酒井高徳のボランチ起用はW杯本大会に向けた策? ハリルジャパンに求められる、戦術的柔軟さ

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第39回

酒井高徳のボランチ起用はW杯本大会に向けた策? ハリルジャパンに求められる、戦術的柔軟さ

By 清水 英斗 ・ 2017.4.4

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先日行われた、FIFAロシアW杯アジア最終予選ホームのタイ戦。酒井高徳のボランチ起用は、今シーズンのハンブルガーSVを見ているか、見ていないかで、視点が大きく変わったはず。


「酒井がクラブでボランチもやっている」と聞いた人がタイ戦を見たら「全然ビルドアップできねえじゃん!」とガッカリしたかもしれない。


だが、そもそもハンブルガーでは、ビルドアップなんかしない。攻撃はロングボール主体で、ディフェンスラインから直接前線につける。ボランチ経由の組み立ては、ほぼない。それは酒井が守備的MFで起用されなかった試合も同じだ。


チーム戦術はハイプレス&ショートカウンター。ハイプレスに行けないときは、重心を下げてボールを奪い、ロングボールを放り込んで全体を押し上げ、落下地点におそいかかる。カウンターに失敗したら、そのボールは捨てても構わない。持っていても仕方がないからだ。つまり、ビルドアップはほぼゼロ。ハードワークに支えられたパワーフットボールを志向している。


スペースよりも人に行く傾向が強いのも、守備的MF酒井の特徴だ。ブンデスリーガ第24節ボルシアMG戦の後半35分、ハンブルガーはつなぎもへったくれもないパワフルな攻撃で、球際、球際と攻め続けた。そして酒井がペナルティーエリア近辺でボールを奪い返すと、すぐに右サイドからのクロスにつなげ、FWボビー・ウッドの決勝点が生まれている。


基本的にハイプレスをかけてこそ、守備的MF酒井が生きるわけで、タイ戦のように早々と2-0になり、前線の守備意識が薄くなった試合では、彼の良さはほとんど出ない。


動きすぎることによって高まる、コンビネーションの難易度


その背景があるので、クラブで『守備的MF』の酒井が、代表で『ボランチ』をうまくできなくても、まったく驚きはなかった。むしろ、ビルドアップは予想以上にうまくできたと思う。ボールを持った森重真人の前をふさがずにスペースを作るポジショニング、あるいは最終ラインの脇に下り、サイドバックを高い位置へ送り込むポジショニングなど、見よう見まねでよくやっていた。


それでもうまくいかない場面が多かったのは、動きすぎているからだ。


何をすればいいのか、どこに動けばいいのか。よく考えて動いているが、あまりに動き直しが多すぎる。「いち」のタイミングでパスが出て来ないと、酒井はすぐに動き直すが、そんなにバタバタと動かれると、周りもボールを預けづらい。たとえば、長友佑都が「いち」のタイミングで縦パスをねらって、ダメだから横パスで酒井へ……と思ったら、もうそこにいない。ボランチの場合は、バタバタせず、動かないことも大事だ。「動きすぎ」を改善すれば、周りを見る余裕が生まれ、ミスは減り、前を向ける回数が増えるはず。劇的に変わるんじゃないかと思う。


ただし繰り返すが、そんな課題が“ボランチ酒井”に出るのは、試合前からわかっていたこと。初体験であり、ハンブルガーでの経験が役に立たないからだ。それをもって「2度と酒井にボランチをやってほしくない」という結論には、もちろんならない。


タイ戦に向いていたボランチが長谷部誠であり、もっと言えば遠藤保仁だったことは同意だ。しかし、これから先の対戦相手はタイではない。イラク、オーストラリア、サウジアラビア。さらに見据えるなら、世界の強豪国だ。


酒井のスプリントや球際の強さは、長谷部を上回る。たとえば、ワールドカップでスペインと同組になったら? ブラジルと同組になったら? 最終予選のアウェー戦以上に、ボールを相手に持たせる試合になったら? 


世界に行けば、そんな試合で日本代表がハンブルガー同様にハイプレスを必要とする状況は、充分に考えられる。そして、そのときに守備的MFで酒井高を起用する選択肢を、捨てたくない。同時に長谷部をリベロに下げるアイデアもあるだろう。


そんなことも、あんなことも、たった1試合で見切っていいのだろうか。


戦術的柔軟さが、W杯本大会でのポイント


思い返せば、ブラジルワールドカップ敗退後に日本サッカー協会が出した反省点は、コンディショニングの失敗と、戦術的な柔軟性の欠如だった。


初戦のコートジボワール戦では、高い位置へ上がった相手の両サイドバックに香川真司や岡崎慎司が引っ張られ、自陣に押し込められてサンドバック状態になった。そんなとき3バックに変えて、かみ合わせをずらす戦術変更など、世界のチームは当たり前にやっているが、当時のザックジャパンには戦術の引き出しがなかった。


「ボランチとはこういうもの」「日本人に合うサッカーはこういうもの」と決めつけると、何も革新はない。原口元気や酒井高徳のボランチ起用のように「あれ?」というイメージの違いから新たな戦術が生まれ、柔軟性は高まる。ワールドカップではそういう要素が大事になると、ブラジルで思い知ったはずなのに。自分たちが経験してないものを「ダメ」と決めつけると、未来を想像できない。


私は守備的MF酒井高徳をあきらめない。直近5試合で3勝1分1敗と好調のハンブルガーを、一度見てもらうと、イメージがわくかもしれない。(文・清水英斗)



写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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