河治良幸×清水英斗 現地対談(9)「ロシアW杯の日本代表総括と4年後に向けて」

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河治良幸×清水英斗 現地対談(9)「ロシアW杯の日本代表総括と4年後に向けて」

By 河治良幸 ・ 2018.7.8

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日本代表はベルギーに敗れ、ラウンド16で姿を消した。大会前の予想を覆す躍進だったが、ベスト8に進むためには何が必要なのか? 現地で取材を続ける河治良幸氏と清水英斗氏が、日本代表の戦いとこれからについて語り尽くす。



河治:今大会の日本は、「ベスト8」という大目標はベルギーに逆転負けをして果たせませんでしたが、決勝トーナメント進出という結果は出しました。各試合の内容については、前回までの対談を読んでもらえればと思いますが、サッカー自体は「ボールを繋いで攻める」という型にはまったものではなく、コンビネーションやクイックネスを発揮し、カウンターからゴールを奪うこともできました。一方で、ベルギーのフィジカルの強さと高さを活かしたパワープレーは止められなかった。ベルギー戦の3失点目、コーナーキックからのカウンターの対応もあれで良かったのかなど、課題はたくさん残りました。


清水:はい。


河治:とはいえ、決勝トーナメントにたどり着いて、ベルギーを相手に2−0でリードするところまで行ったからこそできた経験であり、得ることができた課題だったとも言えます。ハリルホジッチ前監督が解任された時に、田嶋会長が「勝つ可能性を1%でも2%でも上げるため」と言っていましたが、個人的には監督を代えたことで、勝つ可能性は下がると思っていました。そんな中で西野さんが率いたなりに、ベストに近い結果ではあるかなと思います。


清水:戦術的にはベストに近いものを出しましたよね。あくまで、1つのプレーモデルとしては、ですが。それはザックジャパンの追試的なものがあって、ほぼそのメンバーでいい結果を出した。もちろん、ハリルホジッチが鍛えてきたメンバーも活きているし、攻撃時に相手の裏を狙う意思はちゃんと出ていました。いままでハリルホジッチが積み上げてきたものにプラスして、選択肢が増えた戦い方ができた。それを選手たちが望んでやったことが、今回のポイントだと思います。


河治:そうですね。


清水:一方で、監督を2ヶ月前に代えたことによる限界も見えた大会でした。時間がない中で、1つのプレーモデルは落とし込むことができましたが、相手が想定外の戦い方をしてきたときに、どう対応するかという「プランB」を作るまではいかなかった。戦術ではなく、戦略面での稚拙さは否めませんでした。ベルギー戦で2-0になったときにどう守るのか。想定していた戦略から外れる中で、どう対応していくか。そこは2ヶ月で作ったチームの限界が明らかに見えていました。スタメンの主力11人が固定化され、ターンオーバーもうまくできなかった。戦術の理想と戦略の限界の、両方が出た大会でしたね。


河治:グループリーグ3戦目のポーランド戦はさておき、試合の流れとしてはスタートのメンバーがいて、交代選手は毎試合ほぼ同じでしたね。


清水:本田や岡崎を入れて、柴崎が疲れてきたら山口に代える。交代カードは、ほぼ同じか、単純なものでした。


「ザックジャパンの追試になった。やるべきことが4年後に持ち越された」(清水)


河治:コロンビア戦で開始直後にPKで先制し、相手が10人になりました。それもあって、勝ち点3を取ることができて、決勝トーナメント進出につながりました。この試合がうまく行き過ぎた部分もあり、ある種ボロが出るのが先送りにされたというか…。それが露呈したのはベルギーに2-0でリードし、史上初のベスト8が決まるかという段階からでした。大会前の目標だった決勝トーナメントには進出できて、ベルギー戦も一時は2-0でリードするところまではいった。はたから見れば成功かもしれませんが、この大会で出た課題をしっかり追求していかないと、お祭りで済まされてしまう怖さがあります。


清水:長所を先鋭化すると、これだけやれるのはわかりました。ただ、4年前の監督選定に立ち返ると、ザッケローニの失敗を経て、「W杯を経験したことのある監督を呼ぼう」となったわけですよね。それでアギーレを呼び、ハリルホジッチを呼んだ。W杯経験監督による、W杯仕様のチームで臨むはずだったのが、直前の監督解任によって、ないものになってしまった。むしろ「スタメンの11人を固定しよう」という、ハリルとは真逆のスタンスですよね。結果的にザックジャパンの追試のような形になり、本来、今回やるべきだったことは、4年後に持ち越されてしまいました。


河治:4年前に比べると、選手はそれぞれ経験を積んでいます。選手のクオリティというか、対応力、反発力といった部分で、個の能力でやれるようになったのは当たり前の話で。


清水:そう考えると、4年ではなく、8年かかるプロジェクトだったんだなと。だったら、ブラジルW杯後にザッケローニ続投でも良かったわけですよね。この辺りのチグハグ感は否めない。


河治:ロールプレイングゲームであれば、主人公が経験値を溜めて、再度同じ敵に挑むことができますが、代表チームにはサイクルがあります。主力の年齢を考えても、世代交代せざるをえません。


清水:フィジカル的な衰えは、どうしても出てきますからね。


河治:しかも相手も進化するので、待ってはくれない。今回、ラウンド16でベルギーに勝つ直前まで行ったからといって、次はベスト8に行けるかというと、そんな簡単なことではないですよね。たとえば、ルーマニアは1994年のアメリカ大会でベスト8に行きましたが、98年のベスト16を最後に、5大会連続でW杯に出ていません。


