サウジアラビア戦はハリルジャパンの限界を感じた試合。ここからの積み上げはいかに?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第50回

サウジアラビア戦はハリルジャパンの限界を感じた試合。ここからの積み上げはいかに?

By 清水 英斗 ・ 2017.9.7

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まずはサウジアラビアに、おめでとう。


試合終盤の露骨すぎる時間稼ぎは、不快と言えば不快だったけど、これまでに中東チームで見られた『ベッドサッカー』に比べたら、幾分マシだった。ソファーサッカーくらい。少しずつ、改めてくれると期待している。


「サッカーは紳士のスポーツ」と言われたりするが、個人的にはニュアンスが違うと思う。


デッドマール・クラマー氏の言葉「サッカーは子どもを大人にし、大人を紳士にする」に表れるように、サッカーは紳士を“育てる”スポーツ。紳士しかプレーを許さないように、がちがちに縛ってシャットアウトするスポーツではない。


最近、イギリスでは女性専用車両を導入するアイデアが、「差別的」「問題の解決から逃げている」とさまざまな団体から批判されたが、発想は似ていると思う。サッカーも基本的には、根本的な解決をめざし、人間に自省を促す。もっとも、犯罪ならば即座に対処するルールも必要だと思うが、サッカーはスポーツ。理想を追ってもいい。ゆるい縛りの中で、リスペクトされる自分を表現するか、蔑まれる自分を表現するか。人間の余白があるから、サッカーは奥が深い。


プレーの質だけでなく、サッカーの質そのものがアジアで高まればいいなと、そんなことを感じたワールドカップ最終予選(3次予選)。サウジアラビアの歓喜と共に幕を下ろした。


マンマークスタイルの限界


さて、プレー面に話を移そう。サウジアラビア戦はマンマークの限界が表れた試合だったと思う。


オーストラリア戦は、相手のポジションが固定されており、大きく動かないので、マンマークでハメやすい試合。それに加えて、3バックと4バックのシステムの違いから、両サイドの乾貴士と浅野拓磨が、相手ウイングハーフとかみ合わずに浮く。


この2人がマークを持たずに中間ポジションで守備をすることで、ハイプレスのスイッチを入れたり、中盤をカバーさせたりと、全体のバランスが保たれた。局面的に崩されるシーンはあったが、この2人が高い位置にいることで、全体が下がらず、コンパクトさを維持できたことは大きい。


ところがサウジアラビア戦は、全員が人ばかり見ていた。左ウイングの原口元気も、右ウイングの本田圭佑も、相手サイドバックをマンマークして最終ラインまで下がってしまう。これでは中盤にスペースが空き、ずるずる下がらざるを得ない。


最終ラインに下がる本田


ただし、これをもって彼らの戦術理解が低いと言い切るのは早計。まず、相手のシステムが違う。かみ合った位置にいる相手サイドバックは、より気にしなければいけない。オーストラリア戦の乾や浅野とはケースが違う。


特に本田の場合、6月のイラク戦の前半、相手サイドバックに対して下がらず、前に残るため、パスを展開されて崩されることがあった。3月のタイ戦後も、「実は守備に問題があるのではないか」と、ウイングがマンマークで下がりすぎることに警鐘を鳴らす発言があった。


それなのに今回、本田自身がわざわざ最終ラインまで下がる守備をやったということは、ハリルホジッチの指示なのだろう。もしかすると、両者の意見が合わない箇所かもしれない。


また、オーストラリアとは異なり、サウジアラビアは中盤がかなり流動的にポジションを取ってきた。ウイングもボールを受けるために引くため、長友佑都や酒井宏樹はふらふらと追いかける。必然、空いたスペースに上がってくる相手サイドバックを、本田と原口がマンマークして下がらざるを得ない状況ができあがる。


マンマークで振り回される日本は、体力を消耗し、ポジションもぐちゃぐちゃ。そのすき間でプレーするスキルも、サウジアラビアは高かった。


基本的に、マンマークは流動性に弱い。サウジアラビアは、長友が、酒井宏が、あるいは山口蛍が、「どこまで追いかけるべきか……」と迷う位置まで動き、パスをもらって前を向く。そして、再びはたいてパス&ゴーで侵入。日本は捕まえきれずにどんどんフリーになる。6月のイラク戦を、もう一度見るような試合だった。正直に言ってがっかりした。


この敗戦が警鐘となるか?


ハリルジャパンは、このマンマーク中心の守備で本大会に行くのだろうか。それとも、「やっぱりこれじゃダメだろ」と敗戦で警鐘を鳴らし、新たな積み上げを開始するのだろうか。ハイプレス時はマンマークでもいいが、ミドルゾーンの守備では問題がある。それはオーストラリア戦もサウジアラビア戦も、基本的には一緒。


悩みどころはもう一つ。柴崎岳だ。彼は日本のポゼッションの質を改善した。しかし、失点シーンで守備タスクを果たせなかったのも柴崎だ。


後半18分、ゴールにつながるラストパスを出した18番ナワフ・アルアビドは、アンカーの山口の脇で縦パスを受け、フリーで前を向いた。オーストラリア戦なら、インサイドハーフの井手口陽介や山口が猛烈にプレスバックし、ボールを刈り取るところだが、柴崎はあまり後ろのスペースをカバーする意識がない。ほとんどの時間帯、前方の相手ボランチを見ており、この場面も柴崎の重心は前に行っていた。


井手口がボールサイドへ行っているのだから、反対側の柴崎が山口のラインまで斜めに下がり、自分の前にボールが出たら、もう一度斜めに出て行くのが、本来のインサイドハーフのセオリー。柴崎の動きはそれに沿っていない。


もちろん、オーストラリア戦の3人より、柴崎が入ったほうが攻撃の質が高くなったのは事実だ。あっちを立てれば、こっちが立たず。


連携構築がカギになる


柴崎の特徴を生かしつつ、中盤3人に両ウイングやサイドバックの修正点を加えて、柴崎の裏をフォローするバランスを構築できればいいが、何せ試合ごとにメンバーを変える監督なので、細かい連係を積み上げにくい。


オーストラリア戦もミドルゾーンの守備は不安定だったが、長谷部誠を中心に修正を施したことで、時間と共に井手口と山口が後ろで動く相手2シャドーをケアできるようになり、安定感を高めた。しかし、メンバーも配置も変われば、ご破算だ。ハリルジャパンは競争があっても、連係は育たない。あっちを立てれば、こっちが立たず。パート2だ。


伸びしろを期待したが、むしろハリルジャパンの限界を感じる試合内容だった。露骨に不安を味わったのも、ある意味では伸びしろと言えるかもしれないが。


これで最終予選が終了。ハリルホジッチが言う「第2段階」が終わった。チームの基盤が出来上がったことはわかる。


第3段階は、どうやってチームを向上させるのだろうか。現状のミドルゾーン守備に代表される問題を解決するためには、今までのチーム構築の手法では、うまくいかない気がしてならない。まずは10月、11月の強化試合。お手並み拝見といこう。(文・清水英斗)

写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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