女子代表の新監督は国際的な潮流を把握し、チーム設計ができる人物を!

COLUMN河治良幸の真・代表論 第94回

女子代表の新監督は国際的な潮流を把握し、チーム設計ができる人物を!

By 河治良幸 ・ 2021.9.1

シェアする

東京五輪でメダル獲得を目指した日本女子代表は、準々決勝でスウェーデンに3-1で敗れて大会を終えた。


「五輪まで1年半、海外の強豪と試合ができず、(五輪では)初戦から相手のスピード、パワーを受けて立ってしまった。エンジンがかかる世界の強度に対応できてきたところで、試合が終わってしまった」


東京五輪まで5年間チームを率いた高倉麻子監督は、任期満了による退任が発表された会見でこうまとめた。


グループステージではカナダと1-1、イギリスに0-1で敗れ、3試合目はチリに1-0で勝利して、1勝1分1敗、3位の成績で決勝トーナメントに駒を進めたが、金メダル候補のアメリカに完勝するなど、勢いに乗っていたスウェーデンと対戦する羽目になった。


スウェーデン戦は3-1という結果以上の差を痛感させられる完敗だった。高倉監督が主張するように、引き分けたカナダ戦も含めて、FIFAランキング下位のチリを除く3カ国との対戦では、確かにサイズやフィジカル、インテンシティの差はあった。


しかし、本質的な問題がそこだと筆者は考えていない。試合の中に現れていた差を、スウェーデン戦の立ち上がりのシーンから解説したい。


スウェーデンとの明確な設計の差


日本は4-4-2を基本システムとして、連携連動の強化を進めてきた。オプションに4-2-3-1があり、大会前に4-3-3を導入したが、基本は4-4-2の3ラインをベースにしながら、できるだけ高い位置でプレッシャーをかけてボールを奪うことが主体となっている。


しかし、スウェーデン戦の立ち上がりから、相手との設計面の明確な差が現れていた。


スウェーデンは4-2-3-1をメインにしており、この形は全ての試合で継続されていた。しかしキックオフ時に、日本の守備の立ち位置を見ながら、前からはめさせない立ち位置でビルドアップしてきた。


開始1分、日本の左サイドバック宮川麻都の縦パスが流れて、スウェーデンのGKリンダールがマイボールにする。


攻撃から守備に切り替えた日本は2トップの岩渕真奈と田中美南がフラットの関係でプレッシャーをかけようとするが、スウェーデンは4バックのうちセンターバックの2人と左サイドバックのエリクションがワイドにスタンスをとり、右サイドバックのグラスは高い位置にポジションを上げた。


前に出られない日本に対して、GKリンダールが左センターバックのビョルンと右センターバックのイレステッドの間まで、ボールを持ったままポジションを上げる。そうすることで、4対2の数的優位を作った。


中盤を空けさせられた日本


こうなると、日本は岩渕と田中がそれぞれ左右に二人をチェックしなければいけなくなる。岩渕はGKにプレッシャーをかけながら外に開き、受け手のイレステッドにチェイシングするが、間に合わずに前を向いてボールを運ばれた。


それに対するスウェーデンの立ち位置が巧妙だった。


高めのポジションを取っていた右サイドバックのグラスがフリーで縦パスを引き出す構えを見せたので、左サイドハーフの杉田妃和がチェックに行く。


そして岩渕と田中の間に生じた広大なスペースに、経験豊富なボランチのアンゲルダルが下りてくる。そうなると日本はボランチの三浦成美が前に出て、アンゲルダルのチェックに行かざるをえないので、もう一人のボランチ・中島依美とは縦ズレの関係になっていた。


中盤が完全に空き、日本はボールホルダーにプレッシャーが十分にかかっていない状況で、4バックを押し上げる必要が生じた。このタイミングをスウェーデンは逃さなかった。


開始早々に決定機を献上


イレステッドが裏にボールを蹴ると、右ウイングのヤコブションとセンターフォワードのブラックスタニウスが縦に走る。


左ウイングのロルフォがサイドに開いたポジションを取ることで、右サイドバックの清水梨紗を開かせ、結果的に守備の要である熊谷紗希が誰もマークできずに浮いてしまった。


そして、下がりながらの対応になった左サイドバックの宮川は完全に遅れ、取り残されてしまった。その結果、センターバックの南萌華より前に抜け出たヤコブションが、GK山下杏也加と事実上の1対1を迎えた。


そして、浮いたポジションから懸命のカバーに来る熊谷をブラックスタニウスがショルダーでブロック。ヤコブションは決めるだけという状況だったが、山下が最善のポジショニングでプレッシャーを与えたことで、シュートはゴールの左に外れた。


シュートは外れはしたものの、立ち上がり2分という早い時間にスウェーデンが先制してもおかしくない場面だった。


結果的にスウェーデンの先制ゴールは7分に生まれるのだが、日本に守備ではめさせず、自分たちのペースに引き入れて試合を進めた成果だった。


フィジカルの差で済ませていいのか


なぜスウェーデンの攻撃を詳しく描写したのかというと、欧米の強国は戦術的な設計をチームで共有し、そこに選手のアイデアや特長を上乗せしていることを伝えたかったからだ。


もし日本が事前のスカウティングと異なるポジションを取れば、スウェーデンも違ったメカニズムで組み立ててきたはずだが、この試合は設計面で完全に上回られていた。


もう1つ明確な差になっていたのが、ボールを奪った直後のファーストパスのスピードと選択だ。スウェーデンは日本からボールを奪った直後に、必ずと言っていいほど前方でフリーになっている選手に速いパスを出していた。


一方の日本はボールを持つと、まず近くの味方にさばいてリズムを作ろうとしていた。カウンターを狙うシーンもあったが、一本の裏抜けが目的で、高い位置で攻撃の起点を描けているようには見えなかった。


スウェーデンの選手と日本の選手では、ボールを蹴る速さやレンジ、長距離の走力に差はあるが、日本の選手たちでも十分に可能なはずのトライも、なかなか見られなかった。


そのような戦術設計、そして攻守の切り替わりから全体像の共有といった差に関して、走るスピードやコンタクトのパワーなど、フィジカルやインテンシティの差で済ませて良いのだろうか。


もちろん個人能力を上げていくことは必要であり、相手の強度に慣れることも大切だ。しかしチームとして戦うにあたり、ベースの部分で欧米の強国に遅れを取っている事実を認識する必要がある。


高倉監督の後任に関しては日本人でも外国人でも良いが、今回挙げたように、国際的な潮流に向き合ってチームを設計できる監督を招聘しなければ、ますます世界との差は開いていく危険性がある。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

シェアする
河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

このコラムの他の記事