ポゼッションとショートカウンター。横浜FCが実践する、現代サッカーの『弱者の兵法』

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第115回

ポゼッションとショートカウンター。横浜FCが実践する、現代サッカーの『弱者の兵法』

By 清水 英斗 ・ 2020.10.1

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あっぱれ、横浜FC。J1リーグ第19節の浦和戦(2-0)はまさに会心の勝利だった。


おそらく今季は私を含め、多くの人が横浜FCを自動降格圏内に予想しただろう。リーグ戦を客観的に見たとき、『弱者の兵法』というのは確実に存在するし、その兵法によってランクをひっくり返すような戦いを創造するのは、まさにサッカーの醍醐味である。


横浜FCにとって今季は、そうした下馬評を覆す『弱者の兵法』へのチャレンジとも言えた。


ただ、そうした兵法も昔とはイメージが変わったというか、自陣に構えてロングカウンターをねらっていくのが、昔ながらの『弱者の兵法』だとすれば、横浜FCの姿はそれとは大きく異なる。真逆の戦法だ。


ロングカウンターなどねらわない。ボールを大事にし、自陣からしっかりとポゼッションし、丁寧に前進して行く。球際のフィジカルやスキルの差を出させないために、もっとも確実な方法はボールを渡さないこと、相手に触らせないことだ。


チームの中心・手塚康平


今季の横浜FCは中断明けの2節から、ポゼッションにこだわってプレーする様子が顕著に見られていた。序盤こそ結果はついて来なかったが、そうしたチャレンジを信じて続けた成果というか、今ではさまざまな場所から縦パスが入り、ボールがテンポ良く動く。そのため、対戦した浦和もプレスの的を絞ることができなかった。


特にすき間にポジションを取ってパスをさばく、手塚康平の技術は圧巻の一言で、ボランチとして360度のプレスを受けやすい状況にある彼が、圧縮しようとする浦和のプレスの先手を取り、縦パスを通して行く。チームの芯に位置する彼が、相手を振り回すポゼッションの中継点として抜群の作用を施した。


守備面においても、安易に自陣に構えたりはしない。高い位置からプレッシングの網を張り、ショートカウンターを積極的にねらっていく。8節の広島戦までは3バック(3-5-2の中盤逆三角形)を採用していたが、9節から現在の4-4-2に変更し、そこから結果も上向いている。


4バックへの変更が奏功


攻撃はポゼッションしながらいくらでも形は変えられるので、システム変更の影響はそれほど大きくはないが、より大きな変化があるとすれば守備だろう。コンパクトに固まりやすい4-4-2で守備をすることで、プレスをかけたとき、中盤のすき間で相手の縦パスを引っ掛けやすくなった。


浦和戦の前半16分に挙げた、松尾佑介の先制ゴールが典型的だが、プレッシングで相手GK西川周作を追い込み、縦へのミドルパスを中盤で引っ掛ける。そこからショートカウンターが発動し、松尾は見事なミドルシュートを決めた。


ゴールへの距離が長くなればなるほど、相手を抜いたり、外したりと、攻撃のスキルがより多く必要になる。結局、そういうスキルを持つ選手がいなければ、ロングカウンターは『弱者の兵法』として成り立たない。


そんな選手を保有しづらいからこそ、下馬評が低くもなるわけで、ロングカウンターを軸に据えるのは、弱者の兵法として自己矛盾をはらみがちだ。横浜FCが4バックに変えた後、ボールを奪う状況が変わってショートカウンターを発動しやすくなったのは、大きな変化だろう。


スピードスター・松尾を生かす戦法


「ロングカウンターなどねらわない」と先には書いたが、正確に言えば、序盤の3バック時の横浜FCは、スピードスターの松尾を生かすロングカウンターの形は見られていた。ところが、ウィングバックからの突撃では、やはり距離が遠すぎるため、相手の守備チャンスが多く、警戒され始めるとあっという間に効果を失ってしまう。


その意味でもシステムを4バックに変え、松尾を左サイドハーフに移したことで、ボールを奪った瞬間に彼がボールよりも前方に立てる場面が増え、背後への一発の抜け出しでゴール前を陥れるようになった。ハイプレスだけでなく、高めのラインでミドルゾーンに構えた守備からのミドルカウンターでも、そうした場面を生み出せるのは大きなメリットだ。



3バックからセンターバックを2枚に減らして、それらのメリットを享受するためには、ビルドアップでも守備でも、そのエリアを2人で任せられるセンターバックが不可欠だが、その意味では、8月に伊野波雅彦が復帰したのは大きかった。足下のスキルに長けたDF小林友希もスタイルに合う。やはりセンターバックとボランチという基盤が安定すると、チームは様々な顔を見せることができる。


戦術と戦略が一体となったクラブは?


ポゼッションとショートカウンター。横浜FCが実践する現代サッカーの『弱者の兵法』は、とても魅力的で、とても効果的だ。


もちろん、リスクはあるが、あえてそこに踏み込むことで、大きなリターンを得られるのもサッカーである。打たれっぱなしで少々のリターンを頼りに耐え続けるくらいなら、自分から動くほうが健康的だ。現代人の気質的にも、そうした考え方のほうが合っているかもしれない。


昨季の大分トリニータにせよ、今季の横浜FCにせよ、個人と個人の勝負に持ち込まれると、どうしても強化予算の差が出てしまう。立ち位置を工夫しながら、いかに11対11の戦いに広げて、集団で上回るか。そんな駆け引きに長けたチームが、年々増えている印象はある。それはすばらしいことだ。


しかし、「チーム」だけが増えてもあまり意味はない。そうした強化予算やクラブのカラーに基づく兵法を「クラブ」が共有することで、はじめて持続的な成長は期待できるのだが、そこまで含んだクラブと言うと、まだJリーグには少ないのではないか。


短期的、中期的に良い戦いはできても、この監督がいなくなった途端、ぺんぺん草も生えなくなるようでは困る。刹那的なチームになる恐れを払拭し、戦略と戦術が一体となったクラブが増えることを期待したいが。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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