河治良幸×清水英斗 現地対談(10)「どうだった? ロシアW杯」

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河治良幸×清水英斗 現地対談(10)「どうだった? ロシアW杯」

By 清水 英斗 ・ 2018.7.15

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1ヶ月に渡って熱戦が繰り広げられたワールドカップも、フランスとクロアチアの決勝戦を残すのみとなった。開幕から現地で取材を続ける河治良幸氏と清水英斗氏は、決勝の行方ならびに今大会をどう見ているのか? 好評対談の最終回をお届けします。


清水:いよいよワールドカップも大詰めということで、決勝戦を前に、ロシアワールドカップを改めて振り返りたいと思います。


河治:勝ち上がってきたのは、フランスとクロアチアでしたね。


清水:どちらかと言えば、似たタイプの2チームかな、という気はしています。準決勝は2試合とも構図が似ていました。ポジショナルプレーやパターン戦術を得意とするチームと、システムや形よりも局面の連係で柔軟に対応していくチームの戦い。前者はベルギーとイングランドで、後者はフランスとクロアチア。結果的には後者の2チームが勝ち上がりました。


河治:フランスは「ベルギーがこう来たら、こうする」という対応で、最初の1回はピンチになるんだけど、その後にポグバのポジショニングでフェライニに付いて行くとか、デ・ブライネに対してはグリーズマンがカンテと縦に挟んで奪うといった形で対応していましたね。ベルギーは中盤のフェライニやヴィツェルがパスをさばく感じではなく、ムニエも出場停止でした。デ・ブライネやアザールがポジションを変えて仕掛けるんだけど、フランスは対応していました。先制点がうまく入ったので、カウンターをねらいつつ。


清水:ベルギーの戦術は面白かったし、フランスの柔軟な対応力も見事でしたね。


河治:もうひとつの準決勝、クロアチアはイングランドに先制される展開になってしまったんですけど、追いついて延長戦に持ち込みました。今大会、延長戦での初ゴールでしたね。ずっとPK戦にもつれていたので。


清水:クロアチアは3試合連続で延長を戦って決勝までたどり着いた、史上初のチームになりました。


河治:クロアチアは同点に追いついた後も、モドリッチを起点にチャンスを作っていました。同点ゴールはモドリッチがワンツーからチャンスを作って、その直後にサイドチェンジからペリシッチがカンフーキックみたいな形で決めた。イングランドのトリッピアーが、ファーサイドのクロスの対応があまり得意じゃないので、そこを外してウォーカーの前に入っていきました。びっくりして、うまくクリアできませんでしたよね。


清水:DFはクリアするとき、フリーだったらその場でボールを待つ習性がありますからね。向かって行くと、コントロールを失敗するリスクがあるから。その隙をペリシッチが突いた。

 

河治:特にファーサイドは、DFが待っちゃいますからね。


「今大会、2-0から逆転されたのは日本だけ」(河治)


清水:後半のイングランドはクロアチアの攻撃を受けすぎたかな? という感じがしました。


河治:それはあると思います。1-0で行ける感じになってしまった。この大会は2-0から逆転されたのは日本だけで、それ以外は逆転どころか同点にもなってない。だからイングランドは2点目を入れて仕留められれば良かったんですけどね。リンガードやスターリングがスペースをうまく使って、クロアチアが疲れている中で攻めて、前半から後半の頭にかけては、うまく突けていたと思うんですけど。


清水:イングランドはストーンズから始まるポジショニングが面白かったですね。彼が最終ラインから一つ前に入って、ヘンダーソンと共にラキティッチとモドリッチを前に引っ張り出し、クロアチアの中盤を間延びさせていました。過去の試合でもそうでしたけど、クロアチアはアンカーのブロゾビッチがセンターバック前に蓋をするポジションを保つので、そこを捨てて前に出てこない。結果、リンガードが空いて、ビルドアップの縦パスも、ピックフォードからのロングキックも、このスペースでボールがオンになっていた。前半はイングランドの戦術がすごくハマったので、楽勝ムードが漂いすぎたように思いました。


河治:イングランドの2点目が入らないところから、クロアチアが盛り返しましたね。クロアチアは体力的に厳しいのは明らかですけど、時間が経つにつれて一つ一つのプレーが研ぎ澄まされていきました。モドリッチとラキティッチの質が高いので、疲れているなりに運んで行きながら、ペリシッチとレビッチがスプリントで絡むという。後からスプリント回数を見たら、過去2試合より増えていたんですよ。これには驚きました。マンジュキッチもセンターフォワードで難しそうでしたけど、仕事をしましたし。


清水:いつの間にか、受け身のイングランドを押し込む展開になっていましたね。


河治:同点ゴールを入れられてからは、イングランドは何をしていいのかわからなくなりましたね。特にラッシュフォードが入ってから。


清水:イングランドはセカンドプラン以降が希薄でした。


「フランスは叩きのめしに行くのではないか」(清水)


河治:クロアチアのようにボロボロの中でも勝ち上がったチームが、決勝もドラマを起こすのか。フランスにあっけなく破れるのか。クロアチアが決勝に勝ち進むのは歴史的なことです。人口400万人の国で、すごいなと思いますね。