清水:日本はどうなるかはわかりませんが、今大会が今の世代のピークだとしたら、サイクル的に、次は落ちざるをえないんですよね。


河治:ルーマニアにしても、2004年の欧州選手権でベスト4に進出したチェコにしても、タレントが揃って結果を出した、次の時代に落ちるサイクルが来るんですよね。チーム力は、必ずしも右肩上がりにはならない。


清水:主力が固まると、次世代の選手がなかなか出てこられませんからね。それは代表チームに限らず、クラブチームでも、高校サッカーでもあります。すごくよかった時代が終わって、低迷するという。次世代の選手が試合を経験できなければ、そうなりますね。


河治:チェコの主力だったネドベドやロシツキが、日本でいう本田や香川なのかはわからないですけど、これから日本は難しい時代に入るかもしれません。ただ、楽しみな若手がいないかというと、全然そんなことはなくて。中島翔哉しかり、堂安律しかり。彼らのようなタレントが、代表チームのサイクルの中で戦える選手として育つかどうか。そこは楽しみです。


清水:彼らを生かすには、西野さんのサッカーを少し調整する必要があるかもしれない。それもやって欲しいですね。


「東京五輪世代の突き上げがないと苦しい」(河治)


河治:2022年のカタールW杯までの途中に、東京五輪というビッグイベントがあります。強化スケジュールやメンバー構成を、A代表の監督と五輪代表の森保監督がどうすり合わせていくか。ロシアW杯のメンバーには、リオ五輪世代が大島僚太、植田直通、遠藤航、中村航輔の4人しかおらず、出場機会が1試合もありませんでした。


清水:なかったですねー。前回のブラジルW杯のときに、ロンドン五輪のメンバーはもう少し試合に出ていましたよね。山口蛍や大迫、清武も少し出ました。


河治:香川も世代としては、ロンドン五輪世代ですからね。今回、出場機会がなかった4人が、次のW杯の主力にならないといけないですし、東京五輪世代の突き上げがないと、相当苦しいですよ。


清水:協会はそれを望んでいるはず。五輪監督の森保さんをA代表の監督と兼任という案が出ていたのも、東京五輪が大事だからですよね。A代表に抜てきして、五輪のタレントを磨くために。五輪は自国開催で、重要度がこれまでとは比べ物にならないから。


河治:4年のサイクルとして見ると、最終的な目標は2022年のカタールW杯です。これまでどおり、W杯を最大の目標にするのか。それとも2020年の東京五輪でメダルを取りに行くために、五輪代表に強化を注力するのか。そこが難しいですね。


清水:そこははっきりしてほしいところですよね。まあ、はっきりしづらいのかもしれないけど。


河治:来年6月にブラジルで開催される、コパ・アメリカにA代表と五輪代表のどちらで出るかも決まっていないですよね。そもそもA代表の監督が誰になるのか。前回の対談で西野さんは、慰留されたらやるんじゃないかと言いましたけど、実際は「大会前から2ヶ月だけだった」という田嶋会長の発言がありました。


清水:それも怪しいですけどね。本当は続投させる考えもあったのかもしれません。だけど、女性スキャンダルだなんだと嗅ぎ回られるリスクもあって、やっぱりやめたのだと個人的には思います。最有力候補として、クリンスマンの名前が出ていますが、彼の良し悪しは別にして、技術委員会の中でさまざまな意見が出て話し合っているのがわかり、少しホッとしました。


河治:代表監督が日本人なのか、外国人なのかという議論はナンセンスで、優秀な人なら当然、日本人でもいいわけです。ただ、優秀と言っても色々あって、代表監督としての国際的な経験値も入って来ます。


清水:誰というよりも、プロジェクトで判断してほしいですね。ハリルホジッチを霜田前技術委員長が呼んだ時には、交渉のテーブルで、ハリルが日本の進むべき道をプレゼンしてきたと。それを聞いて決めたという流れがあったので、そういう具体的なプロジェクトを元に決めてほしいですね。特にクリンスマンは、そこが得意なマネージャータイプの監督ですから。


河治:では最後に、東京五輪世代で、誰がA代表に入ってくることを期待しますか?


清水:柏レイソルの中山雄太を、センターバックよりボランチで期待したいですね。正確な配球も、守備もできる選手ですから。河治さんは?


河治:堂安ですね。彼が世代のエースとして引っ張ってくれて、そこに誰が乗っかってこられるか。彼は東京五輪というよりも、その前にA代表に入るべき選手だと思います。東京五輪に専念するためにA代表には呼ばないみたいなのは、堂安クラスの選手にはやめてほしい。


清水:そうですね。レベルの高い選手はA代表に呼ぶべきです。


河治:ほかには、久保建英(FC東京)なのか、三好康児(札幌)なのか。楽しみなタレントが多い東京五輪の世代ですが、堂安には経験値やプレー面では、オーバーエージぐらいになってもらわないと困るというか。久保がA代表に入るのは楽しみにしていますが、背負わせすぎないというのは釘を刺しておきたいですね。まずはトップレベルでしっかり活躍すること。海外のクラブでどうこうという前に、FC東京でしっかり活躍してほしいなと思います。


清水:FC東京で活躍できるかは難しいですけどね。スタイルが合わないから。


河治:レンタル移籍した方がいいんじゃないかという声もありますが、これを乗り越えたら大きくなるとは思いますけどね。


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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