えのある内容だった。


とはいえ、池田監督が「自陣から相手陣地に入るまではできたが、アタッキングサードで停滞感があった」と認める通り、ボール奪取からの攻撃に迫力を欠いた。


チャンスは作れたものの、相手を崩しきることができず、最後は屈強なセンターバックやGKに阻まれた。そしてミスパスから相手ボールになった直後やシンプルにワイドを使われた攻撃からピンチを招き、2失点を喫した。


1失点目は、日本のビルドアップでサイドバックが高い位置をとった状況で、中盤のボールロストからのカウンターだった。チャレンジという意味では仕方ない部分もあるが、相手のサイドアタッカーにボールを持たれた時にボランチが行くのか、センターバックがスライドするのか、その判断を明確に早くする必要がある。


個の力の差が失点につながる


2失点目はリスタートからの流れで、左サイドバックの宝田沙織(ワシントン・スピリット)と長谷川唯(ウェストハム・ユナイテッド)のポジションが入れ替わっている状況で、同サイドを破られた。


この場面はいくつかの課題が重なっており、改善していかなければ、今後も繰り返す可能性が高い形だった。


具体的には、2トップの一人が相手のアンカーを消しに行った時に、2人のセンターバックにワイドに開かれると、もう一人のFWがプレスの的を絞れなくなること。


そこを起点にアイスランドが右サイドを使ってきたところで、宝田のポジショニングが中途半端になり、後ろの長谷川も後手を踏む格好で、ボックス付近までボールを運ばれた。


最後はショートクロスを合わせられる形だったが、スピードあるFWビョルグ・ソルバルズドッティルの動き出しに対して、サイドを突かれた段階でセンターバックの対応が遅れたことも、1つの要因だった。


2失点に共通するのは、シンプルな1対1や走り合いになると、欧米トップクラスには太刀打ちできないこと。極論を言えば、世界基準のスピードがあり、デュエルに強い選手がボランチ、サイドバック、サイドハーフに揃っていれば、防ぐことはできただろう。


しかし、日本は”なでしこジャパン”レベルであっても、欧米のトップクラスを相手にした時に、そこで勝負することは不可能に近い。だからこそ共通理解を高め、予測や局面の対応で上回ることや、チームの狙いを明確にする中でミスを減らして行くことが重要になる。


進歩が見られたオランダ戦


続くオランダ戦はアイスランド戦の反省を踏まえて、スタメンが大幅に入れ替わった中で、組織面で前進が見られた。


しかし、前にボールを運ぶことはできても、相手ディフェンスの背後を取る、逆を突くシーンは少なく、最後は跳ね返されてしまうシーンが続出した。守備は失点こそしなかったが、プレスがハマりにくくなる時間帯で、シンプルな展開からギリギリの対応を迫られるシーンがあった。


キャプテンに指名された熊谷の獅子奮迅の働きなどで、ゴールを破られることはなかったが、オランダはチーム事情でフルメンバーを招集できず、エースのフィフィアネ・ミデマーなどの主力を呼べないばかりか、初招集の選手が多かったことを考えれば、勝つべき試合だった。


「率直な感想としては、勝たないといけない相手だった」と語る熊谷は、奪ったボールを前進させ、効率よくフィニッシュに持ち込む部分に課題があったことを指摘しつつ、リヨンで欧州制覇を経験し、現在はドイツのトップレベルで揉まれる一人として、個人の対応力にも言及した。


「(相手の)足の伸びやスピード感は、正直慣れというか。私なんか毎日戦う場所がそうで、その中で慣れていったのはあるんですけど、やっぱりここで知れたことというか。相手が少しボールを運んだだけで離されるとかは守備でもあった」


新戦力のアピール


個人能力の差を補うためには、”なでしこジャパン”の活動で戦術面をブラッシュアップさせるだけでは、明らかに足りない。今年スタートしたWEリーグの成長にも期待がかかるが、”なでしこジャパン”の主力を目指す選手に関しては、熊谷や岩渕真奈(アーセナル)が経験しているような、女子チャンピオンズリーグに出るような主要リーグ、クラブで揉まれる必要もあるのではないか。


今回の欧州遠征では、WEリーグで首位を走るINAC神戸から杉田妃和、中島依美、山下杏也加と言った主力が招集されておらず、池田監督のもとでU-20女子W杯を制した、”池田チルドレン”が経験を積む機会になった。


オランダ戦では林穂之香(AIKフットボール・ダーム)と長野風花(マイナビ仙台レディース)のボランチコンビがアピールし、怪我の影響でA代表に絡めなかった乗松瑠華(大宮アルディージャVENTUS)が、所属クラブの本職ではない左サイドバックで存在感を示したことも大きい。


しかし総合的に考えると、世界基準での不安要素は大きく、ここからの選考でベストメンバーを探って行っても、それだけで世界との差を埋めることは難しいだろう。


海外移籍のススメ


海外移籍は生活面でも大きな決断で、欧米のそれなりのクラブに移籍しても、男子ほどの待遇は見込めない。そのような環境での挑戦になることから、個々のチャレンジを他人が無理強いするものではない。


しかしながら、日本の女子サッカーが高みを目指す上で、現状を考えると”なでしこジャパン”の主力を目指す選手たちが、世界レベルの猛者たちとしのぎを削る環境にいない実情は、重く受け止めるべきでもある。


熊谷キャプテンに”個人的な願い”を聞くと「WEリーグに盛り上がってほしい気持ちはすごくあります」と語りながらも、少し間を置いて「やっぱり、みんなチャレンジすればいいのにと思っています」と回答した。


「自分自身が10年ヨーロッパでやっていて、日本では感じられない出来事、もちろんプレー面でも多くですけど、本当にいろんな部分で感じてきたので。行けるんだったら、みんな行けばいいのになとは思っています」(熊谷)


日本人の身体能力やサイズを、世界基準にすることは難しい。しかし、そうした環境の中でいかに戦い、特長を発揮して生き抜くかという個人の挑戦、サバイバルによって、現在の”なでしこジャパン”に足りないものをつかむことができる環境が海外にはある。


WEリーグがベースアップすることなど、その差を埋める努力は間違いなく必要だが、次の女子W杯、さらにパリ五輪で上位進出を目指すにあたり、個人のプレー環境を変えていくことが不可欠だと、観る側からも思えた今回の欧州遠征だった。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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