清水:フランスは叩きのめしに行くんじゃないですかね。イングランドの轍を踏まないように。


河治:そう思います。


清水:変に相手に合わせると、イングランド戦のように、後半に盛り返される恐れもあります。フランスは準決勝でベルギーに勝ったのに「アンチ・フットボール」呼ばわりされた借りがありますし。ひっくり返す意志のエネルギーから言っても、コンディション差から言っても、叩きのめして強いフランスを見せようとするんじゃないかと。


河治:アンチ・フットボールと言われても、カウンターでGKクルトワと何度も1対1になっているので、それもサッカーなんですけどね。フランスが完全な勝利をねらうところに、クロアチアが隙を見出だせるのか。全体的にはフランスのほうが有利だと思うけど、どうなるかですね。


清水:ところで、アンチ・フットボールって、好きな言葉なんですよ。僕。


河治:逆に?


清水:大好きです。サッカーの自由さが表れているというか。本当にガチになればなるほど、サッカーってつまらない戦い方ができるんですよ。試合を殺すこともできます。でも、そこに踏み込まず、理想や哲学をフットボールに求める人もいて、それは思想の戦いになるわけです。


河治:なるほど。そう考えると、ベルギーはそういうやり方にならざるを得なかったのかもしれません。堅い試合になればなるほど、フランスのほうが強いから。


清水:基本的には、負けた側の腹いせです(笑)。でも、「アンチ・フットボール」とか、こんな言い方をするのは、思想、哲学的な面が表れるサッカーくらいでしょう。アンチ陸上とか、アンチ水泳とか聞いたことあります? そんな走り方やそんな平泳ぎはアンチだ! みたいな。


河治:ないですね。


清水:ルールが白黒付けて、失格になるだけですよね。ところが、そのグレー部分に何でも言えちゃうところが、サッカーを人気スポーツにしていると思うんですよ。だから妥当かどうかではなく、アンチ・フットボールという言葉は面白い。これほど人間の個性が出るスポーツは他にないなと。


河治:そこが、時に勝敗や運命も変えてしまうかもしれないからね。


「アンチ・ポジショナルはデュエルの強さがあってこそ」(清水)


河治:今大会の傾向としては、期待されているチームの特徴を叩きのめしたチームが勝ち上がって行くこと。もう一つは、ポジショナルプレーを先鋭的に出すチームの中で、それを逆に突くチームが出てきたこと。アンチ・ポジショナルというか、ポジショナルプレーの概念を知らないわけではなく、知った上で、対抗手段を出していくと。シメオネのアトレチコ・マドリードもそうだし、メキシコのドイツに対する攻撃もそうでした。


清水:アンチ・ポジショナルはデュエルの強さがあってこそ、ポジショナルを破壊することができます。まさにフランスがそうで、ベルギーがフェライニを中盤から外してファーに飛び込むポジションを取らせたとき、ポグバがそのまま下がりました。それで対応できちゃうのは、フランスのデュエルの強さですよ。


河治:そうですね。


清水:あとは2010年スペイン代表、2014年ドイツ代表と、王者にはグアルディオラの影響を受けた選手がたくさんいたけど、今回の決勝に残った2チームはそういう選手が少ないですよね。逆に、グアルディオラの影響を受けたチームと日頃戦っている、ライバルチームの選手が多い。ちょっと面白いなと。決勝が楽しみです。


河治:みんなドラマ性が好きだと思うので、クロアチアを応援する人が多そうかな。元々フランスを応援している人以外は、クロアチアに肩入れする流れになっていると思うけど。とはいえフランスも、エムバペとかスター性のある選手もいるからね。


清水:個人的には、フランス派の人はあまり見かけないですね。なんかフランスって、タレントがいて身体能力がすごいから、大枚はたいたチーム感があって。ゲームで言うところの、やたら課金して強化しまくった人(笑)。そりゃずりーよ、勝てねーよ、みたいな(笑)。


河治:それがちゃんと真面目に、戦術を実行するからね。リリーフのエンゾンジもいるし(笑)。スタメンでいてもおかしくないレベルの選手を、リリーフで使える豪華さ。


清水:だからフランスは強いんだと。でも、20年周期でW杯の初優勝チームが生まれるジンクスに従うなら、優勝はクロアチアですよね。さて、どうなるか。


河治:フランスはまだ底を見せてなさそうですからね。フェキルやトヴァンと言った生きのいいアタッカーもサブにいて、彼らはラッキーボーイになる体力を余しています。前回大会で、ドイツに決勝ゴールをもたらしたゲッツェのように。一方のクロアチアは、もう出し切ってる(笑)。カリニッチも初戦で追放されているし。


清水:…戻ってきたらどうですか?


河治:面白いです。登録上はたぶん可能なはず。すごく反省して丸坊主になって戻ってくるとか(笑)。


清水:それもドラマだなあ(笑)。帰ってきた、カリニッチ!


河治:びっくりですよ。大どんでん返し。


清水:決勝はクロアチアの奥の手に期待しましょう(笑)。


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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